第6話 ゴブリンテイマー、新人狩りと対峙する
ゴブナが射られたのか。
その事実を確認した刹那、僕はゴブトにすかさず戦闘態勢を取るように指示を出す。
「いったい誰だ」
『ゴブ……』
ゴブトは腰に差していた二本のショートソードを抜き、休憩所から少し離れた藪の中を睨み付けている。
どうやら襲撃者はそこにいるらしい。
「まさか同じ【人間】に襲われるなんてね。こんなことならゴブリンたちには魔物だけじゃ無く人の気配も警戒してって頼めばよかった」
僕の命令に従い、律儀にもゴブリンたちは『魔物の気配』だけを警戒対象にしていたせいで、それ以外の危険が近づいてくることに対して僕に何も知らせなかったのだろう。
「おーい、そこの藪の中に居る人。どこの誰だか知らないけど、この二匹は僕がテイムしてる魔物で害はないんだ。怒らないから出てきてよ」
僕はゴブトが睨み付ける藪に潜んでいるであろう人物に向かって呼びかけてみる。
もちろん、いつ射かけられても避けられるように神経は研ぎ澄ましたままでだ。
「怒らないだって? 笑わせやがる。自分が強者だとでも勘違いしてるんじゃないのかい
僕の呼びかけに答えるように、藪の中からそんな呆れたような声が返ってきた。
やがてガサガサという草をかき分ける音と共に、奴らは姿を現した。
そう『奴ら』だ。
一人だと思っていた襲撃者は、僕の予想に反して四人も隠れていたらしい。
そして、その中の一人の顔に僕は見覚えがあった。
「貴方は確かあの時ギルドの酒場にいた――」
「けっ。俺のことを覚えてやがるのか。荒鷲の奴らの陰で見えてないと思ったんだがな」
彼の言う通り、あの時ギルドで僕が冒険者登録をしている間、大騒ぎしていた『荒鷲の翼』の向こう側。
そこでこの男がカウンター席で一人酒を飲んでいたのを僕は覚えていた。
「田舎育ちだから目は良いんだ」
「まぁいい。どうせお前はここで死ぬんだから、知られてようがいまいがどっちだってかまわねぇ。」
「えっ」
ここで死ぬって、いったいどういうこと?
まさかこの人達は僕を殺すつもりなのだろうか。
「どうして僕が殺されなきゃいけないのさ。それに冒険者が他の冒険者を襲うのはギルド規則で禁止のはずじゃ……」
「どこまで世間知らずの田舎モンなんだよ。そんな建前信じてちゃ冒険者なんて務まんねぇぜ」
男の見下したような言葉に、彼の仲間たちが下品な笑い声を上げる。
心底僕を馬鹿にしたその笑い声に、僕は心がざわつくのを感じた。
「しかし本当にお前は世間知らずだよ。ギルドで借りた金をそのまんま荷物に放り込んで街を出るんだからな」
「まったくだ。まるで自分から『襲ってくれ』って言ってるみたいだったぜ」
その言葉を聞いて僕は男たちの目的を察した。
こいつらは僕がギルドで借りたお金を奪うつもりなんだ。
「この前の新人と二人続けてとかよ。最近の冒険者志願者は馬鹿ばかりなのかね」
僕はその言葉を聞いた途端にルーリさんが言っていたことを思い出した。
どうして僕は今までそれを忘れていたのだろう。
「少し前に新人冒険者が簡単な依頼で死んだ事があったってルーリさんが言ってたけど、それってまさか」
「俺達だよ。あいつもお前と同じで浮かれてたのか、大金持ったままフラフラと街をでていきやがったからよ」
最悪だ。
こいつらは人を殺してお金を奪う事に何の後ろめたさもないらしい。
「おっと、喋り過ぎちまったな。でもまぁお前はここで死ぬわけだし、別にかまわねぇか」
嘲笑を含んだ言葉に、また周りの男たちが笑い出す。
「もし僕がこのまま街に帰らなかったら、僕の後を付けてきたギルドに疑われるんじゃ無いですか?」
「心配してくれるのかい? 大丈夫だ。お前は街を出てから道を間違えて危険な魔物が住む反対側の山へ向かったってことになっているからな」
「そんな嘘が通じるとでも? それに僕がこの山の方へちゃんと向かった事は、門に居た衛兵さんたちも見てたはずだよ」
「ああ、それなら何の問題もねぇ。ギルドに聞かれても門兵は俺がさっき言った通りの証言をする手はずになってるんでな。だからよ……安心して死んでくれ」
男はそう言うと、脇に抱えていた弓を構え矢をつがえる。
どうやらあの優しそうに見えた衛兵も彼らとグルだったみたいだ。
「それじゃあ」
男が弓を引き、下卑た笑みを浮かべる。
だが、その矢が狙う先は僕では無く――
「とりあえず、まずはそのうす汚ぇ魔物からだ」
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