おっとりドS
町に戻った僕たちは、シリスの先導で宿屋へと向かった。朝早くに旅立った僕だったがいつのまにか周りは茜色に染まっていて、もうすぐ夜の帳が落ちようとしている。
「リーンさん、ここです!」
そう言ってシリスが示した先には大きくは無いが、レンガ造りの綺麗な建物があった。軒先に看板が出てたのでここが宿屋だとわかる。
シリスに続いて中に入り、部屋の前へとたどり着く。そのまま扉を開けると、ベッドの中で女性が苦しそうに息をしながら臥せっていた。
「この人が…?」
「はい、私のお母さん、リリスです」
女性は、シリスと同じ栗色の髪をロングにし、シリスの姉と言われても納得してしまうほど若く美人だ。その美人が今、病によって歪ませられている。
苦しそうな女性を見ることほど辛い事も無い。早く治してあげたい。
そうして、キュレ草の花びらをポケットから取り出し、どう使ったものかと逡巡していると、フワッと僕の手から離れて飛んでいき、リリスさんの胸へとスッと吸い込まれていった。
すると、今まで苦しそうに呼吸していた彼女がまるで憑き物でも落ちたかのように安らかな息を刻むようになった。
「これは、治った…のかな?」
「そうなんでしょうか…ですが、先ほどよりも格段に良くはなっていると思います。まだ予断は許さないかもしれませんが、一先ずは安心…だと思います」
「そっか、良かった…」
まだどうなるかは分からないけど、一先ずは肩の荷が下りたと言ってもいいのだろう。
その後、僕はシリスに案内されて宿屋の一室を貸してもらい、シャワーを浴びた後ベッドに入っていた。
本当はシリスを手伝って、リリスさんの看病をしたかったがシリスから丁重に遠慮された。さすがにそこまで手伝って貰うわけにはいかないのと、体を拭いたりと男性には見せれない場面もあるので、とのことだった。
僕に休ませるために多少の建前はあるかも知れないが、あまり僕の我を通すのも良くないかとお言葉に甘えて休ませてもらっている。
そしてベッドの中で今日の事を思い帰す。シリスと出会い、キュレ草を見つけ、ソーレとも仲良くなり力を貰ったり、リリスさんも助けられたと言ってもいいだろう。
旅立ちの初日のはずだが、随分と濃い一日を過ごしたと思う。
初日にしては上手く出来たのではないだろうか?だけど、まだまだだとも思った。タスクボア相手にもギリギリの戦いだった。もしソーレがはっきりと人間に敵対意識を持っていたら僕らはあの場所で確実に死んでいた。
このままでは、旅を続ける途中で守りたいものを守れず死んでしまうかもしれない。
そんなことがあってはいけない。その為にも力は必要だと改めて思った。
ギルドに登録するとジョブというものが与えられるらしい。詳しくは知らないが早めにギルドへの登録もしたいな。
そんなことを思い返している内にいつの間にか眠りについていた。
----------
「ふあっ……もう朝か」
昨日の疲れもあったはずだが、朝早く目覚めてしまった。
特に自分の部屋ですることも無いのでシリスとリリスさんの様子を見に行こうと部屋を出ると廊下でばったりとシリスに出会った。
「あ、リーンさんおはようございます!」
「おはようシリス。昨日は大丈夫だった?」
「そうですね。お母さんの容態も安定しているようなので、お母さんの部屋に布団を敷いて寝れました」
「そっか。今日は僕も手伝えるところは手伝うからね」
「わかりました。ふふっ、ありがとうございますっ!」
昨日は気を使ってもらいゆっくり休むことが出来た。今日こそは力になりたいな。そう思いリリスさんの部屋へ向かおうとすると、部屋の扉ががちゃりと開き、リリスさんが出て来た。
それを見たシリスが慌てて駆け寄っていく。
「お母さん!もう大丈夫なの!?」
「あらシリス、おはよう。ええ、もうすっかり良くなったわ~。色々迷惑かけちゃったみたいねぇ」
どうやら、リリスさんは病に打ち勝ち快復したようだった。ちゃんとキュレ草も効いたようで本当に良かった…
リリスさんを改めて見る。美人なのは昨日も思ったが、顔つきが優しくおっとりしていそうだ。それに、胸もお尻も大k…げふっ!
「あらあら、この子はまだお眠なのかしら?」
一瞬だった。一瞬で僕の目の前に現れたかと思うと、シリスに見えない角度で僕のみぞおちにアッパーを入れてきて、こんなことを
「こーんなところで寝てたら危ないですよ~」
そして、僕を起こすように体を近づけたかと思うと耳元で呟いてきた。
「(あんまり舐めた事考えてると殺しますよ~)」
寒くないはずなのに、僕は体の震えが止まらなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます