まともなジョブに就きたかった…
「シリスさんのジョブは……騎士…です…」
はい?
シリスのジョブが騎士?聞き間違いだろうか。先ほどシリスは前線に立たない、後方での回復職ヒーラーとして大成することがほぼ決まったようなものだと聞いたばかりのはずだった。
なのに、ジョブが騎士?意味が分からない。
「えーっと、本当ですか?僕のと見間違えているとか…」
「いえ、確かにシリスさんので間違いないです」
そう言って、サナさんは僕に羊皮紙を見せてくる。それにはシリスの名前と、一番下のジョブの欄に「騎士」としっかり書いてあった。
騎士と言えば、最前線でモンスターの攻撃を受け切り、味方の攻撃の準備を整える為の重要な役割だ。その役割を十全にこなすためには屈強な肉体が必要になって来る。だが、先ほども言ったように、そしてステータスが示す通りシリスは線が細く、一般人よりも防御力の値が低い。とても務まるとは思えない。
「これってジョブを変更することは…」
「出来ません。ギルドカードがシリスさんが騎士のジョブに最適だと判断した以上、騎士で確定になります。次変更になるとすると上級ジョブになる時ですね」
「まじですか…」
なんでシリスが騎士なんだ…ギルドカードちょっとおかしいんじゃないのか?シリスの何を見て騎士が最適解だと思ったんだ!
そう、憤慨しているとシリスがキラキラした目で僕に絡んでくる。
「リーンさん、リーンさん!私騎士ですって。モンスターの攻撃を受けて辱められている所をリーンさんに見て貰えるんですよ、最高ですね!!」
シリスのその様子を見て僕は先ほどの説明を思い出した。ジョブはステータスと本人の人格を元に決められると。
僕は悟ってしまった。シリスのドМが「ステータス」というジョブの選定基準の一端を無視するぐらいにジョブへの影響があったことに。
つまりシリスは、「モンスターの攻撃で辱められたい」という行動理念の一点突破によって騎士になったのだ。
マジか……
「ああ、楽しみです。オークにあんなことされたり、スライムにこんなことされたり……それをリーンさんが見ているなんて!」
「ねえ、なんで僕が見ていることが前提なの?」
「え?そういうプレイではないのですか?」
違う。絶対に違う。なんだ、そういうプレイって、僕を巻き込むな。
「リーンさんってそういった趣味がおありなのですね…幻滅しました」
「ちょっ、誤解ですから!シリスが勝手に言っているだけですから!早く僕のジョブにいきましょうっ」
なにか、誤魔化したような気がして嫌だが、このまま話を続けてもどんどん状況が悪くなる未来しか見えなかったので話題をむりやり変えた。
サナさんは白い目で僕を見たままだが、しぶしぶといった感じで僕の個人情報が書いてある羊皮紙を見ながら話し始める。
「リーンさんは…ステータスの平均値がとても高いですね。ギルド規定の関係で出来ませんが、Cランクからのスタートでも十分な能力です。変態さんでなければ有望株として唾を付けておきたいところでした」
「だから誤解ですって!」
「冗談ですよ。シリスさんの様子がおかしいのは傍から見てても分かりますので」
そう言ってサナさんは自分のメガネをクイッと上げて微笑んだ。
よかったぁ…せっかくのメガネっ娘美少女に早々に嫌われたらどうしようかと思っていた。
しかし、やはりシリスは傍から見ていてもおかしいのか…慣れるしかないのかな。
「話を戻します。リーンさんのステータスは現在のギルドCランクの平均値とほぼ同等、特に魅力の値が高いですね」
「み、魅力?それは…必要なステータスなんですか?」
「そうですね…たとえばモンスターを使役するテイマーだと、魅力値が高いほどテイムする確率が高くなりますし、踊り子のジョブなら魅力値によって支援技の効果が増減します。それ以外の職だと…ほとんど必要ないですね」
なるほど、本人の魅力が効果の高低、結果の有無に繋がるようなジョブだとこの魅力値がそのままジョブとしての優秀さに繋がるようだ。
高くて困る事は無さそうだが、ジョブによっては宝の持ち腐れになってしまう。なんとかこのステータスを生かせるジョブである事を祈ろう。
いや、ステータスもジョブの選定の一要因だと言っていた。このステータスが腐るようなジョブにはならないだろう。
だから心配しなくていい。
僕は期待に胸を膨らませてサナさんに問いかける。
「それで、僕のジョブは…?」
「リーンさんのジョブは…」
ごくり…
「リーンさんのジョブは………ヒモです」
はい?
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