第3話 聖女様と理由
「一体どういうことなのか説明してもらおうか!?」
クラスでの衝撃的な告白劇から時間は経って、放課後。
俺はどうにかクラスメイトたちからの殺戮から逃げ切り、この原因を招いた聖女様こと春宮に詰め寄って問いただしていた。
「……あの後、考えたんですけど……またああいう風に強引なナンパされるんじゃないかって思ったら怖くなってしまって……」
「いや、それは分かるけど……それとこれとがどう繋がるんだよ?」
「ですので……私に彼氏がいたらナンパしてくる人もいなくなると思ったんです」
可愛らしく人差し指をぴんっと立てた春宮がその指を俺に向けた。
……なるほど、聖女様の言いたいことは分かった……が!
「それ別に俺じゃなくても良くないか!? そのせいで俺がどんな理不尽な目にあったと思う!? クラスメイトから殺されかける気持ちを教えてやろうか!?」
「ご、ごめんなさい! で……でも、困ったら頼れって言ってくれたじゃないですか!?」
「うぐっ!? それを言われたら反論出来ねえ……!」
確かに俺は頼れって言ったよ?
でもまさかその数時間後にすぐこんな事になるなんて思いもしないだろ!?
「あと、これ俺にメリットが無いよな?」
「……メリット、ですか?」
春宮はその人形めいた顔をきょとんとした表情させて、小首を傾げた。
クソッ、一々仕草が可愛らしいな!
「聖女様に彼氏が出来たなんて噂、明日には学校中に広まってるだろ? そうなってるとどうなると思う?」
「えっと……私がナンパや告白をされなくなる……ですか?」
「お前にとってはそうだな。じゃあ俺は?」
「秋嶋君は……うーん……彼女がいるって事になって、告白されなくなる……とかですか?」
目を瞑りながら思案する聖女様。
やべえ、マジで見惚れそうになった……!
「正解! つまり、俺に彼女が出来る可能性が無くなるばかりか、嫉妬に狂った野郎共に襲われることになる! これのどこにメリットがあると!?」
この話で得をするのは春宮だけだ!
俺は少なくとも、今すぐに彼女が出来る可能性を失い、ついでに命も失いそうなんだよ!
「そ、それは悪いことをしてしまいました……ごめんなさい」
「まあ……やってしまったものは仕方ないけどさ……」
「な、何かお詫びを……そうだっ! 秋嶋君の言うことを何でも1つだけ聞く、というのはどうでしょうか?」
「……な、何でも!?」
「はいっ! 何でもですっ!」
それはつまり……あんなことやこんなことを……!?
ご、ごくり……!
「あ……その……え、えっちなことは……ダメ、ですからね!」
「ちくしょぉぉおおおお!!!」
俺はその場に膝から崩れ落ちた。
神は死んだ。
どうしてッ! 世界はこんなにも残酷なんだよッ!
「あ、秋嶋……君?」
「……あーくそっ。そもそも頼れって言ったのは俺だしな……分かったよ、引き受けるよ!」
「あ……ありがとうございますっ!」
「その代わり、約束忘れるなよっ! 今はまだ何も思いつかないけど! いずれ何でも言うことを聞くって権利は使わせてもらうからな!?」
「はいっ! よろしくお願いします!」
こうして、俺と聖女様は……晴れて偽の恋人同士になったわけだ。
♦♦♦
「本当に送ってもらってよかったんですか?」
「まあついでだついで……春宮もこっち方面なんだな」
どうにも俺と聖女様は帰る方向がたまたま一緒だったらしく、バラバラに帰るのもおかしいので、家の近くまで送ることにした。
「はい。でも、不思議ですね。ここまで道が一緒なのに、登校中や下校中に秋嶋君の姿を見たことがないです」
「そりゃ生活リズムが違うからな。俺は遅刻ギリギリまで寝るタイプだし、帰るのも寄り道が多い」
春宮は規則正しい生活を送ってるっぽいし、お互いの姿を見かけなかったとしてもなんら不思議なことじゃないだろ。
「あ、私ここでいいですよ。ありがとうございました」
「そうか。じゃあまた明日な」
「はいっ! また明日ですっ!」
……今の笑顔、今日1番くるものがあったな……。
よく考えたら、偽とはいえ……春宮が彼女なのは悪くないのでは?
これでクラスの野郎共から襲われなければ本当に最高だったかもなぁ。
さて、コンビニに寄って帰るか……。
♦♦♦
数分後、コンビニに寄った俺は小さい袋を片手に自分の家へと歩いていた。
築13年ほどにしては小綺麗な外見をした2階立てのアパートの一室の1Kの部屋が、1人暮らしをするようになってからの俺の居城だ。
高校生にもなるんだし、1人暮らしぐらいは経験しておけと、父さんと母さんに追い出されたのが始まりだっけ。
最初はきつかったけど、1ヶ月もすれば慣れてどうにかなるもんだなぁ。
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
階段を上がり切った角の部分で誰かとぶつかってしまった。
声からして、相手は女性……しまった! 紳士を名乗る俺としたことがっ!
「す、すみません……大丈夫……です、か?」
「いえ! こちらこそ……って春宮!? なんで!?」
「秋嶋君こそどうしてこのアパートに!?」
「どうしてって……ここ、俺が住んでるアパート……」
「――え? ……私も、ここの住民ですよ……?」
……え、ええ!? そんなことってあるか!?
どうやら神様という存在は、俺たちの関係をとことん面白くするつもりらしい。
恐らく、神様の期待通り……俺と春宮は、お互いに唖然としたまま見つめ合い続けた。
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