幕間3
「なるほど、そんなことが……。それで、オーディションはどうだったのですか?」
二時間後、槇村は理事長室にて福田に文化研究部の活動内容――厳密には、外部からの協力者であるクロガネと新倉の活動初日の報告を行っていた。
「場所は中庭で行いました。ちょうど他の部活動もなかったので。たまたま近くに居た生徒たちも、興味本位で見物してくれたので、即席の観客としては二〇人弱は集まったかと思います」
言いながら、槇村はPIDを操作して動画ファイルを呼び出し、空中にホロディスプレイを展開した。
「これがお二人のアクションです」
再生された動画の画面中央には、一定の間合いを取ってクロガネと新倉が対峙している。二人を囲むように画面端と奥には、見物してる生徒たちの姿もあった。
「ん? 彼らが手にしている刀は?」
福田が画面を指差す。
クロガネと新倉の手には日本刀が握られており、日の光を受けた刀身がギラリと輝きを放っている。
「新倉さんの私物だそうです。何でも、訓練用に刃引きした真剣だとか」
「……つまり、本物?」
「そうなります。勿論、安全のために刃は潰してありましたし、切っ先も丸く加工してます。とはいえ、材質自体は本物なので、当たれば相当痛いかと」
動画内の二人が動き出す。滑らかな足捌きと共に間合いを詰め、互いの得物を振るい、避け、いなし、激しく打ち合って思わず腰を浮かせてしまう程の金属音が鳴り響く。
「……これ、寸止めじゃないですね」
「はい。ガチで振り抜いています。当たれば骨折は確実ですね、下手すれば死にます」
槇村の断言を肯定するかのように、二人の動きは更に加速し、激しいものとなる。
互いに相手の裏を読んでいるのか、立ち位置が何度も入れ替わり、振り抜き突き出した刃を避け、いなし、あるいは受け止める。その都度、互いの刃は即座に切り返して留まることがない。まるで、銀色の閃光が両者の間で幾度も飛び交っているかのようだ。
やがて、一際激しい衝突音と共に鍔迫り合いになったところで、
『ストーップ! ストップですッ!』
美優が制止を呼び掛けながら、二人に駆け寄った。
そこで二人は残心しつつ距離を取り、同時に刀を下ろす。
「怪我する前に安藤さんが介入したことで、ここまでとなりました」
「……そうですか」
思わず前のめりになって見入っていた福田は浮かしていた腰を下ろし、「ふぅ」と息を漏らす。もしも美優が止めなければ、勝負の行方はどうなっていただろうか?
「スゴイ迫力でした。実際に生で見ていた人達は皆、今の理事長のようでしたよ」
動画では、興奮した様子の生徒たちがクロガネと新倉を取り囲み、「スゴイ!」「カッコイイ!」と口々に称賛していた。
校舎の窓から見物していた生徒たちも歓声を上げ、二人に拍手を送っている。
「最終的に、中庭に集まった観客は百人近くまで増えたかと思います」
「そうでしょうね、これは見ないと損です」
福田も絶賛する。
「それでオーディションの結果ですが」
「言わなくて結構。結果は解り切っています」
「でしょうね」
落ち着いた福田は、肘を卓上に乗せて両手を組んだ。
「いや、とても良いものを見せて貰いました」
「学園祭当日にもう一度見れますよ。今回はアドリブだったので、本番はアクションの内容が異なるかもしれません」
槇村はそう言ってPIDをしまう。
「確か文化研究部は、当日は講堂を希望してましたね」
「はい。ただ、吹奏楽部や合唱部、軽音楽部など他の部も多数希望しており、使用枠については抽選で決めようかと」
才羽学園・講堂の観客席数は五百席、音響や照明設備も充実してあるため、屋内イベントでは体育館と並んで人気のスポットである。
当然ながら、使用権を巡っての競争倍率も高い。
「文化研究部は抽選を免除するよう、実行委員会に伝えてください」
「無条件で講堂の使用枠を獲得ですか」
槇村が大袈裟に驚くポーズをとる。
「公平性に欠けるなどと反論する者には、今の動画を見せてください。といっても、槇村くん以外にも撮影していた学生が居るでしょうから、明日にはこの話題で持ち切りでしょう」
「解りました。それでは、抽選が終わり次第、講堂を当日使用する部活の練習時間の割り振りについても、議題に挙げておきます」
「お願いします」
「それでは、失礼します」
槇村は一礼し、理事長室を後にした。
扉が閉まったその時になって、福田は「あっ」と声を上げる。
「今の動画、コピーして貰えばよかった……」
私立才羽学園理事長・福田幸子。
時代劇マニアで特に殺陣やアクションシーンに目がない彼女は、しくじったと頭を抱えるのであった。
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