ドラゴンはクール系かツンデレ系

 目の前に現れたドラゴンが口を開き、僕たちが死を覚悟したその時


「誰だお前らはっっっっっ!!!」


 ドラゴンからそう言われた。あれ、なんだこの状況?


「あ、えーと…」


「誰だと聞いてるんだっ!」


 死ぬと思った状況からのギャップが酷すぎて上手く頭が働かず言葉が出ない。

 

「えっと、僕はリーンと言います」


「ちっ、近寄るなっ!」


 とりあえず誰かと聞かれているようなので自己紹介しようと一歩前に出ようとしたら、めちゃくちゃビビられた。わかりやすくドラゴンの顔も強張っている。


 なんだこれ。


 何が起こっているのか僕自身理解出来ていない。しかも何だろう、僕好みの凛としたクール系女性ボイスで最高に耳が幸せなんだけど。というか、ドラゴンって話せるのか…なんにせよ、最初に感じていた恐怖の感情は吹き飛んでいた。


「えーっと、僕達はそこに生えているキュレ草を採取しに来たんだけど…」


「なに!だめだだめだっ!これは我が育てた我の物だ!このキュレ草からでる聖気が我の大好物なのだ!絶対に渡さないぞっ」


 なんと、あの幻想的な景色はこのドラゴンが作ったらしい。どういった仕組みと目的で作ったのかは不明だが、あの光景が自然のものではなく、人為的…まあドラゴンなのだが一つの生物によって作られたものだということに何故か感動を覚えていた。

 それだけあのドラゴンが超常的な存在ということなのだろう。


 だが当のドラゴンは、渡すものかと僕達に背を向け背中でキュレ草を隠しながら器用に翼で囲っている。

 変に小物感があってそれはそれで可愛いと思えた。


 しかし、これはどうしたものか…。正直、怖さというものは一切なくなったが、だからと言って力づくで奪えると思いあがるほど僕もバカじゃない。ドラゴンはドラゴンだ、性格はどうであれ戦闘能力は一級品だろう。


 だけど、キュレ草がないとシリスのお母さんを助けることが出来ない。


 色々考えた結果、僕は……土下座をすることに決めた。少し話しただけだが、彼女…と言っていいのか分からないが女性声なのできっとそうだろう。彼女は良い奴な気がして仕方が無かった。


 そして僕は、ゆっくり膝をつき、両手を地面につけ、その後額を地面に付けた。


「キュレ草が君にとっても大事な物なのは理解した、だけどそれが無いとこの子のお母さんを助けられないんだ、頼む」


 そうお願いした後ドラゴンをチラッと見ると、あうあうと狼狽えていた。なんだあれ、ちょっと可愛いな。そのあうあうが落ち着くと、ニタっと意地の悪い笑みを浮かべた。


「いいだろう、だが一つ条件だ。お前らどちらかの命を貰おう」


「なっ…」


 命だって…?そんなもの渡せるかっ!


 と、言いたいが相手はドラゴンだ。今反抗したところでどうこう出来る訳でもない。僕らの命はどちらにせよ彼女に握られているのだ。


 なら


「わかった、じゃあ僕の命を君に差し出すよ。だから、キュレ草を彼女に渡してやってくれない?この通りだよ」


 そう言って僕は再度土下座してお願いする。どうせ二人死ぬか一人死ぬかしか選択肢は無さそうだ。なら、僕が犠牲になるのは当たり前だ。

 女性を守って死ねるなら本望ではないだろうか。


「駄目ですよリーンさん、ドラゴンさん私の命を取ってください!リーンさんは困ってる私を助けてくれただけで、無関係な人なんです。お願いします!」


 そう言ってシリスも土下座してお願いし始める。


「なっ、駄目だよシリス。君にはお母さんを助けるっていう大事な役目があるじゃない!ここは僕に任せてよっ!」


「それを言ったら、私にはどうしてもキュレ草を手に入れる理由がありますが、リーンさんには本来関係ないじゃないですか!」


「関係ないとか言わないでよ!言ったじゃないか、女性を守ってこその男だって!僕はシリスを守りたいんだ。この命ぐらい使わせてよ!」


「はうっ…」


「はうっ…」


 僕がそう言うと、シリスが胸を押さえて顔を紅潮させた。今のセリフはそんなに臭かっただろうか?本心だけど、少し恥ずかしくなってきた。


 そして、それと同時にドラゴンも胸を押さえて、見てわかるほど顔を紅潮させていた。あっちは何なんだろう?


 はっ、まさか敵襲かっ!


 そう思い周囲を見渡すが何も気配を感じなかった。


 僕の頭には無数のハテナマークが浮かんでいた。

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