第32話 2つの戦略

僕たちが千代町娘の親衛隊の準備に大わらわになっている頃、

元祖千代町娘のこけら落としの日が決まった。

これから約1か月後だ。

こうなると、そのこけら落としの前に親衛隊を何人集められるかが、僕らの大きなポイントだ。

僕らは芝居小屋の公演の後はもちろん、参道でもビラを配って、親衛隊の加入キャンペーンを行うことになった。

「千代町娘の親衛隊に入りませんかぁ」

「今なら、千代町娘の握手会などの特典があります~」

声を張り上げて告知をして、誘うのだが今一つだ。

元々が身近な愛獲留を標ぼうしていたので、握手会、というのが

思ったよりも響かない。

これまでも公演の後に握手してたりしたからね。

「こりゃ、厳しいな。」

音を上げさせたら、叶うものはいない八兵衛さんが、早速、音を上げた。

「もうちょっと頑張りましょうよ。」

「でもよ、厳しいもんは厳しいのよ」

確かに。

「し、親衛隊の、な、名前が、あ、あった方が言いやすいかも」

あ、名前…。

それを聞いて、ピンときた。

「そうだ!」

「ん、どうした、何か、良い案がでたのかい?陣内さんよ」

「はい!ちょっと、スミマセン、出かけてきます!」

僕は走り出した。

向かうは裏参道の組合長をしている金物屋だ。

僕が走っていくと、金物屋の主人はちょうど、何かを作っているところだった。

トンカン、トンカン。

「ご主人、はぁはぁ」

「お、千代町娘の陣内くんだね。そんなに慌ててどうしたんだい。」

金物屋の主人は手を休めて、振り返る。

「はぁはぁ。スミマセン。息があがっちゃって」

「若いのに、仕方ないね。」

「運動不足なもんで。ふう。もう大丈夫です。」

「で、何の用だい?」

「はい。この参道の名前ってあるんですか?」

「ここ?ここは昔から参道って言ってたからな。昔はここしか参道が無かったから。」

「あぁ、そうですね。越後屋がいきなり表参道、って言いだしたんですよね。」

「そうなんだよ。あいつは昔から、言ったもん勝ち、みたいなところがあるからな。」

「僕、いい名前を考えたんですよ。この参道の。」

「いい名前?」

「そうなんです。それは…」

ごにょごにょ

「それの何がいい名前なんだ?」

「この名前を使って、一つ仕掛けようかと。こんな風に」

ごにょごにょ。

「ほほう。面白いかもな。」

「そうですよね。」

「うん、じゃぁ参道の組合の皆にはかってみるよ」

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」


 * * *


ファンクラブである親衛隊の準備をすすめつつ、僕はもう一つの戦略を進めることにした。

それは、新人加入だ。

「八兵衛さん、新人募集するよ。」

「お、陣内さん、ついに来たね。よし、頼まれていた先に話してくるよ。」

「うん、頼みます。ただ、今回はオーディションするからね。」

「あん?お、おーでしよん?」

「あ、えーと、選抜試験。ほら、やっぱり踊りとか歌とか上手い人に

入ってもらいたいじゃない。」

「えー、あたしたちの時はそんなのなかったじゃない。」

「清たちの時には選抜できるほど、応募者自体がいないでしょ。

今なら、多少の応募者がいると思うから、少しは選抜してもいいかなって。

それに、選抜されて入れた、と思えば本人の意欲もかわってくるよ。」

「なるほどね。色々かんがえてるんだ。」

当たり前だ。そう見えないのかな。

「じゃ、あっしは行ってくるぜ。歌と踊りの試験だな。」

「そうだね、一堂に集めてやるから、その辺も伝えておいてね。」

「あいよ、分かった。」

「陣内さん、うちの妹も千代町娘に入りたい、っていってるんだけど」

「え、五月ちゃん、妹いるの?」

「うん。いいかな?」

「いいけど、試験はしてもらうよ。姉推薦でも。」

「あら、厳しいのね。」

「そうじゃないと、後で揉めるからね。」

「ふーん。」

「そ、そういえば、し、親衛隊の名前はどうなったんですか?」

あら松尾さん、記憶がよろしい。

「うん、ちょっと検討中。うまくいくと色々と面白いんだけどな。」

「そ、そうですか、き、期待してます。」



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