キ ノ コ
僕たちは現在、森の中を探索していた。
ギルドで僕のジョブが「ヒモ」と判定された件だけど、「ヒモ」というジョブはサナさんも知らないという。つまり、全く新しい、史上初めてのジョブだった。
いや、全然嬉しくは無いんだけどね。史上初って言われても「ヒモ」だからね。クズって言われているのと変わらないと僕は思う。
僕のジョブがヒモだと分かった時のサナさんの冷たい目といったら…
そして、史上初のジョブで前例がない為、情報が全くなく現時点でヒモに何が出来るのかはよく分からない。
もしかしたら何も出来ないかもしれない。なんたってヒモだからね。
多分、ソーレが言っていた「お楽しみ」がこれなのかな…だとしたら何て事をしてくれたんだと声を大にして言いたい。きっとこれなんだろうなあ…。
だけど、ソーレが意味もなくこのジョブにした意味が分からない。多分だけど僕の事を気に入ってくれて、ソーレの力の一部も分けてくれた。
その中で、こんなに意味のないジョブまでくれたのには、きっと何か理由があるんじゃないのかな。まあ、その意味が一切分からないから今はジョブの持ち腐れだけどね。
とりあえず、ジョブが無くても一応武器防具を装備して戦うことは出来るから、最低限身を守ることは出来そうだった。
そんなわけでヒモの僕と、軽鎧に身を包んだ騎士シリスはリリスさんからの食材集めの依頼を受けてまた静謐の森へと入っていた。
「ね、本当にシリスはその装備でいいの?もっと全身をしっかり覆ってくれる鎧とかの方が…」
「いえ、私の筋力じゃそんな鎧を着て動けませんし、それに攻撃を十分に受けれないじゃないですかっ」
「そっか……そうだね!」
ちょっと今は突っ込む気力も無かったので、スルーしておく。シリスは何か物足りなさそうな目をしていたが気にしない。
その後色々雑談をしながら歩いていると、目的の食材が自生している場所に到着した。
「ここですね。えーっと、必要なのはビミ菜とウマイ茸ですね。ビミ菜は分かりやすいですが、ウマイ茸はよく似たマズイ茸があるので気を付けてくださいね」
なるほど、キノコには食べれるキノコと見た目がよく似ているが、強い毒性を持って食べると中毒症状で最悪死に至るものもある。実際、この森の観光者の中でもキノコを見つけて持ち帰って食べて医者に運び込まれる者もいるという。
まあ、だが僕も山育ちでキノコは嫌というほど見て来た。ウマイ茸とマズイ茸の見分けはしっかりつく。
なので僕たちは二手に分かれて周りを探索しながら二種類の山の幸を探していく。
しばらく探してウマイ茸と、その近くにマズイ茸を見つけた。ウマイ茸は茶色く真ん丸な傘を付けたポピュラーなキノコだ。味わい深く重宝されている。
そして近くに生えているマズイ茸は、ウマイ茸にうっすら赤色の線が入ったような見た目をしている。注視しないと気づかないことが多く、食べると三日三晩はお腹を下すという。その激痛たるや世界に名高い英雄ですら苦痛でのたうち回るとも言われている。
ウマイ茸の近くに生えるのは、そちらの方がより動物に食べてもらえ、繁殖できる確率が増えるという、キノコの生きる知恵のようだ。その煩わしい習性の為、余計に被害者が増える。
そんなこんなでしっかり見分けて、ウマイ茸とビミ菜を採取した僕はシリスの元へと戻った。
「シリス、食材は集まった?結構沢山生えて……シリス、その手に握っているのは…」
「リーンさん、私が痛みでのたうち回っているところ、見たくないですか?」
そう。シリスはがっちりとマズイ茸を握りしめていた。
しかも、マズイ茸と認識した上で自信の趣向の為に食そうとしているようだった。もういっそ、どんどんと変な方向へとドМが加速しているシリスを見るのが面白くなってきている僕だけど、さすがにのたうち回っているシリスを眺める趣味は無いので引き留めておく。
「見たくないし、やめときなさいっ!!」
「あうっ。ああ、やはりリーンさんに叩かれるのが気持ちいいみたいです。今回はこれで我慢しておきましょう。さて、こちらも食材は集まりましたので帰りましょうか」
突っ込みのように頭を軽くパシッと叩くと、シリスが分かりやすく嬉しそうな顔をして頬を赤らめていた。
その甲斐あって、と言っていいのか分からないけれどシリスはそれで満足してマズイ茸を周辺に戻して立ち上がった。
どうやらシリスも食材は集まりきったようだったので、二人して帰路に着くため元来た道を歩き始めた。
そのとき、ガサガサっと茂みが揺れて葉が擦れる音がした。
僕は咄嗟にシリスを背中に庇い、剣を構えて茂みへとゆっくり近づいた。
そして、音の正体を確認する為に、ある程度近づいたところでガバッ!と茂みをかき分けると
「はううう……食べないでください。ごめんなさい、痛いことはしないでくださいいぃ~」
頭を抱えて縮こまり、プルプルと震えている女の子を見つけた。
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