第10話 メンバーの選抜
アイドルのメンバーは当然、この裏参道を盛り上げるためにやるのだから、
参道の店の娘がいい。
うちの団子屋の清のようなものだ。
ただ、今回はやはり見た目とか、年齢とかが関わってくるので
参道の店の娘なら誰でもいい、という訳にはいかない。
(幸い清は見た目も年齢も問題ない。)
そんな都合のいい可愛い娘がいるのかしら?
僕はとりあえず清に、アイドル、もとい愛獲留になれそうな
この参道でかわいい娘はいないか、のリサーチを頼んだ。
更に他の通りでもいい娘がいれば教えてほしい、と。
「あたし、どの娘が男受けするか、なんて分からないよ」
そうかもしれないけど、令和と江戸では微妙に美的に感覚がちがうようなので
僕が集めても上手く行かない。
それに、そもそもツテもない。
ということでブツクサ言う清をなんとか説得し、まずはリサーチから始めていった。
リサーチのエリアは大体この町に隣接している隣町まで。
すると面白いことが分かった。
どの町でも越後屋になんらかの迷惑や被害を被っており、良く思っていない人が沢山いるのだ。
どうやら越後屋は詐欺的な行為や他人の迷惑を顧みず、他人を貶めるようなやり方で店を大きくしてきたらしい。
例えば、流行っている飲食店で、急に腹痛を起こしたふりを何人か続けてしたりする。
すると、その店はやはり悪いものが入っていると噂になり、だんだんと客足が減ってくる。
そうなって不人気になった店を安く買いたたいたりしているのだ。
やられた方はたまったもんではないが、やり返す方法も財力もない。
悔しくて仕方ない、と思いつつ店を畳む、という訳だ。
うーむ、悪いヤツだ。しかし、悪いことは、必ず自分に返ってくる。
見てろよ、越後屋。
数日かけて清のリサーチが終わり、そのリストを元に僕は確認をしにいった。
やはり女性の見る目と男性の見る目は違うだろうから、僕が見て、あまりにも、うーん、という見た目の娘は外しておこうと思ったのだ。
参道の店には、幸い候補者が3名いた。
一人は反物屋の娘で小春。店に出てくるところを見る。
おお、かわいい。問題無し。
もう一人は咲。こちらは番傘屋。
こちらも番傘を片付けているところを確認。
両方の家とも裏参道になって以来、商売は上がったりという。
そして五月。こちらは大工の娘とのことだ。
大工なら参道が裏でも表でも関係ないのか、と思っていたら
裏参道になったタイミングでお寺御用達の大工から外されたらしい。
こちらも越後屋のしわざとのことだ。
娘の器量は…と。
なるほど。いいじゃないですか。
清の見る目は間違いないようですな。
全員合格だ。
合格、と言ってもこちらで勝手に合格にしただけだから、口説きにいかないといけないけどね。
当然、僕だけ行っても怪しくてダメだから、清を連れていくことにした。
「という訳で、みんなで歌って踊るお芝居みたいなものをやって、
それでこの参道を盛り上げたいんだよね」
「私、お芝居とかやったことないけど」
「大丈夫、大丈夫。ここにいる清だってやったことないからさ。
みんな始めは素人だよ。」
「そうよ。愛獲留っていうんだって。一緒にやりましょうよ。」
「愛獲留、何か素敵な響きね。」
「そうでしょ。まずはやってみましょ。」
何だか、サークルでも勧誘するようにお願いをしていく。
参道の店の小春と咲、五月は清と似たり寄ったりの境遇であるが故、
比較的理解も早く、三人ともぜひ、やりたいということになった。
問題は親の方だった。
この時代は、いや、この時代も芸能に対する大人の目は厳しい。
「てめぇ、ウチの娘を踊り子にして、どこかに売りさばこう、っていう算段じゃねぇだろうな」っていうようなことを大抵は言われる。
しかし「寂れていく参道を立て直したい」という大義名分に加え、
越後屋に一泡吹かせたいという気持ちが皆にあったおかげで三人の両親も最終的にはOKしてくれた。
あーよかった。
さて、問題は裏参道と直接の利害関係が無い、隣町の娘たちだ。
案の定、娘たちはやりたい、と言っても、親たちが許さない。
「何でうちの娘が、裏参道を盛り上げるために芝居をやらなきゃいけないんだ」
と至極ごもっともな意見を言う。
僕が親でもそういうかも。
そういうことで隣町ではかなり苦戦を強いられた。
清も「参道の娘だけで最初はいいんじゃない?」と言い出したが
僕はここだけは譲れない。
「参道の娘たちだけで芝居をするとさ、どうしても裏参道の為にやっている感じがするじゃない。」
「だって、実際そうじゃないの?」
「そうなんだけど、そういう営業的な匂いをなるべく、分からなくしたいんだよね。」
「どういうこと?」
「仕事ですから、頑張って踊ります、っていう娘より、好きで踊ってるの。しかもそれを皆が観てくれるのがうれしい、っていう方が良くない?」
「…そう、なの?」
「そうなんだよ。男心としては。」
「でも仕事で踊ってるんだよね?」
「実際はそうでも、そうじゃない、って見せることが大事なのだよ。」
「へぇ。」
だからこそ、なんとか隣町からもスカウトして、規模感を広げたい、と
僕は思っていた。
簡単には妥協できないよ。
まさにプロデューサーの腕のみせどころだ。
結局、この町を取り囲む隣町を全て歩き、よさそうな娘のいるところに多分すべて
飛び込んで、お願いをした。
そして全て断られた。
しかし、100枚以上のエントリーシートを出しまくって、面接にも進めなかったことを考えると、会って話を聞いてくれるだけでも神様のようだ。
まったく落ち込まない。
僕と清はめげずにアタックを続ける。
そして、最後に百姓をしている葵という娘のいる家に飛び込んだ。
何軒も家を周っていたお陰でこの家が貧しいということは僕にもすぐわかる。
葵とまず芝居について話すと、じっと僕の目を見て「稼げるのか?」と聞いた。
思わず「頑張ればな」と言うと
「じゃ、やる。」と即答した。
え、マジ?
本当は稼げるかどうかなんて、今の段階ではわからないが、ここでそれを言っちゃおしまいよ。
思わずガッツポーズをしながら飛び上がりそうになるのを抑える。
まだまだハードルはある。
何といっても、両親の許可を貰わないと。
「実は娘さんにお芝居をやってもらいたいのですが。」
「いくら払う?」
「あ、いや、最初は見習いなので、お客さんがつくようになったらです。」
「ふん。こんな娘にお客が付くのか?」
ひどいな、自分の娘なのに。
「大丈夫です。しばらくすれば、きちんと稼げるようになるはずです」
「なら、ええ。」
「え?」
あれ?こちらも即答。
拍子抜けだが、ようやく隣町でも1名確保できた。
とったどー。そんな気分だ。
これでようやく僕の愛獲留が、スタートラインに立った。
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