第13話 バックバンド
公開が決まったところで、バタバタとやるべきことが降ってくる。
実は練習は全て手拍子でリズムをとっていた。
歌も全てアカペラ。
これだと、どううまくやっても素人感がハンパない。
踊りを習っていた小春のツテで楽器が出来る人を探すことにした。
「どういう楽器が必要なの?」
どういう楽器?どんなのがあるのかな?この時代。
「えーと、出来れば、太鼓とか、弦楽器、三味線みたいな。あとは笛とか」
「じゃ3人か4人くらい必要ね」
「そうなるね。」
「その人たちに練習の度に来てもらうと、お金結構かかるわよ。」
あ、そうか。
本番だけ、って訳にもいかないよな。
あーこういう時、CDも音楽プレーヤーもないってことの大変さが分かるね。
「最少人数で何とか出来ないかな」
「最少で3人とかじゃない?」
うーむ。その通りだ。
「あ、あたし、一人で、沢山の楽器できる人知ってる。」
清が目を輝かせて言う。
「清、一人で沢山の楽器が演奏出来ても、いっぺんに演奏できないと意味ないんだよ。」
「そうよ、清ちゃん。」
「うん。一人でいっぺんに演奏できるよ、その人。」
「太鼓と笛を?いっぺんに?」
「うん。あと、小さい太鼓とかも。」
「そんな、マルチな人いるかな?」
「別に丸くないわよ、その人。」
「あ、いや、そうじゃなくて。 えーと、本当にいるの?清。」
「うん、じゃ、話をしてくるわ。ちょっと待っててね。」
そう言って、清は出ていった。
僕らは半信半疑で待つことになった。
1時間、2時間経っても清は帰ってこない。
「やっぱり、そんな人いなかったんじゃない?」
「そうよね。笛と太鼓と三味線を一人でいっぺんにやれる人なんて。」
もう3時間が経とうか、という頃に清が戻ってきた。
「お待たせ。ごめんね、遅くなって。」
そういった清は、どういう訳か顔が真っ白いおしろいで塗られていた。
「どうしたの?その顔」
「うん。楽器できる人いたんだけど、その人仕事中だったから、ちょっと手伝ってたの。」
仕事?手伝ってた?
「ね、入って、入って。」
清が手招いて、入ってきたの人は右手に太鼓のばち。左手に三味線。
首から笛をぶら下げて、両肩で小太鼓を腹の前で持っている。
そして顔はおしろいでまっしろ。
「あー。この人。」
チンドン屋さんね。いわゆる。
「あれ?一人でやるの、こういうの。」
チンドン屋さんは
「いや、3人位でやるのが普通なんですが、あたしは一人の方が楽なんで。」
「楽器は本当に何でも出来るの?」
「えぇ、出来ますよ。」
うーむ。ただ、ちょっと格好わるいな。
「舞台では顔ださなくてもいいですか?」
僕がきくと、清が代わりに答える。
「逆に顔は出したくないんだって。裏方じゃないと困るみたい。
越後屋から仕事も貰ってるみたいだし。」
なるほど。それは好都合。
「じゃ、ちょっとやってみてもらおうか。」
人がいないからって言っても、チンドン屋はあんまりだったかなぁ。
僕がそう思っていると、チンドン屋さんは、真剣な顔になって
三味線の早弾きを始めた。
シャン、シャ、シャ、ジャーン。ジャ、シャ、ジャ、シャ、シャシャーン。
と文字にするとかなり間抜けだが、そこは勘弁して、津軽三味線の早弾きをイメージしてほしい。
三味線の間に、小太鼓・カネ太鼓が入り、
音楽が一旦途切れたところで、笛の音がはいる。
先ほどのチンドン屋のピーヒャラピーヒャラとは違う、バラードのようなしっとりとした笛だ。
一通り演奏がおわると、みんな口が閉まらなかった。
「す、凄い。」
「す、す、すごい。」
「凄いわ。」
三者三様ではあるが、結局はスゴイとしか言えない。
「ね、凄いでしょ、高城おじさん」
清が自慢げに胸をはる。
「おじさん?」
「そう、私の叔父さんなの。」
「え、そうなの。」
「お父さんの弟」
そうなんだ。
随分多彩な人が親戚だね。
「陣内さん、おじさんに頼もうよ。」
「そうだね。ぜひ、お願いします。」
「うん。まぁかわいい姪っ子の頼みだからな。やりますよ。
チンドン屋もそんなに忙しい訳じゃないからな。」
「ありがとうございます!」
こうして、千代町娘の音楽は少しずつ前に進んでいった。
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