第14話 初回公演
音楽が見えてきたので、
ステージ演出にも凝りたいところだったが、何せ人がいないし、お金もない。
なので、再び小春の実家の反物の余りを貰い、そして、咲の実家から番傘を借りてきてステージの奥に飾り付けた。
何となく、それらしくなってくるもんだ。
高校の文化祭と変わらないレベルではあるが。
「よし、みんな。まずは来週の15日をプレオープンにしよう」
「ぷれおーぷん?」
「あ、いや練習を兼ねた初日の開演日にしよう。一度やってみて何か悪い点はないか、どういう点がお客さんに喜んでもらえたかを、やってみるんだ」
「予行演習みたいなもんだね。」
「そうそう、予行演習だ。」
「じゃ、お金は取らないの?」葵がつまらなそうに言う。
「そうだな。まだお金はとらない。まずはみんなのご両親や親せき、友達を呼んでみてもらおう。終わった後に感想を聞くんだ。」
「みんな知り合いだったら、悪いこと言わないんじゃない?」
「それも考えた。だから何名かは普通に呼び込んできてもらう。」
「呼び込んで?」
「これさ」
僕は僕の体ほどある、大きな紙を板に貼ったものを持ち上げた。
「何それ?」
「これは看板だよ。この紙に千代町娘の初公演、今回限り無料というのを書いて、
無料券を渡すのさ。」
そう、いわゆるサンドイッチマンだ。お笑いじゃないよ。
「ふーん?誰がやるの?」
そうなのだ。
これをやる人はどう考えても僕しかいない。
「僕がやるさ。」
恥ずかしいけど。
皆は面白ーい、等と盛り上がっている。
まぁ何とか身内以外でも何人か入れられればいいか。
* * *
そして、ついに初日。
5人の知り合いだけで約50人ほどになった。
更に、僕の配った無料券がなんと50枚。(がんばった。)
合計100名が観客として、狭い小屋の中に入った。
酸欠にならないかしら? 窓あけとこ。
「緊張するね」
「する、する。」
「手のひらに人って書いて、それを舐めるといいんだって」
舐める?そうなの?
皆で手の広をぺろぺろしてる。ちょっと異様だ。
「汗かいて、塩辛いよ」
「ホント、おにぎり握ったら美味しそう」
何の話だ?
「さぁ、そろそろ時間だぞ、幕を開けるよ」
僕が声をかけると、一層緊張感が漂う。
「大丈夫だ。頑張ろう!」
「うん、頑張ろう!」
よし、頑張れれよ。
高城さんの太鼓がドン、ドン、と鳴る
今日は一人だと心配だということで、仲間を3人ほど連れてきてくれた。
太鼓、鼓、三味線、笛と音楽としては随分厚みが出てきた。
ドン、ドドン!
その音を合図に僕は幕を引っ張る。
5人がステージに走り出す。
「こんにちは。私達、千代町娘です!」
清が練習の通り、第一声を放った。
そこからは、僕も彼女たちもバタバタだった。
緊張でみんな声が出ない。
踊りもバラバラになる。踊ってる途中にぶつかる。
歌詞も忘れる。
音楽も小節がずれる。
僕も幕を引くタイミングを間違える。
などなど。
正直、お金を貰っていたら、とんでもないことになっていただろう。
それでも、観に来てくれた人は喜んでくれたようだ。
この町に普段娯楽が無い、というのが大きいのだろう。
みんな口々に「面白かった」と言いながら帰っていった。
僕らは最後のお客さんを見送った後、ステージに戻った。
みんなフラフラだ。
僕は5人に声をかけた。
「お疲れさん。思ったより大変だったな」
清が疲れ切った顔で言う
「全然思ったようにできなかった。」
それを聞いて小春も言う。
「私、全然踊れなかった」
皆、その言葉にうなだれる。
どんよりとした雰囲気。何を言おうか、と僕が考えていると
葵が顔をあげた。
「でも、楽しかった」
清も顔を上げる。
「うん、楽しかった。」
五月も言う。
「観に来た皆も楽しそうだった。」
そうなのだ。彼女たちが間違えたり、踊りでぶつかったりすると
がんばれーとヤジのような激励のような声が飛ぶ。
「また、やりたい。」
咲が言う。
「私も」「私も」
そうこなくっちゃ。
「じゃ、明日からまた練習だな。次の公演に向けて。」
「はい!」
おぉ。アオハルかよ。
そう思ったが、僕自身が言いようのない高揚感と満足感に満たされていることに
気づいた。
一矢報いた感じた。
何にかは分からないけど。
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