俺ッ子ポンコツ魔法使い

 リリスさんから依頼された食材を採りに行った帰りに茂みの中で怯えている女の子を見つけた僕たちは、依頼の完了報告だけ済ませ、その女の子も含めた三人で町中にあるカフェへとやってきていた。


 茂みで見つけた彼女は、黒髪ショートでスラっと身長は高く、目鼻立ちがしっかりしてるので中世的なイメージを受ける。スタイルもスレンダーなので恰好が恰好なら美少年と言われても納得してしまうだろう。

 そんな彼女があの茂みで何をしたかったのか気になった僕たちは彼女を連れてカフェへと赴き、質問コーナーを…と思ったんだけど


「えーっと、それで君はあの場所で何をしてたの…?」


 僕は少々ビビっている。なぜビビっているかというと


「あ?俺があそこで何やってようとお前に関係ないだろうが」


「そ、そうだよね、ごめんね…」


 そう言って彼女は椅子を傾け、カフェの机に足をかけた。見つけた時と比べて、大分と性格が変わっていた。なんだろう、ならず者っぽいというか、男の子っぽい雰囲気になっていた。正直結構怖い。


「(ね、ねぇシリス…なんか彼女、さっきと性格全然違うように思うんだけど)」


「(そうですね…さながら二重人格のような感じですね…)」


 シリスもやはり性格の違いを感じているようだ。感じない方が可笑しいぐらいの性格の変わりようだけど。


 茂みで怯えてた彼女と、今目の前にいる彼女が同一人物とはとても思えない。二重人格と言われるとそう思えてしまうぐらいには。


 すると、僕が素直に謝って喋り掛けなくなったのが居心地悪かったのか、コホンと咳をしてから彼女は話始めた。


「と、討伐依頼を受けたんだが…そ、そう、ちょっと催していたから、出すもん出してたんだよ!!」


「言い訳にしてもひどい!!」


 言い訳としては0点の言い訳だった。確実に嘘だし何より下品だった。女性はトイレなんてしないんだ!!


 だけど、討伐依頼か…


 討伐依頼とは名前の通り、モンスターを討伐することを目的とした依頼だ。このモンスターが暴れているから、このモンスターの肉が美味しいから、素材が欲しいから等々様々な理由でこの依頼が出される。冒険者が受ける依頼のほとんどがこの討伐依頼だし、ギルドに出される依頼のほとんどもこれだ。

 やはり、モンスターという規格外の生物に対して対抗できる存在が冒険者だと認識されているからだろう。


 多分だが、彼女は討伐依頼を受けたはいいが、怖くなったのかなんなのか、あの茂みに身を隠して危険から逃げていたんじゃないだろうか。それが恥ずかしかったから誤魔化しに走ったんだろう。


 細かい部分まで合っているかは分からないが、もし困っているなら僕は彼女を助けたい。


「その討伐依頼は完了したの?」


「お前らに連れて帰られたからまだだよ!あーあ、もう少しで完遂出来てたのによ」


 そう言って、悪態をつくが、目は泳いでいるし急にソワソワしだした。


 この子はアレだ。嘘をつくのがとても下手な子だ。見ていて面白いタイプの子だわ。


 まあいい、じゃあ今はその言い訳を逆手に取らせてもらおう。


「なるほど、僕たちのせいで…じゃあ、お詫びにその討伐依頼、僕たちも手伝うよ!」


「なっ、い、いらねえよ!俺一人で出来るっつってんだろ!」


「もしかしたら一人で出来るかもしれないけど、僕たちに君の邪魔をした償いのチャンスが欲しいんだ。ね、お願いだよ」


 じっと彼女の目を見ながら、本当に申し訳なさそうな顔をしてお願いする。そうすれば彼女の性格なら…


「うっ……しっ、仕方ねえな!足引っ張るんじゃねえぞ!!」


 やはり彼女はチョロいやつだった。見た目こそ中世的で、先ほどまでの雰囲気のせいで怖く見えていたが、一皮むけばポンコツの匂いがプンプンしていた。


「うん、ありがとう!!そういえば自己紹介がまだだったね。僕はリーン=バクス。よろしくね」


「私はシリス=レムと申します。リーンさんの犬です」


「俺は……き、キリーだ。…………犬?」


「き、気にしないで!それより、キリーだね、よろしくね!そういえばキリーはジョブはなんなの?」


 またシリスが余計な事を言ったせいで、危うかった気がする。これ以上誤解を広める訳にはいかないし、キリーに変な印象を持たれるとこの先が辛い。


 それにしても、なにかシリスの態度が少し冷たく感じたが気のせいだろうか?言っていることはいつも通りだったけど。


「俺のジョブは魔法使いだ。俺はな、世界最強の魔法使いになる為に冒険しているんだ、だから依頼の失敗なんて許されねえ、足引っ張るなよ!」


 なるほど、世界最強の魔法使いか。夢をしっかり持つのは良いことだと僕は思う。なにかに挫けそうになった時、心が折れそうな時に支えになるのが夢だと思っている。それが有るか無いかでモチベーションに大きく差が出る。

 だから、夢を持って行動しているキリーには好感を抱いた。


「それで、お前らのジョブはなんなんだよ」


 ふむ、僕たちのジョブか…


「私は騎士です」


「は?線の細いお前が…騎士?冗談だろ」


「なにか文句でもあるでしょうか?」


 うーん、やっぱりシリスがキリーに対して冷たい気がするなあ。わだかまりは早いうちに解消しておきたいものだけど、現状解決策は思いつかないのでどうしようも無いな…


「…で、リーンは…?」


 ついに来たか。


「僕は……ヒモだ!!」


「ヒモ…?」


「ああ、ヒモだ」


「あの、ヒモ?」


「そう、あのヒモ」


 頭が受け入れを拒否しているのか、キリーが固まったまま動かなくなった。必死に現状を受け入れようと頭を回転させているのだろう。


 そうしてしばらく固まった後、やっとのことで理解出来たんだろう。キリーは顔を思いっきり青ざめて頭を抱えて叫んだ。


「ちくしょうが!!」


 後悔しても遅い。逃がさんぞ。

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