訳アリ
頭を抱えるキリーを引きずり、またまた静謐の森へと入った僕たちは依頼の内容を聞きながら目的の場所へと向かっている。
「それで、なんのモンスターを討伐するの?」
「ちっ、なんでもいいだろうが。黙ってついて来いよ」
相変わらずつんけんしているが、これはこれで可愛く見えてきている。だけど、シリスはそんな態度が気に入らなかったのかキリーに食って掛かる。
「なんですかあなたは!もっと普通に喋れないのですかっ!」
どうやらシリスとキリーは相性が悪そうだ。シリスも僕といるときはちょっとアレな子なので、こうやって怒りの感情を露わにするのは珍しく思う。
まあ、僕が特殊なだけでずっとこういった言い方をされていると癇に障るのも分からないでもないけどね。
これは喧嘩になるのかな、と思ったがどうやらそうはならないようだ。
「ひっ、調子に乗りました…ごめんなさいぃ…」
「はあ、もういいので依頼の内容を教えてください」
「はいぃ、私が受けた依頼はアーミーウルフの討伐です」
どうやら、シリスが怒ったのが怖かったのかまた頭を抱えながらうずくまってしまった。やっぱりポンコツ臭がプンプンするというか、極度の怖がりなようだ。
にしても、アーミーウルフか…
アーミーウルフは、オオカミ型のモンスターで真っ白な毛並みに鋭い牙が特徴で複数匹で群れを作っており、連携して獲物を狩る事を得意としている。一匹だけの強さならFランク程度だけど、この連携攻撃が厄介なためにEランク指定のモンスターになっている。
そういえば僕たちのギルドランクについて話してなかった。結局シリスはFランク、僕はEランクからのスタートとなった。能力については僕たちは申し分ないのだけど、何分ステータスとジョブのアンマッチが過ぎるとのことだ。僕に至っては「ヒモ」という謎のジョブのせいで冒険者としての登録が危うかったけど、ステータス自体がCランク冒険者と遜色なかったため、ランクを下げてなんとか登録させてもらった。
ギルドにおける冒険者のランク付けの決定権は、どうやら受付嬢に一任されているらしく、受付嬢の募集の際にはそういった「人を見る目」が試されたりする為、合格するのはかなりの難関だそうだ。
ようするにサナさんは美少女の上にとても優秀だということだ。メガネっ子は伊達じゃない。メガネだけに…メガネだけに。
そういった訳で、ステータスとジョブを見たサナさんが頭を悩ませた末にそういった処遇になった。
「そういえば、キリーのランクはいくつなの?」
世界最強の魔法使いを目指しているのなら、それなりのランクはありそうだよな。それに魔法使いというしっかりとしたジョブだし、本人のステータスとのアンマッチがありそうもない。そうそうステータスとジョブのアンマッチがあるわけではないんだけどね。
「…俺はまだFランクだ」
「あれ、そうなの?ああ、まだ冒険者に登録したてなのかな?」
「違うけど…う、うるせえ!気にすんじゃねえ!!」
「キリーさんっ!」
「はぅ…すいません」
いつのまにかシリスとキリーの上下関係が築かれている気がする。まさかのシリス優位だった。僕以外には厳しめに行く彼女は、キリーを上手くコントロールしているようだ。
それにしても冒険者に登録したてな訳じゃないけどFランクか。何か嫌な予感がするな…本来であれば採取依頼なんかを数回こなしていればEランクにはすぐに昇格出来るらしい。だから登録したてじゃないのにFランクのまま、というのは何か訳アリじゃないとほぼあり得ないと言っても過言じゃない。
まあいっか。
「本来、アーミーウルフはこんな所に出てくるモンスターじゃないのですが、どこからか追われて来たのか最近この森に出現するようになったんです…だから、私がそれを倒せば評価されると思って受けました…すいません…」
ビクビクしながらそう話すキリー。たまに、モンスター同士の争いに負けて住処を追われ、本来の生息域から大きく外れた場所にモンスターが現れたりする。
そうこう話している内に、アーミーウルフが目撃された付近へと到着した。近くを注意深く探索していると獣の足跡らしきものを発見した。
「ここら辺が目的地か。うーん、たしかにアーミーウルフの足跡っぽいのがちらほら付いてるね」
「そうですね。それにフンらしき物も落ちてるので、ここら辺を新しく縄張りにしている可能性はありますね」
あたりに気配は感じないが、どうやらこの辺りに出現しているのは間違いなさそうだ。このまま放っておくと変に繁殖して、町にまで危害が及ぶかもしれない。確実に討伐しておきたいところだ。
しばらく付近を探索していると、シリスが大きな声を上げて僕を呼んだ。
「リーンさんっ、こちらへ来てください!」
「どうしたのシリス?」
「これを見てください…」
シリスが指し示す場所を見ると、最初に見つけたアーミーウルフの足跡より一回り大きな足跡があった。
「これは…?」
「わかりませんが、…どうやらここにいるモンスターはアーミーウルフだけじゃなさそうですね」
そんな話をしていたその時、急に僕は危険な気配を察知した。
「シリス、危ない!」
そう言って腕をつかみ僕の方へ引き寄せた瞬間、シリスが元居た場所を白い影が一瞬で通り過ぎた。
その影の行く先に目を向けると、真っ白い毛並みのオオカミが三匹と、周りのオオカミより一回り大きな、白銀の毛並みをしたオオカミが一匹そこにはいた。
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