第一幕 ゴブリンテイマー
第一章 最弱のゴブリンテイマー
第1話 ゴブリンテイマー、冒険者になる
「えっとエイルさんでしたか。貴方のスキルはっと……【ゴブリンテイマー】ですか?」
「はい。僕のスキル名は【ゴブリンテイマー】です」
ギルドの登録窓口で、僕は小さくなりながら自らのスキルをもう一度伝えた。
受付のお姉さんは、僕の返事を聞いて目を丸くした後、もう一度問いかけてくる。
「えっと……【テイマー】では無く【ゴブリンテイマー】なのですか?」
「そうです。僕のスキル【ゴブリンテイマー】は、ゴブリンしかテイム出来ない【特殊スキル】なんです」
僕の言葉でギルド内の全ての人たちが一瞬静かになった。
そして、その直後――
「おいおい。【テイマー】なら知ってるが。テイム出来る魔物を限定したスキルなんて聞いたことねぇぞ」
「そうだな、俺も知らねぇ。そこらの赤ん坊より弱っちぃあの最弱種族のゴブリンだけしかテイム出来ないスキルなんて、なんの役に立つんだ?」
「そんなのテイムしても、すぐ死んじゃうんじゃないの?」
「それにあんなひょろっちぃ奴が冒険者になれるわけ無いだろうが。ゴブリン共々すぐ死んじまうんじゃねぇ?」
「そうよね。せめて他に使える【スキル】があるならわかるけどぉ。【ゴブリンテイマー】だなんて笑っちゃうというより悲しくなっちゃうわ」
「それって【特殊スキル】じゃなくて【ハズレスキル】の間違いじゃねーのか」
ギルド中から僕の【スキル】に対する嘲りの言葉が投げかけられた。
そんな彼らの言葉を聞いて、受付のお姉さんも僕を心配するような表情を浮かべる。
たぶん、彼らが言うように【ハズレスキル】で危険な冒険者家業をするのは無謀だとでも思っているのだろう。
彼女は見かけ通り優しい女性に違いない。
だけどそれ以外のここにいる人達は皆、僕のスキルを聞いて心配するどころか笑いものにするばかりだった。
こうなることはわかっていた。
だから僕はなるべく人のいないはずの時間にギルドにやってきたのだ。
だけれど、受付のお姉さんの前で申請書を書いている時、運悪く魔物の討伐依頼から帰ってきた一団とバッティングしてしまったのが運の尽き。
本来なら後五日は掛かる高難易度の依頼を、驚くべき速度で終わらせてきたらしい彼ら。
その【荒鷲の翼】と呼ばれるSランクパーティの五人は、このギルドに帰ってくる前にどこかで宴会を開いてきたらしく、入ってきた時には既に全員がそれなりに酔っ払っていた。
本来の彼らなら、僕のような木っ端の新人など見向きもしなかっただろう。
だけれど、運悪く彼らは大きな依頼を終わらせ、かなり高揚していたようで、ある意味見境がなくなっているようだった。
「みなさん。失礼ですよ」
ギルドのお姉さん――後で知ったのだがルーリさんという名前の彼女が、そんな彼らに少し非難めいた声で彼らを注意する。
だけれど、完全に出来上がった彼らは彼女のことなど歯牙にも掛けず更に言葉を続けた。
「やめとけやめとけ。ゴブリンしかテイム出来ないような奴が、冒険者になんてなってもすぐ死ぬだけだって言ったろ」
「ゴブリンなんて子供にも倒される最弱魔物じゃ、何も出来やしないのはわかりきってるからな」
「そうよね。むしろ一緒にパーティを組む子たちが可哀相だわ」
「田舎にでも帰って畑でも耕してた方が良いぞ」
何の反論もせずうつむく僕に、ルーリさんが優しく声を掛けてくれる。
「彼らは後でギルマスに報告してきつく叱っておいて貰うからね」
「いいんですか?」
「報酬をもらってすぐの冒険者ってね、どうしても緊張から開放されてああなっちゃうの。だからそういう冒険者にお灸をすえるのはギルドマスターのお仕事なのよ」
そこまで口にしてからルーリさんは、僕以外に聞こえないような声でささやきかけてきた。
「それにね、あの人達がああ言うのは貴方を心配しての事なのよ。口が悪いのは冒険者だから許してあげてね」
「そうなんですか?」
「ええ、特に少し前にも新人冒険者が簡単な依頼で命を落とすことがあって……」
どうやら僕がその新人冒険者と同じように命を落とすことを心配してくれたということらしい。
それにしても言い方というものがあるとは思うけど、それも冒険者という荒くれた人たちなら仕方のないことかもしれない。
だけど僕は皆が思うほど弱くはない……と思う。
「僕なら大丈夫ですよ。この街に来る前にゴブリンたちと共に沢山訓練を積んできましたから」
心配そうなルーリさんに僕はそう答えて「だから冒険者登録をお願いします」ともう一度口にした。
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