第14話 ゴブリンテイマー、ステータスを鑑定する

「それじゃあエイルくん、この中に手を入れてくれる?」


 ルーリさんがどこからか持って来たのは真っ黒い箱だった。

 どうやらこれが鑑定魔導具らしい。


「この中には何があるんですか?」


 その僕の頭ほどの真っ黒い箱の左右には、ちょうど手を突っ込めるくらいの穴が空いていて、そこに手を突っ込むことで鑑定が出来るらしい。

 不思議な事にその穴を見ても中は真っ暗で何も見えない。

 反対側にも穴が空いている以上、そちらから入ってくる光が見えても良いはずなのだけど。


「さぁ、私にもわからないわ。この魔導具についてはあまり仕組みとかは開示されてないの」

「そうなんですか。ちょっと怖いですね」

「大丈夫よ。別に中に蛇とかが入っているわけじゃないから」

「それはそうでしょうけど」


 僕は恐る恐る左右の穴から手を突っ込んでいく。

 不思議な事にその箱を抱きかかえるほどまで腕を突っ込んでも、反対側から突っ込んだ手に触れる事すらない。

 中はほんのりと暖かいが、手を動かしても何も触れない。


「それじゃあ行くわね。少しチクッとするかもしれないけど我慢してね」

「えっ、それ聞いてな――」


 僕は慌ててルーリさんの言葉の意味を尋ねようとしたが、ルーリさんはそれにかまわず箱の上に付いていたボタンを綺麗な指で押し込んだ。


「うっ」


 カチッという軽い音と同時に、僕の差し込んだ腕全体に不思議な感覚が走る。

 チクッとするというより、軽く雷が腕全体に走るような感覚に、痛みと言うより気持ち悪さを感じた。


「大丈夫?」

「あっ、はい。大丈夫です。でも出来れば先に教えて貰いたかったです」


 僕は少し涙目になりながら箱から腕を引き抜いた。

 電気が走った腕を見るが、特に外傷はないようでほっとする。


「それじゃあ少し待っててね」


 ルーリさんは僕の様子を確認してから鑑定魔導具を何やらいじり出す。


「ここを見てな」


 いつの間にかギルマスが椅子から立ち上がり僕の横まで来ると、鑑定魔導具の側面を指さした。

 すると真っ黒な測定魔導具の側面に、何やら文字が浮かび上がってくるではないか。


「ほほう、こいつぁ」

「これが僕の今のステータス……なんでしょうか?」

「この鑑定魔導具で調べられる内容だけだがな。本職の【鑑定スキル】持ちならもっと細かい所までわかるらしいんだがよ」


 鑑定魔導具の側面にはこう表示されていた。



================


名前:エイル

種族:人種

年齢:15

体力:30/30

魔力:128/128


スキル:ゴブリン・テイマー

使役魔力 LV23:単位消費魔力 0.4


<<派生能力>>

成長補助 LV3

付与魔法 LV2 : 加速 剛力

基本身体強化 LV2

号令伝達 LV2 : 近距離念波

気配察知 LV2 : 動態察知


================ 



「これってどういう意味なんです?」

「どうもこうも、おまえさん魔力だけならBランクの冒険者くらいあるじゃねぇか」


 Bランクといえばかなり上位の冒険者ランクだ。

 駆け出しの僕がそのBランクと同じだけの魔力量を持っているなんて何かの間違いじゃないだろうか。

 間違いじゃ無かったとしても体力との差があまりにありすぎる。

 たしかに自分でも体力はゴブトたち以下なのは実感してはいるけれど。


「そうなんですか? でも僕が使える魔法はゴブリンたちへの弱い付与魔法くらいですよ」

「それはお前さんがまともに魔法について学んでないからだろう?」

「じゃあ勉強すれば僕も炎を出したり出来るようになるんでしょうか?」

「魔力だけ見りゃ出来ると言いたい所だが、断言はできねぇな。なんせお前のスキルは今まで見た事も無いモンだしよ」


 僕は改めて鑑定魔導具の表面を見る。

 この派生能力の所にある付与魔法のおかげで僕はゴブリンたちを強化できるのだろう。

 だけど、普通の魔法が使えるという表記は見当たらない。

 正直、付与魔法が使える事を知ったのも偶然だった。

 あの時は死ぬかと思ったけど、付与魔法のおかげでなんとか皆死なずに済んだけど。


「自分でも魔法が使えると色々便利ですよね」

「そりゃな。初級の魔法でも特に火と水はあれば便利なんてもんじゃねぇな」

「ギルマスも使えるんですか?」

「ああ、初級だけだがな。そもそも俺は魔法使いじゃ無くて戦士系のスキル持ちだから魔力は少ねぇんだよ」


 ギルマスの言うように、どこかで学べば使えるようになるのか、それとも【ゴブリンテイマー】には魔法は使えないのか。


「一般的な普通の【テイマー】たちは魔法って使えるんですか?」

「俺の知る限りじゃあ大抵は初級止まりだな」

「そうなんですね」

「まぁ強力な魔法が必要になったら、普通は使役してる魔物に使わせるからな。なんせ人より魔物の方が魔力はたけぇからよ」


 普通のテイマーは自らの魔力が上がると同時に、それに見合った魔物に乗り換えていくという。

 なぜなら一種類の魔物をこだわって育てても普通は先が見えてしまうからだという。


「ゴブリンなんて普通一生懸命死なないように育てても、魔法が使えるまでに進化するなんて聞いた事もねぇからな」

「それも【ゴブリンテイマー】の力なのでしょうか?」

「だろうな。多分この『成長補助』ってのが、それを可能にしてるんじゃねぇかと睨んでる」


 ギルマスはそう呟きながら腕を組み、表示されているステータスをじっと見ながら再度口を開く。


「しかしこのステータスの一番肝心な所はそこじゃねぇ。使役魔力の消費量の異常な低さ、それだ。」

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