第17話 プロモーション
かわら版作戦は無理のようなので、僕は八兵衛さん達と再び策を練った。
八兵衛さんが、「そうス!」
いい考えがあると目を輝かせた。
「どこかの遊郭から目玉になりそうな女郎を引っ張ってくるっていうのはどうでスかね」
すると松尾さんも
「そ、そりゃ、い、いいね。ゆ、遊郭の宣伝ということにすれば、か、格安で貸してくれたり…」
どんな発想してるんだ。
「そういう訳にはいかないよ、元々参道を盛り上げるための小屋だから、
公序良俗に反する訳にはいかないよ。」
「こうじょじょうぞく?なんだスか、それ」
あ、通じないか。
「ま、そういうような芝居小屋じゃない、ってことだ、健全な芸能なんだよ。」
すると再び八兵衛さんが目を輝かせる。
「健全な芸能ね。わかったっス。いっそ小屋で飲んだり騒いだりできるところにするっス。それで、清たちがお酌したり…」
わかってない。
すると今まで黙っていた笹川が口を開いた。
「有料で見せるよりも、一度みてもらって、次からは有料、っていうのがいいんじゃないでしょうか?」
すると八兵衛さんは馬鹿にしたように
「あほスか、一度ただで見たら、次は金なんか払わないスよ。」
確かに八兵衛さんのいうことにも一理ある。
ここが難しいところなんだよな。
試食販売じゃないけど、すこしだけ味わってもらう、というのが出来ればよいのだけど。
しかし笹川は続ける。
「実は今度、社でお祭りがあります。そこに彼女たちを出せないでしょうか?」
え?祭り
「あぁ、た、七夕まつりか。」
松尾も知っているように応える。
「その祭りは大きいのですか?」
僕があまりにも身を乗り出したので、笹川は少し驚いたようだ。
「はい。1000人位は来るんじゃないでしょうか?」
1000人。すごい人だ。
「でもよ、祭の舞台に今から上げることなんか出来るんスか?」
八兵衛さんがいう。
確かにもう祭りが近いのなら、難しいのではないか?
「実はこういうこともあろうかと、勝手に申し込んでおきました。」
え?勝手に。嘘。
「そうしたら昨日、当選だと」
なに当選?
「出れるスか?」
「はい!」
「素晴らしいじゃないですか!笹川さん、スマッシュヒットですよ!」
「…すま?なんですか?」
「あ、いや、とにかく、凄いです。ありがとうございます。」
僕らは急いでこの話を千代町娘の5人に伝えた。
最近、ごく少ない観客の前にしかたっていなかった彼女たちは
みるみるとやる気に満ちてきた。
「お祭りをあたしたちが盛り上げようよ!」
「みんなが私達を見に来るわ!」
「そうと決まったら、練習よ!」
「おー!」
おお、アオハルですな。再び。
* * *
しばらくして、祭りの日になった。
ピーヒャラ、ピーヒャララ。
どこからお囃子の音が聞こえる。
祭りは確かに立派で、沢山の人が出ている。
今やメインとなっている表参道は子供連れや家族などの人であふれ、裏参道までもふだんでは考えられないような人が歩いている。
清はそんな人たちを見ながら「いつもお祭りだったらいいのに」というと、
団子屋のおじいさんは「昔はこのくらい普段から歩いておったもんだ。」と返した。
それを聞いた清がおじいさんの肩にポンと手を載せる。
「大丈夫。陣内さんがもうすぐ人で参道を一杯にしてくれるって、
そん時は私も人気者だよ。」
「そうじゃな。そうなるといいのぉ」
おお、泣かせるやり取りじゃないの。
僕も頑張らないと。
そろそろ舞台の時間が近づき、僕と清はお店をおじいさんに任せ、社に向かう。
すると表参道からにっくき越後屋の主人が歩いてきた。
隣に自分の店の看板娘の女を連れて。
しかも結構な美人だな。ちっ。
「おやおや、売れない踊り子さんとその親分じゃないですか」
やかましいわ。
無視して歩く。
「あんまり客が来ないのなら、この娘を貸しましょうか?」
越後屋はそういうと越後屋の看板娘を前に押しだす。
「いやだわ、旦那様。私は越後屋以外では立ちませんよ。」
「そりゃ、そうだな。わっはっは。」
何が面白い。
清を見ると、ものすごい目でにらんでいる。
「陣内さん、行くよ」
「お、おう」
清もちょっと怖いな。
徐々に夕方になり、祭りは佳境に入ってくる。
メインイベントの一つは山車だ。
街中をめぐって、山車が参道から社に入ってくると人がどっと社の境内に集まってくる。
清たち千代町娘の舞台はその境内の奥だ。
社の前に仮舞台が出来ている。
舞台では余興なのか、素人というか、素人に毛がはえてるような人たちが
大道芸やら演奏やらをやっている。
音響が無いので、皆が声を張り上げているがほとんど聞こえない。
人々も舞台を見ているのか、見ていないのか分からない。
ただ、祭りの異様な盛り上がりは感じる。
そろそろ千代町娘の時間だ。
清たちを舞台袖に送り出す。
「がんばってな。」
「分かってるって。」
「大丈夫よ」
八兵衛さんたちが舞台に上がる。
「それでは、これからご当地の人気歌い手踊りてである千代町娘を
ご紹介しまっス」
声を張り上げているが、人々の雑音でほとんど聞こえない
ドン!
太鼓の大きな音がする。
それを合図に笹川さんと松尾さんが大きい横断幕をばっと舞台の後方に広げる。
そこには朱色の布に、墨で大きく「愛獲留 千代町娘」と書いてある。
笹川さんが事前に、「祭りは声を張り上げても全然聞こえない、何かに千代町娘の名前を書いた方が良い」といっていたのだ。
その通りになった。
やるな、笹川さん。
そして、もう一度、ドンと太鼓が鳴ると
清たちが袖から飛び出してきた。
「私達、千代町娘です!」
5人の声でようやく聞こえる。
三味線と太鼓の音で5人が踊りだす。
流石に人前で何度も踊っているだけあり、これまで舞台にいた素人に毛が生えたような人達とは違う。
スタートは「ドレミの歌」だ。
テンポがよく、分かりやすい。
徐々に騒いでいた人たちが静まり、舞台の方に目をやり清たちの歌声、踊りを見始める。
そして、1曲終わるとやんやと喝采だ。
うまくいってる。
こうして清たちは3曲歌って踊り、
大盛り上がりで舞台を終えた。
十分成功と言えた出来だった。
「頑張ったよぉ」
彼女たちは汗だくになりながら戻ってきた。
僕や八兵衛さんたちは口々に
よかったよかったと、褒めたたえ、清たちを出迎えた。
そんな中で笹川さんは一人、一生懸命、舞台をみていた人たちに、黙々と千代町娘のビラを撒いている。
真面目かっ、と思わず心の中でおもったが、
僕らもビラを撒きだす。
そうなのだ。これはイベントではなくプロモーションの一環だ。
ここからが勝負なのだ。
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