第25話 八兵衛のお願い

「ねぇ、お願いしますよ。陣内さん。」

八兵衛が団子屋から少し離れた路地裏で、陣内に抱きつかんばかりすり寄ってお願いをしている。

「二人くらいいいじゃないですか?誰も分かりませんよ」

「いや、急に千代町娘が5人から7人になったら、分かるでしょ。誰だって。」

「いや、かわいい娘がいたから加入した、それでええじゃないですか。」

「良い訳ないでしょ。」

要は八兵衛はどこがで千代町娘に入りたい、もしくは入れたいという人からお願いをされたのである。

「じゃ、一度会ってみてくださいよ。二人に。

その上で、器量が良くないとか、踊りが下手だとか、歌が上手くないとかいえば、

本人たちも納得するでしょう?そうでしょ。そうしましょう。」

本来であれば、それも一つの手だ。

ただ、陣内は八兵衛の話しっぷりから、どう考えても無償で頼まれた、とは思えなかった。

そうなると、色々と面倒くさいことになる。

それに断るのは結局陣内になる。

ということで陣内は八兵衛推薦の二人に会うのは、何とか避けたいのだ。

「八兵衛さん、この間も同じような話があったじゃないですか。あの時もきちんと

ダメだって言いましたよね。」

そうなのだ。八兵衛の安受けあいは今回が初めてではない。

飲みに行き、酔いが回ってくると、やれ千代町娘を作ったのは俺だとか、千代町娘に合わせてやるとか、千代町娘に入れてやる、みたいなことを言って回っているのだ。

それを真に受けた人たちが陣内のところにやってくる。

陣内はその度に、丁寧にお断りをしているのだ。

そして、これまでは酔っぱらった八兵衛の話を信じた自分たちも悪かった、ということで皆引き下がってくれた。

しかし、今回はどうもそうれとは様子が違う。

「八兵衛さん、その二人か、その二人のご両親に、何と言ったんだい?」

陣内が聞くと、八兵衛は慌てたように

「あ、いや、大したことは言われていないよ。ウチの娘は可愛くて、本人が千代町娘に入りたいって言ってる、何とかならないかね。というような話だよ」

「ふーん、じゃ、僕が二人を見て、ダメだ、入れない、と言えばいいんだね。」

「あ、いや、その。さっきはそう言ったけど、出来れば、入れてほしいんだよね。

うん。だから入れる前提で会ってほしい、というか。」

やはり。何かあるな。

「八兵衛さん、その二人の親御さんに何を言われてるんです?」

「うん?だから、子供を千代町娘に入れてほしい、って」

「そうじゃなくて。千代町娘に子供を入れると、八兵衛さんには、どんな良いことがあるんですか?」

「え、おいらには特に何もないよ。親切心みたいなもんだよ。」

まだ、しらを切るか。

「分かりました。じゃ、八兵衛さんが貰う分の半分を僕にくれるならいいですよ。」

「え、半分?そりゃ、ちょっと多いな。3分の一でいいかな。そうじゃないと借金が

全然減らないんだよ。」

「八兵衛さん…。やはりそういうことなんじゃないですか。」

僕はじっと、八兵衛さんをにらむ。

「あ…」

「千代町娘で必要以上に金を儲けるつもりはありませんよ。」

「あー、そう、そうなんだけど。出来ればもうちょっとお金が入るといいなぁ、って。」

「確かにお金にはなっていませんが、参道の人のための事業ですよ。

千代町娘は。」

「…はい」

「とはいえ、確かに八兵衛さんには、お仕事にたいするお給金が少なかったのかもしれません。それは少し考えます。」

「え、本当かい?頼むよ。ほんとに。」

「それと…、新加入はそのうち必要になると思っています。」

「へ、そうなのかい?」

「えぇ。あの5人だけじゃ大変ですし。風邪をひくかもしれない。

そういうことに備えて、人数は増やします。ただ、もう少し経ってからです。」

「分かった。じゃ、その時に声を掛ける、ってことにしとくよ。」

「そうですね。でも、一度お金は返しておいてくださいよ。」

「…そうだな。残念だけどそうするわ。ま、何とかなるだろうし。」

そう言って八兵衛はどこかに駆け出した。

恐らく、今の話をしに行くのだろう。

さーて、追加メンバー、千代町娘の第2期生はホントにどうしようかな。

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