まともなバトルになる訳ない

 拘束魔法の閃光に貫かれたシリスは、力が入らなくなったのかその場にパタリと倒れこみ動かなくなった。

 だけど、口は動くようでここ最近で一番高いテンションで僕に話しかけてくる。


「はうっ、何か今、体に衝撃が…これは快感なのでしょうか!?体が上手く動きません!!リーンさん、見てますか!」


 シリスがバインドの衝撃に興奮して何か言っているが、今の光景があまりにも絶望的で頭が現実を受け入れるのを拒否しているので、全く頭に入って来なかった。


 …その衝撃はバインドの衝撃だ。


 さらに最悪な事に、倒れたせいでウルフを刺激したのか、臨界点を超えてしまったのかアーミーウルフ三匹がシリス襲い掛かる。次々にシリスに飛び掛かり、その鋭い爪や牙で彼女の体に傷を付けていく。急所だけは守られているが、いつ何が合ってもおかしくない。


「ああ、痛い、痛いです!ですが、リーンさんに見られてると思うとこれもまたイイ!!」


「ちょっと、シリス大丈夫なの!?」


「はい、痛いですがリジェネで何とか回復しています、それよりもしっかりねっとり見ていてくださいね!あふんっ」


「あうぅ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 さらに状況が悪化しているがとりあえずシリスが大丈夫そうで良かった。頭がおかしいのは元からだろう。


 シリスが言っている「リジェネ」であるが、スキルの一つで自身にのみ有効な継続回復魔法である。シリスの魔力属性が回復に特化しているのもあって、最初に取れるスキルの候補にあったので取ったようだった。

 「これでいくらでも攻撃が受けれますね!」と言っていた時のシリスの目の濁り方を僕は一生忘れられないだろう。


 キリーはキリーで、恐怖によって狙いがズレたことでバインドをシリスに当ててしまった事でまた縮こまって震えていた。


 今の所僕のジョブも全くの役立たずだ。現状、スキルすら取れないと来た。二人にとやかく言っているが、僕が一番のお荷物なのだ。


 これはもしや詰んだのではないだろうか。ここから大逆転出来る未来を思い描けなかった。

 かといって、シリスが襲われている今、この状況は打破しなくてはならない。


 色々頭を振り絞った結果、もう一度キリーの魔法に頼るしかないという結論に至った。僕が何も出来ない以上、そうするしかなかった。


「キリー、もう一度補助魔法を撃って!」


「もう駄目ですぅ。パパ、ママごめんなさい、私はここで死んでしまうようですぅ。ああ、最後にもう一度パパとママに会ってギュってして貰いたかったです…」


 僕が声を掛けても相変わらず頭を抱えて震えている。死期を悟ったように両親へ別れの挨拶を述べているが、今そんなことをしていると本当に死んでしまう。


 僕はキリーの肩を揺らし、魔法を使うようにお願いする。


「キリー、もう一回支援魔法を!早くしないと僕達本当に死んじゃうよ!」


「そ、それは嫌ですうぅ…」


 よし、もう一押しだ。現状を理解させるために、シリスの方を指さして再度、急かすように大きな声で支持を出してみる。


「そうでしょ!?それにシリスが今襲われてるんだ、だから早く魔法を!早く!!」


「シ、シリスさんが死んでしまいます!守らないと!ディ、ディフェ!!」


 そう言って立ち上がりまた杖を振ると、杖の先から青い光が飛んでいきシリスに当たった。ディフェとは防御力を上げる魔法で、これを掛けておくことで被ダメージを押さえて安全に戦うことが出来る。もちろん全てのダメージを抑える訳ではないが、あるに越したことはないだろう。


「いいよキリー、これでシリスの怪我も少n」

「ディフェ!!」


「ん?」


「ディフェ ディフェ ディフェ ディフェ ディフェ ディフェ!!!」


「ちょっと、キリー!ストップストップ!!」


 キリーが壊れたかのようにシリスに魔法をかけ続けていたので慌てて止めた。あまり魔法を乱用すると、魔力が切れてしまう。魔力が切れてしまうと、魔力欠乏症になり気絶、もしくは最悪の場合死に至る事もあるという。


 僕が仲間を助けられる実力が無い今、そんな状況に陥るのは非常によろしくない。そんな意図を汲み取ってくれたのかは分からないが、キリーは魔法を唱えるのをやめた。


「はあはあ、でも、シリスさんが死んじゃいますぅ…」


「キリー…大丈夫だって。元々致命傷は無かったしリジェネもあるんだ、キリーの魔法が掛かったらほとんどダメージも入らないさ!」


 どうやらキリーはシリスが心配で、死んでしまうのが怖くて必死に守る為に魔法を乱発していたようだ。やり方に不安は残るが、その思いはとても嬉しかった。


 やはり、根は優しく真っすぐな子なんだなと、改めて実感した。


 そんな綺麗な気持ちでシリスの方をチラッと見る。リジェネもあり、更にディフェで防御力が上がったので大丈夫だと思うが、やはり心配ではある。


 そうしてシリスの方を見ると



 戦闘の前と変わらない綺麗な体で、死んだような目で地面に横たわっているシリスと、牙と爪がへし折られたアーミーウルフが三匹、地面に這いつくばっていた。


 なんだこの状況?

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