第2話 ゴブリンテイマー、初依頼を受ける
「ゴブリンと訓練しても効果あるとは思えないけれど……それじゃあ冒険者登録するから少し待ってて」
「お願いします」
僕は小さな声でそう返事をする。
その間にも後ろにあるギルド併設の酒場では【荒鷲の翼】が大騒ぎを続けている所をみると、よほど羽振りの良い依頼だったのだろう。
どうやら彼らはもう僕に興味を無くしたようで、今回自分たちがやってきた冒険について声高に給仕のお姉さんに語り聞かせているようだった。
「お待たせエイルくん」
そんな喧噪を背に、しばらく待っていると、ルーリさんが手に一枚のカードを持ってやって来た。
「はい。これが貴方のギルドカードよ」
「これがギルドカードですか」
「身分証明書にもなるから失くさないようにね」
「ありがとうございます」
僕はルーリさんに軽く頭を下げると、ルーリさんが持つギルドカードに目を落とす。
そこには『エイル』という僕の名前と、その下に最低ランクであるGの文字と書かれていた。
後は会員登録したギルドの支部名や賞罰などが表記されていて、もちろん賞罰については今は空白になっていた。
「それじゃあ、このカードの表面に血液を一滴垂らしてね」
「表面ならどこでもいいんですか?」
「ええ、構わないわ。貴方の魔力紋を登録して偽造が出来ないようにするだけだから」
僕は腰のポーチから小型のナイフを取り出すと、人差し指の先を少し切りつける。
僅かな痛みに顔をしかめながら、僕はその指をルーリさんが持つカードの上にかざし、一滴血を落とした。
「うわっ、光った」
血を垂らしたギルドカードが一瞬だけ輝くと、僕の名前とランクの下に新たに【ゴブリンテイマー】という文字が刻まれていた。
どうやら僕の魔力紋にスキルの情報も含まれているらしく、それを自動的に読み取って表示されるようだ。
「あら、本当に貴方のスキルは【ゴブリンテイマー】なのね。【テイマースキル】の人は今まで何人も見てきたけど、一種類の魔物専用のテイマースキルは初めて見たわ」
「僕も他に聞いたことはないですね」
僕はルーリさんからギルドカードを受け取ると感慨深げに眺める。
これで今日から僕も冒険者になったんだ。
「これで魔力紋の登録も完了したわ。これで貴方は今日から立派な冒険者よ」
「ありがとうございますルーリさん。僕、立派な冒険者になってみせるよ」
嬉しさのあまり、先ほどまでの落ち込んだ気持ちはすっかりなりを潜め、僕はニヤニヤとギルドカードを眺める。
真新しいそれは、僕のこれから始まる輝かしい冒険者生活の相棒だ。
「それじゃあ早速なにか依頼を受けていく?
「はい。そのつもりです」
今日はまだお昼にもなっていない。
この後特に予定もないし、簡単な依頼なら十分こなせるはずだ。
それに、今現在持っている所持金もかなり心もとない。
「じゃあ、初心者でもこなせる依頼を紹介するわね。それと、後でお金のない新人冒険者さんのためにギルドが用意している支度金も渡すわね」
「支度金なんてもらえるんですか?」
まるで僕の心を読んだかのようなルーリさんの言葉に、僕は思わず食いつく。
「ええ。と言ってもタダでプレゼントするわけじゃなくて、簡単に言えば無利子無担保の融資よ。特に冒険者になりたての子はお金が無くて宿屋にも泊まれないという人が多くてね。それで出来た仕組みなの」
「融資ってことは返済が必要なんですよね?」
「もちろん。依頼達成で貰える賞金とかのお金から少しずつ返済してもらうことになるわ」
正直その話はお金のない僕にとって渡りに船だ。
「何から何まで、本当にありがとうございます。ルーリさんの期待に答えるためにこれから一生懸命がんばりますね」
僕は思いっきりルーリさんに頭を下げると、そう宣言したのだった。
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