第3話 ゴブリンテイマー、過去を少し思い出す
ギルドで最初の依頼を受け外に出る。
ルーリさんのおかげで僕の足取りはかなり軽くなっていた。
「いい依頼も紹介してもらえたし、初期資金ももらったし。受付の人がルーリさんで良かった」
最初の仕事としてルーリさんがおすすめしてくれたのは、街近くの山麓で行う薬草採取の依頼だった。
この依頼は常時出ているものらしく、冒険者ギルドだけで無く、商業ギルドなどにも掲示されて、子供が小遣い稼ぎに受けてもいるとのことだった。
「子供でも達成出来る依頼だって言ってたけど。僕そこまで弱く無いんだけどな」
だが弱いながらも魔物が出ることもあるらしく、それに対する対処を身につけるのにはもってこいらしい。
子供でも対処できる程度の魔物ということは、もしかしたらゴブリンがいるのだろうか。
だったら僕にはぴったりの依頼だ。
ルーリさんから聞いた説明によると、こういった簡単な依頼を繰り返し、ある程度戦闘や魔物という物に慣れた後、パーティを組んで軽い討伐依頼を受ける。
そしてやがては高額の依頼へとステップアップしていくのが一番の近道なのだとか。
血気盛んな若者は、いきなり自分の実力を過信して、身の丈に合わない依頼を無理矢理受けて命を落とす者も少なくないらしい。
「あなたのように素直にギルド職員の話を聞いてくれる子の方が伸びるのよ」
ルーリさんはそう言って僕に優しく微笑みかけてくれた。
社交辞令かもしれないけど、今は素直に彼女の言葉を信じたい。
「ルーリさんって、美人だしテキパキと仕事も出来る人なのに、僕みたいな【ハズレスキル持ち】にも優しくしてくれるなんて、女神かな?」
彼女の優しい笑顔を思い浮かべた僕は、身も心も軽くなっていた。
しかしそれがいけなかったのだと今なら思う。
ルーリさんの優しさに触れて、念願だった冒険者になれたことで僕は浮かれていたのだろう。
本当ならルーリさんの教えてくれた話を思い出して、もっと注意をしておくべきだったのだ。
だから僕は、僕に向けられた悪意に気づかず、そのまま依頼をこなすために足を街の出口に向けてしまった。
「簡単な依頼と言っても、ルーリさんに初めて任された仕事だ。がんばってきちんとこなさないとね」
門の入り口で暇そうにしている二人の衛兵に軽く挨拶をしてから街を出た。
高い城壁に囲まれた街の外。
そこにはかなりの数の畑が並び、その向こうには草原。
その先に今から僕が目指す山の麓に広がる森が目に入ってくる。
「そういえばこっちの門から外は初めて見る景色だな」
僕がギルドで受け取った簡易的な地図に目を落としながら呟く。
生まれ故郷の村はこの門とは反対側の方向にある。
なのでこちら側に来たのは生まれて初めてだった。
「村を出た時は不安でいっぱいだったけど」
農家の四男に産まれた僕は、生まれた時から将来は家を追い出され、いずれ独り立ちをしなければならない運命だった。
寒村の貧乏農家には四人もの子供が暮らしていけるだけの富は無い。
そして一人前として一人で生きていけるだろうという十五歳の誕生日、僕は家族と村の人々に見送られ旅に出た。
「でも僕が独り立ち出来るまで育ててくれただけでも感謝しないとね」
なぜなら跡継ぎ以外の子供は、ある程度大きくなった所で人買いに売られることも少なく無いと聞いていたからだ。
「さて、地図によるとこの街道をまっすぐ行って途中の看板から林道に入れば群生地に行けるのかな」
僕は一旦地図を肩掛け鞄に仕舞い込むと、今度は腰に付けたポーチの蓋に手を伸ばす。
このポーチの正式名称は『テイマーバッグ』と呼ばれる魔道具で、スキルチェックで【テイマー】と認められた者全てに与えられる。
スキルチェックは街にある神殿や、国中を巡る巡回神官によって行われる儀式の一つだ。
僕がスキルチェックを受けたのは十二歳の頃で、その日を境に村の人々が僕を見る目が変わってしまったのを覚えている。
それでも神官様は今日のルーリさんと同じように優しく僕のスキルの可能性を指し示してくれたのだ。
僕はあの神官様の事を今でも忘れる事が出来ずにいる。
もしあの時、僕の【ゴブリンテイマー】を他の人たちのように【外れスキル】だと神官様にも言われていたなら、今僕はここにいなかったろう。
そんな神官様から渡されたのがこの『テイマーバッグ』だ。
名前からわかるように、テイムした魔物を【収納】しておくことが可能な、とんでもない魔道具である。
そんなとんでもない魔道具なのに、テイマー全てに分け与えられるのにはわけがある。
実はこの魔道具。作り方が非常に簡単なのである。
大雑把に言えば適当な入れ物に、かつて魔道具の天才と言われた魔術師が考案した魔方陣を縫い付けるだけで出来上がってしまうのだ。
「このテイマーバッグも、あの神官様のお父さんが作った物だって言ってたっけ」
しかし作りは簡単でも、その魔方陣自体は未だに誰にも解析も改変することも出来ず、あくまで持ち主がテイムした魔物しか収納することが出来ない。
非情にニッチな魔道具なのである。
「ゴブト、ゴブナ。出ておいで」
僕がポーチに手を当てながらそう呟く。
するとどういう仕組みなのかわからないのだけれど、突然そのポーチの中から丸い玉が二つ飛び出すと、目の前で一瞬にして二体のゴブリンの姿に変化したのである。
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