第17話 ゴブリンテイマー、強くなって増える

 ガリゴリガリゴリ。


 部屋の中。

 二匹のゴブリンが魔石をかみ砕く音だけがしばしの間室内に響く。


「何の変化も無いみたいですわね」

「見かけだけじゃわからんぞ」

「とりあえずステータスを見てみましょうか」


 僕がゴブトへ視線を向け、鑑定しようと意識を集中させようとしたその時だった。


『ゴブブブブブウウウウウ』


 突然ゴブトがその場にうずくまると、その体から黒い湯気のような物が立ち上った。

 かと思った瞬間、今度はその湯気が一気に逆再生のようにゴブトの体に吸い込まれ――


「な、何が起こったのだ」

「キャアッ」


 ボコッ。

 

「うわぁっ」


 どちらかと言えば細身だったゴブトの両腕、そして大胸筋が突然盛り上がる。

 続いて腰、そして足が一気に二倍ほどの大きさになったかと思えば、その顔にも変化が起こって行く。


 小さめだった目が少し大きくなり、顔立ちもルーリがかわいいと言った姿は既に無いほど精悍な物に変わっていた。

 何より特徴的なのが額に生えた一本の角。


「なんだこりゃ……こいつぁもうゴブリンなんてもんじゃねぇ。小型のオーガみてぇじゃねぇか」

「ああ、ゴブナちゃんも何か変化し始めました」


 ルーリさんの声で僕とギルマスの視線はゴブトからゴブナへ移る。


『ゴブゴブブゴブ』


 先ほどのゴブトと同じように、ゴブナからも黒い湯気のような物が立ち上がっている。

 しかし、ゴブトの時と違ってその湯気はゴブナの体に吸い込まれることは無いままどんどん湧き出していた。


『ゴギャアアアアア』


 ゴブナの絶叫に、僕たちは思わず耳を塞いだ。

 だけど、その叫びと同時に湧き上がっていた湯気がゴブナの隣りで一つの大きな塊を作り出した。


「今度は何が始まるんだ!」

「わかりませんよ。僕だってこんなこと初めてなんです」

「だ、大丈夫でしょうか?」


 僕たちが見つめる先で、どんどんと黒い湯気が形を変えた塊が、更にその形状を変化させていく。


「あれは足か?」

「今生えたのは手でしょうか?」


 楕円形だった塊は、徐々にその形を人型へ変えていく。

 いや、それは人では無い。


「ゴブリン?」

「まさか、分裂したとでも言うのか」


 やがて黒い塊がその変化を止めると、そこには隣りに立つゴブナにそっくりなゴブリンが姿を現したのである。

 ただし、肌の色が濃い緑のゴブナと違い、分裂した方のゴブナはまっ黒い肌をしている。

 

「エイルくん、二匹を鑑定してみて」

「あっ、そうですね。忘れてました」


 僕は慌てつつ、まずはゴブトを鑑定してみることにした。


 

*********


名前 :ゴブト

種族 :ハイゴブリン亜種

クラス:ゴブリンオーガ

体力 :210/210

魔力 :45/45


*********



 凄い。

 体力も魔力も一気に倍近くなっている。

 僕の低い鑑定レベルじゃわからないが、見るだけでその力もかなり強くなっている事がわかる。


 ギルマスが「まるでオーガだ」と言った通り、クラスもゴブリンオーガに変わっていた。

 元からそういう名前のクラスがあったのか、それともギルマスの言葉を聞いた僕が勝手に作り上げた物なのか、それはわからないけど。

 ゴブリンなのにオーガというのはおかしな物だ。


「次はゴブナか」



*********


名前 :ゴブナ

種族 :ハイゴブリン

クラス:ゴブリンメイジ

体力 :64/64

魔力 :128/128


*********


 こっちは変わってない。

 ゴブトがあれだけ劇的に進化したのにどういう事だろう。


 僕はそう思いつつ隣りのブラックゴブナを鑑定してみる。



*********


名前 :ゴブミン

種族 :ハイゴブリン:亜種

クラス:ゴブリンメイジ

体力 :64/64

魔力 :128/128


*********


 名前と種族の『亜種』を除けば、見える範囲のステータスはゴブナと全く一緒である。

 つまり、ゴブナは魔石を食べたが進化せず、代わりに自らと同じ力を持った分身を産みだしたと言うことだろうか。


 僕は【ゴブリンテイマー】というスキルのことをまだ全然理解していなかったことを、この時改めて思ったのだった。



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