ドラゴンでも可愛いものは可愛い

 ドラゴンも胸を押さえていたことで、僕は未知の敵から襲撃を受けているのかと周囲を警戒しながら見まわしたが、そんな気配は感じず首を傾げた。


 そうしていると、ドラゴンがコホンと咳払いして口を開く。


「い、今のはお前らがキュレ草を手に入れるにふさわしいかどうか試しただけだから、もういい。合格だ」

 

 ドラゴンが誤魔化すようにそう言うと、花びらが一枚飛んできて僕の手のひらの中に納まった。


「これって…?」


「それは、キュレ草の花びらだ。人間にはそれで十二分に聞く。どんな病も治せるだろう」


 今、手にあるものがキュレ草の花びらだと知って僕とシリスは顔を見合わせ、次の瞬間ワッと喜びの感情が押し寄せた。


「リーンさん、やりましたよ!キュレ草です!これでお母さんを助けられますっ!」


「良かったねシリス!シリスの頑張りがあってこそだよ!」


 シリスとひと時、喜びを分かち合った後、僕はドラゴンに向き直る。


「ありがとう!やっぱり君は良いドラゴンだったんだね!」


「う、そんなに褒めるな…こっちこそ意地悪言ってすまなかった。実は試練なんかじゃなく、ちょっと困らせてやろうと思っただけだったんだ」


 なんだこの子は、めちゃくちゃ可愛いんだがっ!!


「なんだこの子は、めちゃくちゃ可愛いんだが!!」


 口からも出てしまった。でも仕方ない。可愛いものは可愛い、可愛いは正義だ。


「はうっ」


 そうすると、ドラゴンはまた顔を紅潮させて胸を押さえた。まただ、大丈夫だろうか。


「ええっ、大丈夫!?体調でも悪いの?」


「う、うむ大丈夫だ…それよりお前、我が怖くないのか?」


「正直、最初は怖かった。死んだと思った。だけど、少しだけ会話して君は良いドラゴンなんじゃないかと思ったからね。怖くなくなっちゃった」


「なるほど。良いドラゴン、か。ふふ…良いドラゴン」


 良いドラゴンというワードが気に入ったのか何度か口ずさみにやにやしている。ドラゴンだが、表情が豊かで見ていて楽しい。


「お前、名前は何という?」


「僕?僕の名前はリーン=バクスっていうんだ。」


「リーンか、良い名前だ。覚えておこう。」


「君の名前は?」


「我か、我に名前などない………」


 何やら、彼女のトラウマに触れてしまったようで、彼女の顔が一気に暗くなる。これは何とかせねば。


「そ、そっか。…じゃ、じゃあ、うーん、ソーレ…なんてどうかな?太陽って意味なんだけど、君のキレイな金色の鱗と、暗い顔している君に太陽みたく笑って欲しくて考えたんだけど…」 


 我ながら臭かっただろうか。だけど、ドラゴンだろうと女性だ。女性にはずっと笑っていて欲しい、喜んでもらえるかは分からないが、彼女の為に何かしたいと思った。


「はうっ…ソーレ、ソーレか…それ凄く良いな…ソーレ、ソーレ。ふふふ……よし!我の名前は今日からソーレだ!!」


「良いな……私にも名前付けてくれないかな……」


 ドラゴンことソーレは少し俯いてブツブツと言った後、ガバッと顔を上げそう宣言した。どうやら喜んで貰えたようだ。僕の隣でシリスがボソッとそんなことを言ったが、君には名前があるじゃないか。


「リーン、ありがとう!まるで生まれ変わったようだ!」


「うん、喜んで貰えて何よりだ」


「今日は気分が良い!リーン、お前に加護をやる、受け取ってくれ!」


 ソーレがそう言うと同時に、僕の胸にぽうっと暖かい感覚が現れ少しして納まった。なんだろう、力が漲ってきた気がする。


「今、リーンの中に我の力を少し送った。まだ器として未完成だから体感の量は少ないがそれでも以前のお前より強くなってはいる。ついでに…おっとこれは後のお楽しみだ。まあ、すぐにわかるとは思うがな」


 なんだろう、お楽しみと言われると凄く気になるな。まあでも、すぐに分かると言うのならその時まで待っていよう。しかし、身体強化か。それだけでも嬉しい。しかも、ソーレの口ぶりからすると僕が成長すればよりその恩恵を受けられるようだ。


「そんなもの、貰ってもいいの?」


「うむ、我は気分がいいのだ!十分に活用してくれ!」


 ニコニコしているソーレが凄く可愛い。尻尾もビッタンビッタンと嬉しそうに振っている。ドラゴンって可愛いんだな。


「ありがとう、ソーレ。僕頑張ってこの力に相応しい男になるよ」


「うむ、精進するがよいっ」


 そう言って満足げに頷くソーレ。期待を裏切りたくはない、貰った力を十全に生かせるように努力しよう。


「それはそうと、リーン達は急いでいるのではないのか?」


 そうだった。早くこれをシリスのお母さんに持って行かないと1


「そうだった、シリス。早く町に戻ろう!」


「はいっ!あの、ソーレさん。ありがとうございます!」


 町へ向かおうと走り出す寸前でシリスはソーレに向き直し、深々と頭を下げた。


「うむ、気にするな!それより、急ぎだろう。我が転移魔法で町まで送ってやろう」


「本当に?ありがとうソーレ!」


 渡りに船とはこの事か。そして、やはりドラゴンという生物は規格外だと思い知らされた。転移魔法など、伝説上でしか存在が知られていないからだ。

 本来であれば、眉唾だが、ソーレの事はすでに信用しきっている。大丈夫だ。


 二人して頭を下げてお願いすることにする。


「じゃあ、お願いするよ」


「お願いしますソーレさん!」


「うむ、任せておけ。ではその魔方陣の上に立ってくれ」


 ソーレがそう言うと、地面に魔方陣が現れたので僕たちはその上に立った。地に足がついているのについていないような、独特の浮遊感を感じる。


「じゃあソーレ、ありがとう。また会おうね!」


「うむ、また会おう。いや、


「それは…」


 会うことになる?その発言の意図を聞きたかったが、言葉の途中で転移魔法が発動し、気付けば町の近くへと移動していた。


 まあ、それならそれで仕方ないか。またソーレと会えるのは嬉しいことだ。今はまだその日を待ちわびる事にしよう。


「シリス、行こう!」


「はい、リーンさん。案内します!」


 今は、目の前の女性から助けていこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る