第37話 コラボ日本酒第2弾

コラボ日本酒の第2弾を考えるにあたって、僕はお世話になっている人達の商売にも

少し何か助けになることがないか、と考えた。

とはいえ、それぞれの商売にふさわしいコラボを一つずつ考えるのは、結構大変だし、商売によってはどうしても無理が出る。

出来れば、この商品は千代町娘とのコラボ商品、っていうのがすぐに分かればいいな。

となるとやはり、サインですかね。平成・令和時代でいうところの。

この時代にサインというのがあるのか、わからないけど。

分からないので、いつものように清に聞いてみよう。

「清、自分のものだと書類とか絵とかに名前を入れることは無いのかい?」

「唐突に聞くね、陣内さん。無くは、ないよ。あんまりやらないけど、あたしたちは。」

「あたしたちは?誰たちがやるんだい?」

「そりゃ、お侍さんたちよ。あとは庄屋さんとこかもやるのかな。」

「ふーん。」

やっぱり、庶民にはサインするようなことがそもそもないってことだな。

「そういう時に名前は苗字から書くのかい?」

「ううん。やっぱり絵とか、焼き物とかに入れる時に、普通に名前を入れるのは無粋でしょ。だから、かおうを入れる人が多いらしいわよ。」

「かおう?」

化粧品メーカーか?

「花押。花に押すって字ね。」

へぇ、そういう字

「自分の名前の一字を使って、すこし崩して書くの。自分だけが書けるやり方で。」

おう、まさにサインと一緒ですな。

「こんなのよ」

清はどこからか契約書のようなものを持ってきた。そこには一文字、僕の読めない書体で書かれていた漢字があった。

「こういうの真似されないの?」

「そうね。真似すると場合によっては極刑らしいけど。」

「きょくけい?」

「打ち首」

ひぇー。私文書偽造は、このころから厳しいのね。

「だから最近は印鑑を使うことも多いらしいわ」

なるほどね。そうなりますな。時代の動きとしては。

この印鑑が先々ではビジネスマンのリモートワークを妨げる一因になるらしいけど、この時代には関係ないね。

よし、それじゃ、5人には花押を作って、練習してもらおう。

僕は千代町娘の印鑑を作ろう。

その二つを一緒に押せば、そう簡単には偽造できないだろう。

あ、時太郎の作った版画もあった。

この3つを合わせて使っていくことにしよう。

ということで、僕が印鑑を彫り師に頼んでいる間に、千代町娘の5人は個人ごとに自分の花押を作り、練習することになった。

印鑑が出来上がるころには、皆、かなりサラサラと花押が書けるようになった。

よし、試しにグッズとして作った団扇に版画・花押・印鑑の3セットを施してみよう。

まずは団扇に時太郎が作った版画を押す。

版画はメンバー毎だから、そのメンバーが花押を書く、そして最後に印鑑を押す、という仕組みだ。

作ってみるとなかなか良い。

しかも、完成した1つをてると何となく5つ集めたくなるから、人間とは不思議なものだ。

これなら団扇の売上も上がるだろう。値段を少し上げてもいいかな。

他の商品もこの版画・花押・印鑑のセットで千代町娘とのコラボが出来ていくだろう。

花押を分けたことで、僕には良いアイデアが生まれた。

例のコラボ日本酒だ。

権藤さんに5種類の日本酒を用意してもらおう。

1つずつに版画・花押・印鑑を押していく。

そうすると、5種類のコラボ日本酒が出来るって訳だ。

もちろん5本セットで売ってもいいし、バラでもいい。

これならいけるんじゃないかな。

早速八兵衛さんを呼び出す。

かくかくしかじかです。

「おう、5種類の日本酒と共同商品開発するなんて、陣内さんもやり手スな。」

「いやそれほどでも。」

「いや、いいス。やはり親衛隊なら5本全部買いたくなるス。1本の千代町娘の

5倍売れる可能性があるス」

あぁ確かにそうなるね。計算上ですけどね。

「いいスねぇ。で、この酒の名前は何スか?」

「名前は五人娘。」

「え、千代町娘の名前は入れねスか?」

「うん、その代わり、千代町娘の印鑑を押して、五人のうち一人の顔の版画を押し、そこに

その一人が花押を書く。つまり、五人娘の葵、五人娘の咲、五人娘の五月、といったように千代町娘オリジナルのラベルを貼っていくって訳です」

「おりじなるのらべる?」

「あ、いや千代町娘がそれぞれのお酒を代表するような包装にするんです。」

「いいス。いいスよ、五人娘。いやぁ流石っス。陣内さん。」

いや、それほどでも。

「こうなると新人が加入してからの方がいいスかね。」

「え?」

「そうすれば、10人娘、20人娘って、出来るっス」

八兵衛さんたら…。



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