第2話 聖女様と俺の馴れ初め
俺、秋嶋陽と聖女様こと春宮結花が初めてまともに会話をしたのは、GWの前日の学校で俺がゴミ捨てを押しつけられて渋々ゴミ捨て場に向かっている最中のことだった。
「ったく、じゃんけんで負けるなんて俺はとことん運がねえな」
文句を垂れながら、俺は明日からのGWのことを考える。
予定なんてないけど1日中家でごろごろして、怠惰の限りを尽くすことが強いて言うなら予定だな。
……確か冬真の野郎とひなたはプチ旅行お泊まりデートって言ってったっけ?
世界中のリア充にピンポイントで小型の隕石が降り注げばいいのに。
幼馴染みたちとのあまりの格差にやさぐれながら、校舎裏付近に差し掛かると、誰かの話し声が聞こえてきた。
「なあ、いいじゃん。明日から休みなんだしさ、俺と遊びに行くくらい!」
「ですから……私そういうのはちょっと……」
……ははーん? この声はさてはナンパの真っ最中だな?
学校内で物好きがいたもんだ。
シチュエーション的にはオラオラ系の奴が美少女に迫ってるってところか? いやあ、ベタだな。
……助けた方がいいよな?
「なんで? 俺のどこが不満?」
「いえ、その……不満とかじゃなくて、好きでもない人と2人だけで遊びに行くというのはちょっと……」
「遊びに行ったら好きになるかもしれないだろ? 行こうぜ?」
物陰からそっと顔出して見てみると、そこにいたのはいかにもケンカが強そうな奴と……春宮?
どうやら学園の聖女様は大変おモテになられるという噂は本当らしい。
「と、とにかく! 私はそういうのはお断りしているので! それでは!」
「おっと、逃がさないぜ!」
「は、離してください!」
うわっ、ドラマとか小説とかマンガで見たことある展開……。
……ま、正直声かけてるだけなら見逃してたけど、手を掴んで逃げないようにするのはやり過ぎだな。
「――うわぁ、上級生が下級生をいじめてるー。これは大変だなぁ」
ゴミ袋を脇に置いた俺はスマホを構えて写真を撮りながら被写体のナンパ野郎と聖女様に近づいた。
「なっ!? 何だてめえ!」
「何って、通りすがりの学生ですけど? そっちこそ何やってんすか?」
訝しむように春宮の腕を掴んでいるナンパ野郎の腕に目をやると、焦ったのか力を緩ませた。
そして、その拍子に春宮が腕から抜け出してこっちに駆け寄ってきた。
「あっ!? くそがっ! ……てめえ、1年だな? 先輩に逆らうってのがどういう事か分かってんのか? あぁ?」
この学校は男子はネクタイの色で学年を見分ける事が出来る。
赤が3年、緑が2年、青が1年だ。
女子の場合はネクタイがリボンになる。説明終わり。
……誰に対しての説明だよ。
ちなみにナンパ野郎は3年だ。
「それは分からないっすけど、嫌がる女子の手を掴んで無理矢理言うことを聞かせようとするのがまずいことなら分かるっすよ? あれれ? 3年なのにそんなことも分からないんすかぁ?」
煽るように半笑い気味で言うと、ナンパ野郎は怒りで顔を染めた。
うわっ、ちょろすぎる。
これで興味が春宮から完全に俺に移ったわけだ。
「てめえぶっ殺す!」
煽られた先輩は向かって拳を握りしめ、俺の胸ぐらを掴んだ。
おー怖っ……殴られたらさぞ痛いんだろうなぁ……。
――ま、殴られてやるわけないけどな。
俺は胸ポケットからある物を取り出して、先輩の顔に思いっきりぶちまけてやった。
「ぐわあっ!? 何だこりゃ!? くっそ目が痛え!?」
「いやーまさか持ってた塩がこんな風に役に立つとは……ねっ!」
「ほぐあっ!?」
塩をかけられてたたらを踏んだ先輩が胸ぐらを離したので、股間に1発蹴りをくれてやった。正当防衛だ、悪く思うな。
「く……くぉ……て、てめえ顔は覚えたからな……! ぜってえ、殺す……!」
「え? 何? 塩のおかわりが欲しいって? んもー先輩ってば欲張りっすねー」
「ぐああ!? 目がぁ!?」
要望通り、追加で塩をかけてやった。
まるで芋虫のようにのたうち回る先輩に近づきとどめの一言。
「先輩……今年受験っすよね? もし、さっきの強引なナンパ中の写真が運悪く教師陣に見られちゃったりしたら……一体どうなるんすかねぇ?」
「ひっ!? た、頼む! それだけはやめてくれ! せっかくの運動部の推薦が取り消されちまう!」
「だったら……分かるよな?」
「……2度とお前らにはちょっかいかけねえし復讐なんて考えねえ!」
よし、それならいい。
「じゃ、俺ゴミ捨ての途中だから。聖女様も授業が始まる前に教室に戻れよ」
「あ……わ、私も手伝います」
「そっか? じゃあ頼むわ」
俺と春宮は蹲ってぴくりともしないナンパ野郎を置いて、ゴミ捨て場に向かった。
♦♦♦
「あの……助けていただいて、ありがとうございます」
「気にするな、本当たまたまゴミ捨ての最中だっただけだから」
まさかゴミ捨てに行ったらその前に大型の歩くゴミを掃除する羽目になるとは思わなかったけど。
「ところで、秋嶋君はどうしてお塩なんて持ち歩いていたんですか?」
「どうしてって……リア充共に対してすぐ塩撒けるようにだけど?」
「そんな常識だろって顔されても困りますよ!?」
対リア充対策はうちのクラスでは必須だぞ。
なんせ、授業中すらもいちゃいちゃと筆談してる俺の席の前に座る冬真とひなたがいるからな。
「あの! 何かお礼をさせてください!」
「え? いやいい。ゴミ捨て手伝ってもらったし、それで終わりだろ。じゃあ戻ろうぜ」
「まだお話は済んでないですっ!」
教室に戻ろうとしたら、頬を膨らませた春宮に行く手を遮られた。
……なるほど、これは確かに人気があるのも頷けるな。
その表情に、俺はちょっとだけ心臓が高鳴った。
「んー……じゃあ、俺が困ってたら今度は春宮が助けてくれ。その代わり春宮がまた困ったことになったら俺を頼ってくれ」
「――へ? あ、はい……」
「よし、今度こそ戻ろうぜ」
何かを考え始めた聖女様と俺は連れ立って教室に戻った。
俺はそこでもう春宮と深く関わることはないって思ってたんだけどな……事件は放課後に起こってしまった。
「あ、あの! 春宮さん! 好きです! 僕と付き合ってください!」
教室内でまさかの公開告白をする奴が出てきてしまったんだ。
当然、教室内は大騒ぎ。
「鈴木の野郎抜け駆けしやがって! 処すか?」
「まあ、待て。それは結果を見届けたあとでもいいだろう」
「なるほど、成功しても処して失敗しても処す……合理的だな」
クラスメイトが悪魔しかいねえ。
どっちにしろ、鈴木の命運は死あるのみらしい。
「あれって断り辛くさせてるだけなのよね。男側からしたら、ロマンチックだとか勇気を振り絞って、みたいな感じだけど」
「ひなたは相変わらず辛口だな……」
ってかほんっと、春宮はモテるな。
まさか昼休みのことといい、1日2回も告白されるなんてな。
方法はともかくとして、あれは真っ当な告白だし、春宮もあれならちゃんと返事するだろ……ん? なんであいつこっちに来てんの?
クラスメイトたちの目が聖女様を追って、やがて俺へと集まった。
一体何が始まるんですか?
「ごめんなさい、実は私――こちらの秋嶋君とお付き合いをすることになりましたので」
「「「「えぇぇぇぇぇええええ!?」」」」
……え? 何それ? 俺も知らないんだけど!?
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