ゴブリンテイマー ~最弱種『ゴブリン』しかテイム出来ない外れスキルだと言われたけど、実は最強のテイマースキルでした~

長尾隆生

エピローグへ続くプロローグ

「貴様が噂の【ゴブリンテイマー】か」

「噂かどうかは知らないけど、この世の中で【ゴブリンテイマー】のスキルを持ってるのは多分僕一人だけだとおもうよ」


 王都を背にして一人の優しそうで幼い面立ちの青年が、彼とは真逆の顔中に傷のある筋骨隆々の大男の問いかけに、そう答えた。


「噂では数多のゴブリンを率いていると聞いたが、やはり噂は噂でしかないということか」


 男は青年の周りに居並ぶ十ほどの影を見てあざ笑う。


「たしかにそこにいるゴブリンどもは俺が知るゴブリンとは全く別種に進化しているようだが、その程度では我が従える進化した最強のドラゴン種である【暗黒の顎門ブラック・カーク】には敵わぬぞ?」

「そうだろうね。僕もそう思うよ」

「わかっているというのなら、何故立ちはだかる?」


 男の言葉に、青年は飄々とした態度を崩さないまま口を開く。


「何故って? それは簡単なことだよ」

「ほう。言ってみろ」

「この国には貴方を止められるのは僕と僕のゴブリンたちしか居ないからだよ」


 青年の答えに、男は訝しげに眉をしかめる。


「貴様。つい今しがた我のドラゴンには敵わぬと口にしたばかりではないか?」

「言ったね。でもそれは『今ここにいるゴブリンたちだけでは敵わない』ってだけさ」

「何だと」


 青年はその顔に笑みすら浮かべながら、その腰につけている小さなポーチに手を添えると――


「みんな、出ておいで」


 その言葉が紡がれた瞬間。


「なっ、なんだその数は!?」


 青年の小さなポーチから次々と球状の物体が飛び出すと、どんどんその姿をゴブリンに変えていく。

 十、二十、五十、百。


「なんて数だ。確かに噂通りだったってわけか。だが、進化したゴブリンといえど所詮はゴブリン。何匹集まろうがドラゴンに適うわけが……」

「そうかな? 戦いっていうのは結局は数だって偉い人も言ってたらしいよ」


 二百、三百、五百……。

 いったいその召喚はいつ終わるのか。

 先程まで広い平野に十匹しか居なかったはずのゴブリンが、今やその平野を埋め尽くす勢いで増えていくのだ。


「あ、ありえん。たった一人のテイマーが使役できる数じゃねぇ……何なんだ貴様は」

『ギャウウウ』


 男と、その後ろに控えていた巨大な黒ドラゴンが戸惑いの声を上げる。

 だが、青年の小さなポーチから飛び出していくゴブリンの勢いはまだ止まらない。


「何なんだって、おじさんが言ったとおりの【ゴブリンテイマー】だよ」


 その日。


 『世界最強種』であるドラゴンと、『世界最弱種』であるゴブリンの、後世に語り継がれる伝説の戦いが始まった――



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