第11話 ダンスレッスン
さて、何とかメンバーが5人集まった。
次なる問題は音楽だ。
そもそもの問題は僕が音楽の造詣が深くない、ということである。
えーと、音楽の造詣、なんていうようなもんじゃない。
ピアノを習ったこともなければ、勿論バレエを習ったこともない。
音楽といえば、中・高校で習う程度だ。
さて困った。
しかし、ここは確実に当てていかないといけない。
じゃないと僕のプロデューサーとしての立ち位置もすぐになくなっちゃうからね。
僕は清にアイドル、もとい、愛獲留をやろうと言った時に、既に2つのことを
ポイントとして考えていた。
1つ目はグループでの活動だ。
令和時代でも沢山のアイドルグループがテレビを賑わしている。
そしてそれは大抵大人数で歌って踊っている。
これはきっと個人の歌唱力よりもグループや集まりとしての合唱的要素が大きいに違いない。つまり沢山いた方が下手に聞こえないのだ。
一人よりは三人。三人よりも五人。ということだ。
本当はもっと人数が居たりした方が良いのだが、今は贅沢は言えない。
ということでとりあえず、5人集まったことでこれはクリアだ。
もう一つのポイント。
これは歌、曲目だ。
ここが難しい。
いきなり平成や令和のポップスを歌わせてしまおうか、と最初は考えていた。
観に来た人の度肝を抜けるかもしれない。
しかし、少し前衛的に見えてしまい、客がつかない、ということになりかねない。
そこで僕はまず最初の練習の日に聞いてみた。
「ねぇみんな、この歌聞いたことある?」
息を吸い込み、僕がおもむろに歌いだす。
「さくら、さくら、やよいも月も…」
「知らない」
「聞いたことない。」
やっぱり。
唱歌や童謡は江戸時代から大正で沢山作られた、と聞いたことがある。
この時代だとまだ出来ていない唱歌・童謡が沢山あるんじゃないか?と
思ったわけだ。
しかも僕が知っているような唱歌・童謡は長年も歌い継がれてきているものだ。
つまり、「唱歌・童謡は根本的に日本人に合うなじみやすい曲に違いない」という仮説。
彼女たちに
「こういう歌、聞きやすい?」というと
「不思議にどこかで聞いたような気がする歌みたい」
「そう。小さいころに聞いたような」
おぉ、方向性は間違ってないんじゃない?
僕って天才かしら。
よし、日本人に耳なじみしやすい唱歌・童謡を彼女たちに歌わせよう。
こうして、僕は「ゆうやけこやけ」「赤い靴」など知りうる限りの歌を歌ってみせ
彼女たちに覚えさせた。
ただ、問題点としては、童謡とかはどうしても、リズムがゆっくりなものが多い。
子供が歌いやすいからだろうな。
そこで、ドレミの歌とかのややテンポの良い歌も入れた。
ただ、お気づきの通り、ドーナツも無ければレモンもない。
ここは替え歌ですな。
「どはどじょうのど、れはレンコンのれ、みはみんなのみ
ふぁ、はふかし芋のふぁ~」
「え?ふかし芋のふぁ?」
あ?無理がある?
こんな具合に途中どうしても歌詞が続かないものとか、思い出せないものも出てくる。
仕方ない。
そういう場合は「大体こんな感じだ。あとの歌詞はみんなで考えてみろ」と
指示をして逃げる。
歌詞が間違っていても問題ない。何といってもこっちがオリジナルだからね。
「ふぁ、になるものって、何があるかしら?」
「あくびじゃない?ふぁ~あ」
「いいわね。あくびのふぁ~」
なんじゃ、そりゃ。
まぁいい。
そんな感じで、彼女たちはぶつぶつ言うこともなく、皆で相談しながら、僕のうる覚えの曲に歌詞を付け、完成させていった。
うむ。こうやってチームワークも出来るし、曲も出来る。一石二鳥だ。
こういうのが出来るプロデューサーのやり方なのだ。
なーんて、勝手なことを思って何曲かのうる覚えの曲も加えていき、
何とか10曲位をレパートリーとすることができるようになった。
これ以上必要になったら、徐々に僕が知っているJポップでも教えていこう。
さぁ、歌の次となると踊りだ。
踊りについては、さすがに困った。
僕が知っている踊りと言えば、これしかない。
「じゃ、みんな手をつなごう。はい、いいね。そして、一列に並びます。
はい、そして腕を振りながら前に進んでいきます。
僕の掛け声に合わせてね。いくよ。」
「はい!」
「マイマイマイ」
「まいまいまい」
「マイム」
「まいむ」
「ベッサッソ」
「べっさっそ」
「はい、ここで足をけり上げて、それから元の位置に戻る」
そう、マイムマイムだ。
こんな具合に、オクラホマミキサーも教えた。
いやぁ、中学の臨海学校のキャンプファイヤー以来だけど、
割と覚えてるもんだね。
「陣内さん、これをさっきの歌とどうやって合わせるんですか?」
へ?
そんなこと、僕がわかるもんか。
「いや、こういう具合に足を上げたり、くるっと回ったり、
手を叩いたりしてね。って意味だよ。これをこのまま踊る訳じゃない」
「あぁ、そうなんですか。びっくりした。じゃ、続きを教えてください。」
「清、そういう風に何でも人から教えてもらえると思っちゃいけないよ。
小春、確か君は踊りを習ったことがあるって言ってたね。」
「はい、子供のころから5年間くらい」
「うん。十分だ。僕の踊りをうまくアレンジして、歌に載せてみなさい。」
「あれんじ?」
「あ、えーと、調整して使ってみて、ってことだよ」
「え、あの踊りをどれみの歌に合わせるんですか?」
「物事を生み出す、というのは大変なことなのだ。
それらを君たちは知ることになる。
そういうことが分かることが後々糧になるのだよ」
「…わかりました。がんばります。」
「うむ、じゃ、僕は邪魔しないように外にいくから」
そう言って小屋から外に出る。
あー何とかなってよかった。
あのままだったら完全に煮詰まったな。
僕は小屋から少し離れ、町を外れたあぜ道を散歩することにした。
プロデューサーはストレスから解放されるために散歩などが重要なのだ。
ふと見ると、少年が道端に座って何かをしている。
観ると膝の上に板を置き、紙を敷いて絵を描いている。
なるほど、テレビも何もないのだから、絵をかいたりしていろんな想像をしたりするのだろうな。
少年の絵はいわゆる風景画のようだ。
あぜ道の横に立っている木々とその向こうに雄大に立つ山々が見事に描かれている。
うまい。
思わず口にすると、少年が
「うまくないよ。見たままを描いてるだけだから。」
「見たままでいいじゃないか。」
「ダメなんだよ。もう少し良いところをすこし強調するくらいじゃないと」
なるほど。
デフォルメが必要なんだな。
インスタの加工みたいなもんだ。
「へぇ、僕はうまいと思うけどな」
僕がそういうと少年は
「お世辞でもうれしいよ」と笑いながら応えた。
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