第12話 ゴブリンテイマー、ギルマスに呼び出される
そこからの彼女の行動は素早かった。
併設の酒場でテーブルに突っ伏したまま酔い潰れていた【荒鷲の翼】全員に水をぶっかけ目覚めさせる。
文句を口にする彼らの尻を文字通り蹴っ飛ばし、外で縛られたままゴブリンたちに見張られていた【炎雷団】をギルドの奥まで連れて行くように指示し、自らは二階へ向かいギルドマスターを呼びに向かった。
その間僕は仕事を終えたゴブリンたちを、ゴブトを残し全てテイマーバックに戻し、ルーリさんが帰ってくるのを待った。
そして帰ってきたルーリさんは僕に【炎雷団】を本当に僕が倒したのかと何度も問いかけ始めたのである。
「ふむ。確かにこいつは俺の知っているゴブリンよりも一回りでけぇな。しかも体つきもがっちりしてやがる」
ギルマスはじろじろと僕の横に立つゴブトを見ながら呟いている。
「ふむ。所でこれから詳しい話を二階の応接室で聞かせて貰いたいんだが、いいか?」
「応接室ですか? ギルマスと二人で?」
僕の声は少し震えていたかもしれない。
だって、こんなに強そうで怖そうな人を見たのは生まれて初めてだったから。
この人に比べれば、修行中に倒した森にいた魔物たちの方が、まだかわいいとすら思えてしまう。
「俺と二人っきりじゃ嫌なら――おい、ルーリ」
「はい」
「お前も応接室に付き合ってくれ」
「かまいませんけど、代わりの受付担当を探してきますので少し待っていて下さい」
ルーリさんはそう言うとギルドの奥へ駆けていく。
その先は【荒鷲の翼】が【炎雷団】を引き連れて行った方向だけど、どうやらスタッフの控え室もあるらしい。
後で知ったことだが、ギルドの一階の奥には控え室や休憩室。
さらに奥には訓練場、懲罰室、そして【炎雷団】が連れて行かれた審問室というのがあるそうだ。
「おまたせしました。それじゃあエイルくん、行きましょうか」
「はい」
「俺も準備してから行くから先に上がっててくれ」
僕はルーリさんの後ろについて行きながら階段を上る。
二階には五つほどの部屋があり、一つはギルドマスターの部屋。
そして応接間、資料室、通信室、物置となっていた。
「どうぞ」
応接室の前に着くと、ルーリさんはそういって扉を開けてくれた。
恐る恐る中に入る。
「うわぁ」
応接室の中は、僕が思っていたより遙かに立派だった。
壁には大きな魔物の毛皮が飾ってあり、高そうな机と椅子が中央に配置されている。
大きめの窓からは、暮れかけの夕日が差し込んでいて部屋を赤く染めていた。
「とりあえず、その椅子に座って」
「ここですか?」
「ええ、そこでかまわないわ。それじゃあ明かりをつけるわね」
こんなに高そうな椅子に僕なんかが座っても良いのだろうか。
壊したりしてしまわないだろうかと心臓をドキドキさせながら腰を下ろす。
その間、ルーリさんは部屋の四隅に置いてある明かりの魔道具に魔力を流し込み灯らせていく。
優しい光に照らされたその顔に僕が見とれていると、突然かなりの勢いで扉が開かれ、ギルマスが片手に何やらお盆を持ったままドカドカと応接室に入ってきた。
そして、手に持ったお盆を高級そうな机の上に粗野に置くと、そのまま僕の対面の椅子に勢いよく座ったのだ。
一瞬椅子の悲鳴が聞こえた気がして、そのまま壊れてしまうのでは無いかと冷や汗をかく。
「とりあえずお手柄だったな。まぁ、茶でもしながら話そうじゃないか」
「じゃあ、私が入れますね」
「いえ、僕が」
そう手を伸ばしたけど、一歩早くルーリさんにお盆の上のティーポットを奪われてしまった。
素早い。
「それで彼奴らと荒鷲のやつらから聞いたんだけどよ。お前、一体どれだけのゴブリンを使役してやがるんだ?」
ルーリさんが入れてくれたお茶を飲みながらギルマスがそう尋ねてきた。
「っと、悪い。冒険者の隠し球を教えろってのはルール違反だったな」
「別にかまいませんよ」
失言だったと頭を掻くギルマスに、僕はあっさりそう答える。
どうせ最初から隠すつもりは無かったのだ。
ただ、ゴブリンを引き連れたまま街を歩くのは不味いだろうと、街を出るまで控えていただけで。
「僕自身もきちんと把握し切れてないんですけど、大体百二十匹くらいはいるんじゃ無いでしょうか」
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