第15話 ゴブリンテイマー、詫び魔石を貰う
「しかしこのステータスの一番肝心な所はそこじゃねぇ。使役魔力の消費量の異常な低さ、それだ。」
ステータス表示を指さしてから、もう一度腕組みをして一唸りした後にギルマスはふっと力を抜いて続けた。
「まったく。使役魔力消費量が1以下なんて初めて見たぞ」
ギルマスが言うには、普通のテイマースキル持ちがゴブリンをテイムしたとしても、最低で魔力5は必要だという。
それが僕の場合は0.4しか必要じゃない。
つまり単純に考えれば普通のテイマーに比べてかなり低い魔力の消費量で、僕は使役した魔物を維持できるという事だ。
ただしゴブリンに限るって事だろうけど。
「おめぇさんが大量のゴブリンを使役できている理由はこれだな」
「ですね。僕も初めて知りました」
あとは身体強化と号令伝達。
気配察知は僕自身じゃ無くゴブリンたちの能力だろうか。
「お前さん、ゴブリンたちとこの街に来る前に特訓をしてきたとか言ったんだってな」
「村からここに来るまでの途中で、色々ありまして。しばらく森の中で暮らしてたんですが、そこで特訓してました」
いったいどんな特訓をしたら、魔法が使えるまでゴブリンを育てる事が出来るんだかとギルマスは呆れた声を出す。
その事について僕が答えようと口を開きかけたけど。
「いや、それ以上詳しく聞くつもりはねぇよ」
「別に隠すような事はなにもないですけど」
「それでもだ。あんまり自分の手の内をべらべら喋るもんじゃねぇ」
つい今、鑑定魔導具でスキルを調べさせた人の言う事では無いような気がする。
僕がそう思っていることを察したのか、ギルマスも、隣のルーリさんも少し気まずそうな表情を浮かべた。
「いや、すまねぇな。本来なら鑑定魔導具なんぞを使う前に忠告しておくべきだった」
「そんな。気にしてませんよ」
それから僕はギルマスと今回の事件の報酬とは別にギルドの不手際の詫びとして『魔石』を貰うことになった。
魔石とは、強い魔獣の心臓部分に出来上がる魔力の結晶体で、主に魔導具や武器防具に属性魔法を付与する際の触媒として使われる。
「本当に良いんですか?」
「ああ、かまわん。今回の事は本当にすまなかったと思っている」
「でもこの魔石ってかなり高価なんでしょう?」
僕は机の上に並んだ魔石の一つをつまみ上げる。
光にかざすとキラキラと七色に輝くそれは、鉱石でありながら中では魔力が渦巻いているのが見える。
一つの大きさはエイルの親指程度だが、それが二つ。
「この大きさの魔石だと、一個あたりルーリの給料数ヶ月分ってとこだな」
「そんな説明の仕方やめてくださいよギルマス」
ギルマスの言葉にルーリがあからさまに頬を膨らませ抗議をする。
かわいい。
「つまりこれだけでルーリさんの給料の何ヶ月分もあるんですか。そんなに貰えませんよ」
僕は慌てて手にした魔石を机の上に戻すとギルマスの方に押し返す。
だが、速攻でまた僕の前に押し戻されてしまう。
「いいや、受け取ってくれねぇとこっちが困る。今回はギルドとしてあってはならねぇ事態だ。それの詫びを安い物で済ませるわけにはいかねぇんだよ」
わかってくれ。
そう言ってギルマスは少し頭を下げた。
「エイルくん、私からもお願い」
ルーリさんも両手を合わせて祈るようにそう言った。
かわいい。
「そうですか。それじゃあ遠慮無く頂きますけど、これはそのまま換金して貰うって訳にはいきませんかね?」
今すぐに強化したい武器や防具があるわけではない僕にとっては、魔石よりお金の方が欲しかったりする。
しかし、その言葉にギルマスもルーリさんも微妙そうな表情を浮かべるばかり。
「お前さん、まさかとは思うが」
「はい?」
「テイマーが魔物を強化する方法とか聞いてないのか?」
魔物を強化?
それってどういうことだろう。
ゴブトたちの場合は、一緒に森の中で他の魔物や動物と戦ったり、素振りとか特訓して強くなったし、それ以外の方法があるという事だろうか?
「特訓する以外に強くする方法があるんですか?」
「ある。というか普通のテイマーは魔物を『特訓』なんてさせない」
「そんな。特訓させずにどうやって強くさせることが出来るって言うんですか」
僕はギルマスが最初冗談を言ってるのかと思ったが、真剣なまなざしを見て話を聞いてみる事にした。
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