第29話 葵の父 再び
笹川さんの謎の事件からしばらくたったある日。
僕は団子屋でいつものように団子を食べていた。
自分がこんなに団子好きだったとは知らなかった。
爺さんの団子づくりの技がいいのか。
毎日食べても飽きない。
団子を食べ終わり、お茶を飲んで至福の時間を過ごしていると、
僕の前に人影がたつ。
顔を上げると、葵のお父さんだった。
ヤバいような気がする。
葵のお父さんとの会話の件は、葵がまとめてくれたはずだが、
お父さんが団子屋に直接くる、ということは、恐らく良い話ではないだろう。
「良い話だ」
葵のお父さんが言う。
あれ? 僕の心、読めてました?
「ワシにとってな。」
あ、そういうこと。
「どんな話ですか?」
「葵に、縁談が来た。」
え、縁談?
「えーと、怖い話の?」
「それは怪談。」
あ、そうでした。
「何をボケておる。縁談じゃ。葵に縁談が来たのじゃ。」
「えー。それじゃ葵さんは結婚するんですか?」
「そう言うとるじゃないか。いやいや千代町娘のことに夢中な大地主がおってな、
是非、葵を嫁にしたいちゅうことなんじゃ。いやぁ、ありがたい、ありがたい。
これも皆陣内さんのお陰じゃ。」
「え、僕の?」
「そりゃ、そうじゃ。葵を千代町娘に入れてくれたばっかりに、こんないい縁談にめぐりあえたのじゃ。ありがとうのぉ。」
葵のお父さんは抱きつかんばかりに喜んでいる。
「えーっと。お父さん。葵ちゃんは、千代町娘の方は続けられるんですか?」
「そりゃ、無理じゃろ。自分の嫁さんが人前で歌って、踊ってるのを喜ぶやつが
どこにおるか?」
まぁ、そうですね。
「はぁ。」
「ま、皆には悪いが、結納の前には葵を千代町娘から抜けさせてもらうわ。それまでは一生懸命やらせるからの。」
「あ、あの、葵はこのこと知っているんですか?」
「そりゃ、知っとるわ。自分の縁談じゃけんの。」
「千代町娘を辞めることは?」
「本人は知っとる。じゃけん縁談というのは何があるかわからんけんの。
千代町娘の娘達には時が来たら、ワシから話す。
それまでは口外無用じゃ。いいな。」
「はぁ」
「じゃ、ワシは畑にいかにゃいけんので。またの」
そう言って、葵のお父さんは去っていった。
ありゃりゃ。これは本格的にマズくないかい。
時太郎、笹川さん、の二人が千代町娘を離れ、そして次は葵まで。
これまで順風満帆(そうでもないか?)といっていた千代町娘は
いきなり嵐の海に放りだされたかのような、状況となった。
困ったなぁ。
僕が眉間にしわを寄せて、悩んでいると、清が覗き込んできた。
「さっき、葵ちゃんのお父さん来たよね。何だったの?」
葵のことは、お父さんから「縁談ということもあり口外無用」と言われちゃったから、誰にも相談出来ない。
「何でも無いよ。」
「そんな訳ないでしょ。葵ちゃん、やっぱりこの間の悪口のことお父さんに言ったのかしら。ね、どうすればいいと思う?」
「ん?あぁ、女の子はしょうがないよね。どうしても集団ができちゃうから。」
「そうなのよね。」
「こういう内輪もめを解消するのは2つの方法しかないよ」
「内輪もめ、ってほどじゃないけど。 2つの方法って?」
「1つは、敵を外に作る。つまりライバルが身内だから争うのであって、外にライバルがいれば、結束して立ち向かう、だろ?」
「らいばる?」
「あぁ、えーと、敵のこと。好敵手みたいな」
「もう一つは?」
「こっちは難しいけど、徹底的に競い合うこと。」
「えー、余計もめそうじゃない」
「そう。だから徹底的に競い合わないと。それに対して、公正な審判が必要だな。
じゃないと、審判の方に文句がいっちゃうから。」
「ふーん。何となくわかるし、その通りかも。」
「そうだろ。いやぁ、僕もなかなかな戦略家だなぁ。ははは」
「で、今回はどうするの?」
「え?」
「だから、どっちの戦略でいくの?千代町娘を団結させるのに」
「えーと。敵と言えるのは、現状ではいないから…、徹底的に競いあう、かな。」
「そっか。徹底的に競いあう、って難しそうね。どうやってやるの?」
「うーん。そうだなぁ。ちょっと考えるよ。」
そう言って、僕は話を終わらせた。
内輪で徹底的に競い合う、っていえば平成・令和でいうところの「総選挙」だな。
とはいえ、僕は個人的にはあの総選挙システムはメンバーの人数が少ないうちはやりたくないなぁ。
どうやっても遺恨を残しそうだもん。
あれだけの人数いてもギスギスしてそうだし、
そもそもある程度沢山の人数がいないと成り立たないんだろうなぁ。
それに、もし、千代町娘がまた団結したとして、葵は縁談を進めてしまっているのに戻ってくるのだろうか。
流石にそれは無いように思えた。
さぁて、どうしたもんかな。
こうなりゃ、自分でライバルでも作るかな。
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