第33話 両者のうごき

僕らは千代町娘の第2期生を募集を始めた。

芝居小屋にポスター(手書きだけど)を貼り、参道の店にビラ(これも手書きだけど)を置かせてもらった。

しばらくすると、予想と違う反応が出てきた。

「陣内さん」

「どうしたの小春ちゃん」

「むこうの薬屋に、2期生の募集の紙を置かせてくれてって、頼みに行ったら、おかみさんから、娘に千代町娘の踊りを教えてやってくれないか、って言われたの。

まだ小さいから2期生にはなれないからって。」

「あ、あたしも別のところで似たようなこと言われたよ。」

「え、清ちゃんも。」

「陣内さん、そういう需要があるんじゃないかな。千代町娘になりたいけど、なれない小さい子がいて、親としては何かしてあげたい、例えば、踊りを教えてほしい、とか。」

「そういう需要ねぇ」

あるのかな。そんなの。

需要はあったとしたら、儲かるのかな。

そういえば、以前雑誌でJリーグのJ2のチームの経営者が出ていて、一番儲かるのは

チアリーディングのスクールだって、書いてあったな。

その記事には、沢山の幼稚園やら小学生やらのチアリーディングの恰好をした

子供たちが写真で写ってた。

習い事みたいなもんなのかしら。

「五月ちゃん、五月ちゃんの妹も千代町娘に入りたい、って言ってたよね。」

「うん。」

「いくつ?」

「8歳」

少学3年程度か。

「そりゃ、千代町娘2期生は無理でしょ。」

「あ、やっぱり。」

「じゃ、千代町娘の踊りが習える教室だったら、どうかな。」

「そりゃ、やりたがると思う。」

だよね。

いいじゃない。千代町娘ダンススクール。もとい、舞踊教室。

ここから上手くなった子とか将来性のある子を、次の千代町娘にするのだ。

千代町娘ユースだね。

「よし、千代町娘舞踊教室をやろう! 先生は君たちだよ。」

「え~、出来るかしら。」

「そりゃ、出来るよ、普段踊ってるんだから。」

「そんなものなのかしら。でも、そうね、あれだけ普段踊ってるんだし。」

「そうよ。やりましょうよ。」

「うん、楽しみ~」

こうして、千代町娘2期生募集と同時に、千代町娘舞踊教室もスタートしたのだった。

こりゃ忙しくなってくるよ、プロデューサーは。


 * * *


「はい、一、二、三、そこでくるっと回って、はい、一、二」

「どうですか?調子は」

「あ、笹川さん。大分まとまってきましたよ。」

「もう、あと少しですからね。これ、ウチの主人から差し入れです。」

「まぁ、どら焼き。越後屋のご主人はさすが、気配りがよく出来てますねぇ。

元祖千代町娘の皆は幸せもんですわ。」

踊りを教えていた男は、笹川に礼を言いながら、メンバーを集めた。

「よし、皆集合。越後屋さんが、差し入れを持ってきてくれましたよ。」

わぁ、ありがとうございます!と口々に娘たちが言う。

娘達は10人。

人数は倍は必要だ、と言った越後屋の主人の意向を受けてそうなった。

笹川はうれしそうにどら焼きを食べる彼女たちを見ながら、この娘達を

しっかりと舞台にたてなければ、と決意を新たにする。

「そういえば」

踊りを教えていた男がどらやきを食べ終わり、笹川の方に向きなおす。

「千代町娘が色々と動いていますね」

「あぁ、2期生募集のことかい。」

「えぇ。あと親衛隊を作るとか。」

「そう言ってるね。」

「舞踊教室も始めるらしいですよ。」

「舞踊教室?」

「ええ、何でも千代町娘が直接踊りを教えるとかで」

「ふーん」

そうなのか。最初は陣内さんのひどい踊りをどうやって形にするか、で

皆悩んでいたが、そういう苦労したことが、結果的に身になっているんだな。

「大丈夫ですかね?」

男は笹川に聞いてくる。

「何が?」

「いや、色々と策を練ってるみたいだから。」

「そんなことは良い。君たちは彼女たちがしっかりと歌と踊りを出来るようになるよう頼むよ」

「そうですね。それしか出来ないからね。」

そうだ。目の前の出来ることをやるしかないのだ。

笹川は自分にそう言い聞かせた。


 * * *


「はい、じゃ、次の子供さん、こっちきてね。」

「はい伸長を測るよ。はい、次は胴回りね。」

「はい、帯は何色がいいの?え、小春と一緒?じゃ、紫ね」

「はい、あなたは、葵と一緒?じゃ水色ね。」

「ちょっと、お父さん早く次の子の採寸してよ」

千代町娘の5人が、さっきから弾丸のように叫びながら、子供たちの着物の採寸やら反物の色決めをしている。

店の主である小春の父親も母親も反物を出したり、切ったり、と大わらわだ。

「こんなに来ると思ってなかったな。」

小春の父親が、店の前に並んだ子供とその親たちを見ながら言う。

「千代町娘の舞踊教室だからね。そりゃ、人気があるのよ」

小春が自慢げに言うと

父親がたしなめる。

「お前だけの力じゃないだろ。みんなのお陰だ。しかし、ありがたいことだよ。

こんなに子供の着物を新調してくれるなんて。」

「でも、やっぱり千代町娘の衣装を着て踊りの練習したいんだね。」

「五月ちゃん、そりゃ、そうよ。あたしたちもこの子たちのお手本になるように

愛獲留、頑張らないとね。」

「でも、皆さんウチの着物のために、お手伝いいただいてありがとうございます。」

「いえいえ、小春ちゃんは千代町娘の中心ですからね。」

「そんな葵ちゃん。中心は清ちゃんでしょ。」

「そんなこと、決めてないでしょ。」

「まぁ、まぁ。でもこんなにお客さんがくるなら、今度うちの番傘も

衣装に加えてもらおうかな。」

「あら、咲ちゃん、頭いい。陣内さんに言ったらいいよ。」

「じゃ、私も団子を」

「清ちゃんたら。」

はははは、と笑い声が店を包んだ。





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