第24話 派閥化
さぁて、今日も張り切って頑張ろう。
清はいつものように「おはようございます!」と言って芝居小屋に入ろうとした。
芸能を演じるものはいつ何時の挨拶も「おはようございます」だと陣内が言ったのだ。
なぜそうなのかは、教えてくれなかったが、遅刻していない、という意味で
「お早い」から来ているのかしら、と清は考えている。
ガラリと扉を開け、「おは…」と言ったところ、
3人の人影が振り返った。
五月・小春・咲の3人だったが、何か悪いことを見つかったかのように、3人の動きが停まったので、
清は挨拶を停めたのだ。
「…どうしたの?」
小春が「あん。もう、びっくりさせないでよ」と清の肩を軽くたたく。
五月は「別に何でもないのよ」と言い、咲もそれに頷く。
清はその場の雰囲気で大体を察知した。
3人は恐らく、誰かの陰口でも叩いていたのだろう。
自分でないとすると葵のことか。
清がそう思っていると
小春が言ってくる。
「最近、葵ちゃん、張り切ってるよね。すごく。」
咲もそれに応える
「そう、この間も衣装のこととか提案してたじゃない。」
別にわるいことじゃないじゃない。
咲が続ける。
「いや、別に提案するのは悪くないのよ。でも、衣装はさ、結局小春ちゃんの
お父さんに陣内さんが頼んでいる訳でしょ。そういうのを無視して、衣装の色を変えろとかよく言えるわよね」
「ううん。別にウチのことはいいのよ。」と小春。
「良くないわよ、ねぇ、五月ちゃん」
「そうね。私もそう思う」
「だって、舞台だって五月ちゃんのお父さんが作ってくれて、うちのお父さんが団扇をつくってくれて、千代町娘はできているんじゃないの?」
あぁ、そういうことなのか。
「でも、そういうことなら、あたしも何もしてないよ。」
「あら、清ちゃんは千代町娘の発足人じゃない、陣内さんと」
「そうよ、清ちゃんが居なかったら、千代町娘はなかった訳だし。」
なるほど、そういうことになるのかしら。
「そういう意味でいっても、葵ちゃんって何かしたかしら?」
「時太郎が葵ちゃんのこと、綺麗に描きすぎてるから、調子に乗ってるんじゃない」
「時太郎は葵ちゃんのことが好きだったからね。あれ、もしかしたら葵ちゃんが時太郎に色仕掛けでもしたのかしら、よく描いてもらおうと思って」
「まぁ、小春ちゃん、それは言いすぎよ」
「えぇ、そう」
と言って3人は声を出して笑った。
清も苦笑いをするしかない。
ガタンっ。
扉の方から何かが倒れる音がした。
振り返ると葵がちょうど扉から入ってこようとしたところだった。
今の話、聞いてたのかしら?
4人が同時にそう思った瞬間、葵は
「おはようございまーす。」とにっこりと笑って入ってきた。
「あんまり、お早くなかったみたいね。ごめんなさい。みんな早いのね。」
続けて言う。
葵のその反応を見て、
小春が「そうよ、みんな待ってたんだから。葵ちゃんがいないと始まらないでしょ、さぁ、練習しよう」とこれまでの会話が無かったかのように、笑いかけた。
清は思わず、小春のその態度に寒気を感じた。
葵と他の3人は連れ立って衣装に着替える為に、小屋の控え室に入っていく。
大丈夫かしら、千代町娘は。
清はこれまでと違う流れを感じていた。
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