第36話 八兵衛のお願い、再び

「はーい、それでは皆さん、こんにちは。今日からみなさんは千代町娘舞踏教室の

生徒さんです。言ってみれば、千代町娘のお弟子さんですね。」

わぁー、とざわつく子供たちとそれを見守る親たち。

今日は、僕がJリーグのチアチームのチア教室からヒントを得た、千代町娘舞踏教室の第1回目だ。

時代が変わっても、自分の子供のために何かをしてやろうという親は多いようで、

募集を掛けたところすぐに一杯になってしまった。

「こんなに沢山、来るんスね。」

八兵衛さんが、感心した顔で言う。

「そうですね。僕もここまで一杯になるとは思いませんでしたよ。」

ま、ちょっとは思ってたけどね。

「やっぱり、普通の習い事と違う感じがするんスかね。」

「普通と違う?」

「そうス。普通、踊りを習っても、なかなか人前で踊る機会なんかねぇス。

それに、今までの踊りはどうしても形が決まっていて、御師匠さんは大抵長年踊りをやってきた御婆さんス。その御婆さんの踊りが出来るようになりたい、って思う子は少ねぇス。

でもこの舞踏教室の先生は憧れの愛獲留、千代町娘っス。自分がなりたい、と思っている人から教えててもらうのは嬉しいっス。そして自分も千代町娘と同じ舞台に、と考えてるス」

おぉ、まさに身近なアイドルになっているじゃないの。千代町娘。

「そういえば、八兵衛さん、こんなところで油売っていて、いいんですか?

最近、酒屋の仕事行ってるんですか?」

「心配ねぇス。千代町娘の日本酒が出来たじゃねぇスか。あれ、かなり売れてんスよ。そいでウチの大将が、こんなに売れるんなら、次のネタも考えてこい、っていうんス。だからあっしはネタを考えなくちゃ、いけねス。」

「ふーん、そうなんだ。大変ですね。」

「陣内さん、そんな他人事みたいに。」

え、いや他人事でしょ。それは。

「あっしが一人で考えられる訳ねえスよ。ちょっと陣内さんの考えを頂きたいス」

「え、僕が考えるの?」

「そっス。あっしが大将に千代町娘二号でどうスか、って言ったら、怒られたス。

そんな単純な名前じゃダメだって。」

「そりゃ、そうですよ。」

「何か、考えが無いスかね。あっし、次の展開がある、って権藤さんにも言っちゃったス」

「え、権藤さんって、あの造り酒屋の?」

「そうス」

さては、八兵衛さん…

「八兵衛さん、権藤さんのところ、何度か行ってるんですか、その打ち合わせに」

「そうスね。いい考えが無いスかね、って」

「いく度に権藤さんにご馳走になってるんじゃ?」

「え、あ。え?そんなことないス。全然、無いス」

「本当?じゃ、貸し借り無しだから、ゆっくり考えましょうかね。」

「いや、その、少し、すこーしだけご馳走になったス。だから早めに良い案を提案しないといけないス」

「少しだけ?何回くらいですか?」

「ほんの10回くらいス」

「10回! 八兵衛さん、そりゃ、権藤さんも期待してますよ。」

「陣内さん、お願いス。次の展開の案を考えてほしいス。」

まったく、八兵衛さんたら。しょうがないな。

こうして、コラボ日本酒の第2弾を考えないといけなくなった。

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