第18話 清のキモチ
祭りの翌日、千代町娘の5人は芝居小屋に集合した。
陣内に言われた訳ではなく、自分たちの意思で集まったのだ。
清は、これまで陣内から言われる通りに動いてきた。
それは愛獲留というものを自分は知らないのだから、知っている陣内から教えてもらうのはしょうがない、と思っていた。
でも、昨日の祭りの会場ではそれではダメなことが分かったのだ。
祭りは人でごった返しており、騒がしく、歌声などは聞こえない。
清は、子供の頃から祭りをみていたので、そういうものだと分かっていた。
しかし陣内は知らなかった。
それが生まれのせいなのか、記憶喪失のせいなのかは、分からないが
知らなかった。
だから、笹川が作ろうといった横断幕が無ければ、周囲の人に誰が歌っているのか
分からないまま、歌い踊らなければいけなかったかもしれない。
つまり、陣内の言う通りだけやってもダメなのだ。
自分たちで考えて動く必要がある。
と、清はその時思ったのだ。。
それを他の4人と共有しようと思って芝居小屋に集合をかけたという訳だ。
「昨日は結構うまくいったね。」清が口火を切ると
「うん、うまくいったと思う」
「きっとこれで芝居小屋に足を運んでくれる人も増えるよ」
「そうね、そうだといいね。」皆が口々に応える。
しかし、葵だけが冷静にいう。
「そうかな。もっとやらなきゃいけないことがあるような気がする。」
「もっとやらなきゃいけないこと?」小春がそれに応える。
「うん。陣内さんが言うことをやっていても、それだけじゃだめだと思う」
そうなのよ、葵ちゃん。
でも何をすればいいのか、わからないから、皆にきてもらったのよ。
清はそう言おうと思っていたところ
葵は
「自分たちで出来ることを考えていきましょうよ。」
「例えば何?」清が尋ねる
「分からないけど、もう少し5人に個性が必要だと思うの」
「個性?」
「そう。個性。応援する方も、5人をまとめて応援する、っていうのもあるけど
一人ひとりを応援する、っていう意味もあると思うの。
リンゴ好きでも甘いリンゴやちょっと酸っぱいリンゴが好きな人がいるでしょ。」
「え~、甘いリンゴが好きな人ばっかりだと思うけどぉ」
五月がちょっとふざけたように言うと葵も少し笑いながら応える。
「それはそうだけど、いろんな好みがある、っていう例えよ。」
「具体的にはどうするの?葵ちゃん」
「例えば衣装を色違いにして、いつも色を決めるとか」
「えーっと、小春ちゃんはいつも桜色とか?」
「そうね、例えばそういうことかな。」
「ふーん。そんなものかなぁ」
「あとは踊りにしても、全員が同じ踊りをするばかりじゃなくて、
バラバラに踊るところと、一緒に踊るところ、そして、5人が順番に
主役になるところを作っていったらどうか、と思うの。
清ちゃん、陣内さんに聞いてみてくれない?そういうのどうか?」
あ、あたしが聞くのか。
「うん、分かったわ。」
何か、葵ちゃんハキハキしてるわぁ。こんな娘だったのかな。
清がぼうっとしていると、葵がまた声を掛ける。
「清ちゃん」
「え、何?」
「陣内さんて、どこの人?」
どこって?ある日砂浜に倒れてた人よ。
「あんまりあたしも良く知らないのよ」
「え、そうなの?」
清の答にみんなが驚く。
あ、やばいか。そんな見ず知らずの人の言いだしたことに、皆を巻き込んでると
思われると。
「あ、そういう意味じゃなくて、故郷のこととか話したがらないのよ。
あんまり良い思い出がなかったんじゃない?」
「あぁ、そういうこと。」
「そういう人いるよね。」
あぁ、よかった。話がへんな方に行かなくて。
「でも、こんな愛獲留なんて発想するなんてすごいな。才能がある人なんだね。」
葵は感心したように言う。
清はなんかちょっと面白くない。
「何か、陣内さんの居た国にそういう人がいて、すごく人気があったんだって。
だから陣内さんの発想、ってことじゃないよ」
あれ?何であたしムキになっているのかな?
陣内さんが褒められたことなのに。
葵ちゃんが陣内さんのことを良く言うのが、うれしくない。
どうしてかな。
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