第7話 俺と幼馴染たちとやっぱり聖女様
GW……それは世界が待ち望んだ長期連休だ。
友達と出かけたり、家族で旅行に行ったり、彼氏持ち彼女持ちたちが浮かれてデートなんぞしちゃったりして、非モテや非リアが殺意を覚えるであろう、そんな長期休暇の初日のことだ。
世間が浮かれ、希望に満ちあふれたGWの始まりの日に……俺は――。
「……で? 一体どういうことなのか説明してもらおうじゃないの」
「……………………………………」
――何故か急に俺の部屋にやってきた幼馴染みに正座させられていた。
……何をこんなに問い詰められてるのかは皆目見当も付かないけど、多分これは話したとしても命を取られるやつだ、間違いない。
「冬真、ヘルプ」
「ひなたー? あまりやりすぎたらダメだよ」
「うん! 冬真♪ ……さあ、話して死ぬか、話さず逝くか選びなさい」
「今やりすぎたらダメだって言われたばかりだろ!? あと言い方変えてもそれ同じ意味だからな!」
俺と冬真と話してる時の声色が変わる速度半端じゃなかったんですけど!?
というか命を奪おうとするのはひなたの中じゃやりすぎに入らないというのか!? なんだこいつ古代ローマ帝国辺りの暴君かよ!?
「こっちこそまず何のことか説明して欲しいんだけど! いきなり部屋に来て正座させるとかお前最初から会話する気無かっただろ!?」
「……昨日の聖女様のことよ」
「……あー、あれか」
嘘とは言え……勝手に話してもいいもんかな。
別に全くやましいことがあるわけじゃないし……1番簡単なのは本人をここに呼ぶことだろうけどなぁ……。
「説明しろって言われてもなぁ……そもそもそれで俺が正座させられないといけない意味が分からん」
「だって、あの聖女様と陽ごときが何も無しに付き合えるわけがないじゃない。一体どうやって脅したの? 女の敵」
「お前仮にも幼馴染みの1人をごときって言った挙げ句俺が弱味を握って脅した路線で強引に決めつけやがったな!?」
こいつ人間じゃねえよぉ……俺は何もしてないってのに……。
「……悪い、やっぱ俺の独断じゃ言えねえ」
「何か訳アリなんだね?」
「ああ。ちょっとな」
俺1人のことならまだしも、本人がいない時に勝手にぺらぺら喋られるのは気分のいいもんじゃないからな。
「……そう。疑って悪かったわね。もう自由にしていいわよ」
「あー、足痺れたぁ……あのなぁ、いくら俺でも女子を脅すようなことするわけないだろ」
文句を言いつつ立ち上がった瞬間だった。
――ピンポーンとインターフォンが鳴り響いたのは。
……なんだろう、超絶に嫌な予感がする。
そのまま静かに待っていると、もう1度インターフォンが鳴らされた。
「秋嶋くーん? 実はカレーの残りがあるんですけどー」
そして、聖女様の声が外から聞こえてきて……。
「陽、正座」
「うぃっす」
無慈悲にも俺はもう1度正座をすることになってしまった。
♦♦♦
「……で?」
「なんかすげえデジャヴを感じるんだけど……」
ここにいなかった人物が1人増えただけで、俺の状況は全く変わってない。
むしろ、春宮の登場で酷くなったと言っても過言じゃない。
「あの……秋嶋君はどうして正座させられてるんですか?」
「必要だからよ。……あなたに聞いた方が早そうね。どうしてこのバカと付き合うなんてことになったのかしら?」
矛先を変えたひなたが春宮に1歩距離を詰める。
……その前に、俺の正座を解いてくれないっすかね……もう膝から下の感覚が無いんだよ。 え? 勝手に立てばいいだろって? 多分立った瞬間絶命させられる。
「あ、あー……そのことですかー……」
チラリと俺を伺うように見てきた春宮と目が合った。
「いや、ほら? やっぱりさ、当事者の許しも出てないのに俺が勝手にベラベラ喋るわけにはいかないだろ?」
「で、陽と話してても埒があかないって時に、何故か春宮さんがカレーを届けにきたってわけ」
「そうだったんですか……」
あの、理由が分かったんだったら俺が正座し続ける理由なんてないっすよね?
正座の辛さに悶える俺と、何かを考えだした春宮をひなたは睨むように見比べる。
「……秋嶋君は何も悪いことはしてませんよ。むしろ、私を強引なナンパから助けてくれたんです」
「ナンパ?」
「はい。実は――」
春宮は昨日起こった出来事をひなたと冬真に伝えて、俺は相変わらず正座で聞き入った。
もう正座の痛みも感じなくなってきたし、今なら悟りを開けそうだ。
「へえ。そんなことがあったんだね。何て言うか、陽は昔から変わらないよね」
「成り行きでたまたま助けただけなのに、いきなり付き合うことになったって言われて1番驚いたのは絶対俺だぞ」
ひなたは春宮の話を聞いて、再び俺と春宮の間に視線を行き来させると、大きなため息をついた。
「陽、もう姿勢戻していいわよ。話は大体分かったから」
「そうか。誤解が解けてよかった……ぐぉおおおっ!? 足がぁぁあああ!?」
立ち上がろうとした瞬間、足の痺れが一気に襲ってきて、俺はその場でのたうち回った。
痛え!? というか足が動かねえ!?
「ちょっとあまり暴れたら埃が舞うからやめてよね」
「お前よくそれが言えたな!? お前本当に人間か!? 血も涙もないのか!?」
「童貞がわぁわぁ騒がないでよ、みっともないしうるさいから喋らないで」
「童貞に人権がないみたいな言い方やめようね!?」
あー……若干痺れは取れたけど、これはしばらく立てそうにないわー。
メンタル面も完膚無きまでに折られてるから再起まで時間がかかりそうだ。
「あの……秋嶋君。大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫……春宮は本当に優しいな……」
あれ? 後光が差して見える? さっすが聖女様だぜぇ……!
「……うん。決めた! あたし、春宮さんと友達になるわ」
「え?」
「おい、何を急に……」
勝手に話を進めたせいで、春宮が戸惑ってんじゃねえか。
「そういうわけだから、陽。ちょっと女の子同士で話があるから出て行きなさい」
「ここ俺ん家ィッ! というか冬真だっているだろうが!」
「冬真はいいのよ。アンタと冬真じゃ存在価値が違うもの」
「差別だ! 人種差別反対! イケメン以外にも童貞とフツメンの人権を求める!」
イケメン以外は生きる価値が無いと言うのか! というかお前冬真とくっつけてやった恩を仇で返すつもりだな!?
「ひなた。俺も陽と一緒に外に出てるから、話が終わったら呼んで」
「うんっ。ほら、そういうわけだから、早く出て行きなさいよ」
「……や、あの。出て行きたいのは山々なんすけどね……ひなたさん」
俺の足が感覚取り戻すまで待ってくれねえっすかね……。
結局、俺の足が感覚を取り戻すまで、体感で5~10分かかってから、普通に追い出された。
家主が自分の意思で家にいられないなんて、こんなのおかしいだろ……。
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