第5話 ゴブリンテイマー、襲撃される
「地図によれば、この林道を進むと山の中腹に出るんだっけ?」
その辺りに広い場所があり、そこが様々な薬草の群生地だとルーリさんから聞いている。
林道の先はかなり曲がりくねっているようで見通しは良く無いが、かなりの頻度で人が通っているのか道が踏み固められていて、意外に歩きづらくは無い。
やがて少しずつ林道が傾斜を上げていき、山道に変わっていくと、軽快だった僕の足も徐々に重くなっていく。
一応体は鍛えているものの、元来僕は運動が苦手で、村でも一番体も小さく体力も無い子供だった。
そんな僕を心配してか、ゴブトが話しかけてくる。
『ゴブ』
「大丈夫か……だって? ルーリさんの期待に応えるためにも、こんな所でへばってなんか居られないよ」
『ゴブブ』
「何? 先の方から水の臭いがするって?」
僕は一旦足を止め、肩掛け鞄から地図を取り出し現在地を確認する。
「確かに地図にも『泉の休憩所』って書いてある場所が道の先にあるみたいだな」
休憩所という文字を見て、僕のお腹が急に思い出したかのように鳴った。
朝からギルドでの手続きのために緊張しっぱなしで、僕はすっかりご飯を食べることを忘れていた。
「お前たちにもまだ餌をやってなかったな。じゃあその休憩所で一旦食事にしようか」
『ゴブー!』
『ゴブブ!』
僕の言葉を聞いてゴブリンたちは喜んで飛び跳ねる。
本来なら魔物との意思疎通などは出来ない。
だが、テイマースキルを持つ者は、自らテイムした魔物とだけはある程度の意思疎通が可能となるのである。
「さて、それじゃあもうひと踏ん張りしますか」
『ゴブ!』
元気良く返事をして歩き出したゴブトの後を付いていった先にその休憩所はあった。
綺麗な水をたたえた泉の横にあるのは簡単な椅子と屋根があるだけ。
かなり古い施設のようだが、その古さの割に手入れはきっちりされていて、使う分には何の問題も無い。
「さぁて、ご飯だ」
僕は肩掛け鞄を下ろすと、テーブルの上に中身を取り出し始める。
と言っても、乾パンとチーズ。
そして少量の干し肉だけのかんそな物だ。
「ゴブナ。水筒に、あそこの湧き水を汲んできてくれないか。それとゴブトは魔物が近寄ってこないか警戒しておいてくれ」
この泉の横には、泉に注ぎ込む湧き水の流れ出る岩の裂け目がある。
僕はゴブナにそこで水を汲んでくるように指示すると、ゴブリンたちの餌も鞄から取り出して準備を始めた。
ゴブリンたちの餌は、市場で肉食獣の餌用に売られている物を買ってある。
本来、テイムした魔物には食事は必要ないのだけど、僕はあえて彼らと共に食事をすることにしている。
「確か、人間が食べない動物の肉とか骨の部分を細かく砕いて丸めて乾燥した物だっけ」
油断していると机の上から転げ落ちそうなその球体の餌を四個ほど取り出し、ゴブリン用の皿に二個ずつ入れると、ちょうどゴブナが水を汲んで戻ってくる所だった。
僕はゴブナから水筒を受け取り、ゴブリンたちを呼び寄せ椅子に座らせると、二匹の前に餌の入った皿とコップを置いてやる。
そして二匹のコップと自分のコップに水を入れてから水筒を置き、両手のひらを重ね合わせる。
「今日も我らの血となり肉となる糧が得られることを感謝いたします」
村で両親から教えられた祈りの言葉。
それはこの世界の神に捧げる感謝の言葉らしいのだが、僕は神様のことはよく知らない。
だけれど、この儀式を済まさないと気持ちよく食事をする気分になれない。
なので僕は村を出てからもずっとこれだけは続けている。
『ゴブ』
『ゴブブ』
このゴブリンたちも、一緒に食事をしているうちにいつの間にやら僕の真似をするようになった。
彼らにも彼らの神がいるのだろうか。
それともただ単に、主である僕の真似をしているだけなのだろうか。
「それじゃあいただきます」
『ゴブッ』
『ゴブブッ』
僕は美味しそうに餌を頬張るゴブリンたちを眺めながら干し肉とパンを齧る。
質素な食事だけれど、まだ駆け出し冒険者でしか無い以上、お金を無駄にするわけには行かない。
いくらギルドから渡された支度金があるとは言え、結局は返済しなければならない物で自分のお金ではない。
「それでもギルドって太っ腹だよね。僕みたいな駆け出し冒険者に一月は暮らせるだけのお金を簡単に貸してくれるんだもんな」
支度金の必要がないような、何不自由ない暮らしをしている人や裕福な人は、命がけの職業である冒険者になんてなりたがらない。
英雄に憧れてとか、名声を得たいとかの理由でなる人もいるにはいるが、そういった人は結局すぐに現実にぶつかって辞めてしまうらしい。
「さてと。そろそろ行こうか」
『ゴブッ』
『ゴッ――』
ヒュンッ!
突然の風切り音と共に、椅子から立ち上がりかけていたゴブナの姿が一瞬にして僕の視界から消え去る。
そして次の瞬間、少し離れた所から、何かが地面に落ちたような鈍い音が僕の耳に届く。
「まさか襲撃!? ゴブト、警戒してッ!」
『ゴブッ!』
油断なく第二射を用心しながら目を向けた鈍い音が聞こえたその先。
そこには体を矢で貫かれたゴブナが、緑色の血を流して倒れ伏していたのだった。
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