第16話 有料公演初日
僕はまず3人には、宣伝活動をお願いしつつ、更に、彼らのツテで何とかお客を連れてきてくれるようお願いした。
「やってはみるけど、なかなか厳しいと思うっス」
「た、ただで、き、来てくれ、ってわけじゃ、な、ないからなぁ」
3人が3人ともそういう。それは分かっているが、そこで諦める訳にはいかない。
「最初はガラガラで始まっても、何かのきっかけで人気が爆発するんだ。
それまでの辛抱なんだよ」
「陣内さんは、見てきたようにいうスけど、そんな風にいくスのか」
行くはずなんだよ。平成・令和時代では。
そうは言っても確かに現実は厳しかった。
有料公演の初日。
何とか有料扱いと出来たのは3名。
それだって八兵衛さんや松尾さんたちの知り合いに無理やり買わせたチケットだ。
前回の無料とはいえ100人の前で歌って、踊った5人は公演前に観客の人数を知って
明らかにモチベーションが下がっていた。
僕は開演前に5人に激を飛ばす。
「いいかい?これが君たちの今の実力だ。ここからどんどん上に昇るしかないんだ。
前回は緊張して失敗も多かったけど、この観客の人数なら緊張もしないだろ。
そうやって慣れていくことも必要だ。だから、最初はこれでいいんだ。」
そういうと、彼女たちも
「そうね。緊張せず、練習のつもりでやりましょう。」
「今やれることをやりましょう」
と前向きになった。
若者は思い込みが早くていい。
こうして本当の初日はスタートした。
* * *
三人しか観客のいなかった初日公演から何回かの公演を重ね、ようやく彼女たち千代町娘もかなり観られるレベルになってきた。
やはり回数と慣れなのだ。こういうものは。
問題はやはり客数だ。
ぎりぎり無観客は逃れているが、このままではいつか観客ゼロの日も出てしまうだろう。
客がいなければ、興行にならないし、彼女たちのモチベーションも上がらない。
何かいい方法ないかな。
「たぴおか」の時に聞いていたが、かわら版はどうかな?
やはり多くの人に知らせるには、メディアの力が必要だ。
ん?かわら版ってメディアって言えるのかな?
まぁ、いい。
僕はかわら版の人に頼んでみよう。
街角にいくと、今日もかわら版を持って大声で叫んでる。
あれ?よく時代劇だとかわら版って、歩いている人にタダで撒いてるイメージがあったけど。
「八兵衛さん、かわら版って、どうやって稼いでるんですか?」
「はぁ?陣内さん、いろんなこと忘れてるんスね。当然、読む人に売りつけてるんスよ。」
「あれ?タダで配ってるのありますよね?」
「それは、見本みたいなもんスよ。」
「あぁ号外ですか。」
「別に豪快な話じゃねぇスよ」
あ、号外っていわないのか。
「じゃ、お金を出したら記事を書いてもらえるんですかね。」
「そりゃ、よっぽどの金を出さないとダメっスね。。」
「聞いてみましょう。スミマセン、かわら版の人。」
「何だい、若いの。」
「かわら版に記事を載せるのは、どうすればいいんですか?」
「記事?あぁ、刷り物の中身のことか。そうだな。みんなの関心事であることが分かれば、書いてやってもいいけどな。」
「お金を払うと書いてもらえる訳じゃないんですか?」
「おう、馬鹿言っちゃいけねぇよ。それじゃ、偽物の記事にならぁ」
「なるほどフェイクニュースはジャーナリズムに反する、って訳か。」
「何訳の分からねぇこと言ってる。面白いネタを持ってくれば、書いてやらねぇ訳でもねぇ。
あとは…お上の言うことは、書かねぇ訳にもいかねぇがな。
公明正大って訳だな。」
「あの参道の方でやってる、千代町娘っていう芝居のことなんですが。」
「あぁ、聞いた聞いた、何でも素人が踊っている小屋のことだろ。若いの。
あれは皆の関心事になるかい?
ちょっと無理じゃねぇか。何か話題性になるようなことじゃねぇとか。
あとは皆の為になることだ。かわら版ったぁ、そういうもんだ。」
にべもなく断られましたな。
まぁ新聞社の考えとよく似てるから、そういうことなんだろうね。
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