メス豚野郎

 先ほど、タスクボアに追いかけられていた女の子の安否確認に戻った僕は、元の場所で地面にへたり込み、はあはあと荒い息を吐きだす彼女を見つけた。


 どこか怪我でもしているのだろうか?僕が心配になって駆け寄ると、何か小さなブツブツと言葉を発している。

 その声にそっと耳を凝らしてみる。


「はあはあ、ぶ、豚野郎だなんて…嫌なはずなのに、嫌じゃないです。むしろこれは…気持ちいい?なんでしょうこの感覚は」


 豚野郎と言ったのはタスクボアに出会って、女の子にでは無いんだけど、彼女はその言葉を拾って困惑しながら自分の中の感情を探っているようだ。

 僕は今、何か新しい扉が開く瞬間に立ち会っているのかもしれない。さながら蛹から蝶へと羽化するがごとく、だけどそこまで綺麗じゃないものを見せられている気がする。

 本来羽化の最中に手を出してしまうと上手く羽化出来なくていびつな形で成長してしまうという。

 だが、この状況とは全く関係ないなと思い返し、とりあえず声を掛けておく。


「あの、大丈夫だったかな?」


「この胸に走る電流がごとき刺激は…快感?快感なんでしょうか?」


 なんかやばそうな方向にギアが入ってるようなので、ビシッとチョップをかませて正気に戻そうと試みる。


「えいっ」


「はうっ、痛い…でも、間違いないっ、間違いないですよ!これは快感です、気持ちいいという感覚がこれなのですねっ!!」


 ……手を出した結果、いびつな形で羽化してしまったようだ。チョップした手を眺めながら僕は後悔した。


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 しばらく経ち、やっとのことで女の子は興奮から落ち着きを取り戻した。一度血走った目で僕ににじり寄り「もう一回、いえもう百回チョップしてみてください!」などと言い出した時には本気で無視して帰ってやろうかとも思ったが、この危険な場所に女の子一人置いていくのは僕の主義に反すると思いなおし、グッと堪えて宥める事に専念した。


 その甲斐あってか徐々に落ち着きを取り戻した彼女は、ふぅっと深呼吸すると僕に目を向け挨拶をしてくる。


「失礼いたしました。先ほどは助けて頂きありがとうございます。私の名前はシリス=レム。この先のリンカの町で宿屋をやっている者の娘です。どうぞ、シリスまたは豚野郎とお呼びください」


 ペコリとお辞儀する彼女、シリスというらしい。最後の言葉は聞かなかったことにする。

 改めて見るシリスは、14~5歳ぐらいだろうか、あどけない顔立ちに栗色のショートヘアがよく似合う美少女だった。身長は140㎝程度だと思うが、胸がたわわに実っている。いわゆるトランジスタグラマーというものだ。これは立派なものをお持ちのようだ。

 いずれこの実りを収穫する未来を思い描きながら、僕も自己紹介する。


「僕はリーン=バクス、冒険者を目指して旅をしているんだ。ところでシリスはどうしてこんなところに?」


 モンスターもさして強くはないが、一般人が来るにはやはり危険な場所だ。しかもシリスは給仕が着るようなエプロンドレスに身を包んでいる。これでモンスターの出る森の奥を散策するなんて通常であれば考えられない。

 何か理由があるのだろうか?


「じつは…」


 話を聞くところによると、シリスの母、リリスさんというらしいがリリスさんが病に伏せているらしく、また厄介な事にその病が何万人に一人かかるかどうかの奇病らしく通常の薬草でも効かなければ、魔法で治すにも、奇病には効果が不確かな上に専門の人間を雇うのに莫大なお金がかかりすぎて支払えないという。


「ですが、この森にはキュレ草という万病に効く万能薬が生息している。という伝承があるんです。だからもう、その伝承にすがるしかなくて…」


 なるほど、そのキュレ草とやらを探すためにこんなところまで探しに…


「でも、ギルドに依頼するとかはできなかったの?」


「うちの宿は、そこそこ繁盛していたのですが、父は早くに亡くなり母と私と従業員だけで運営していたのですが、母が奇病にかかったことで宿も閉めるしかなく…ギルドに依頼する依頼料すらも払えない状況で…」


 ギルドに依頼を出すには、「依頼料」というお金が必要になってくる。まあ簡単な話、依頼するための手数料だ。これが払えないとギルドに依頼は出来ないのだ。

 成功報酬も依頼主からの出費になる為、手数料も払えない奴に成功報酬が払える訳がないからだ。


 ふぅむ…


「そっか…じゃあさ、僕も一緒に探すよ!」


「えっ、しかし今さっき出会ったばかりのリーンさんに迷惑をかける訳には…」


「大丈夫だよ。僕が好きで助けるだけだし、それに…」


 そうだ、僕にはとてつもないハーレム願望がある。将来は色々な美女美少女を周りに侍らし酒池肉林の生活を送るのが目標だ。


 だけど、根幹の部分を忘れたわけじゃあない。


 そう


「女性を守ってこその男だからね!」


「リーンさん……では、よろしくお願いしますっ」

  こうして、僕とシリスのキュレ草探しは始まった。

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