第9話 劇場
アイドル構想を思いついた翌日、僕は裏参道にある比較的大きなお店で空き店舗になっているところを訪ねた。
「ごめんください」
「はいはい、どなたかな?」
眼光の鋭い60歳位のおじさんが出てきた。
「あ、私、そこの団子屋でお世話になっているものですが。」
「あぁ、団子屋にけったいな飲み物を持ち込んだ男だな。知っとるわ。」
けったいな飲み物。
「あ、ありがとうございます。実は折いってお願いがありまして。」
「何だ?」
「はい、こちらのお店を芝居小屋にしたいのですが。」
「あん?何言ってんだ。お前。こんなところ芝居小屋にして、誰が来るってんだ。
大体、何の芝居をするんだ。」
「何の芝居…っていうのは、ちょっと今考え中なんですが、こちらの参道を少しでも盛り上げられるように、したくて。 そのキーコンテンツ、あ、いや一番の目玉にここを芝居小屋にしたいと思っているのです。」
「ふん、そんな芝居をしたくらいで人がくるなら、うちだって商売をやめていないよ。」
「あ、こちらも表の参道のせいで商売を畳まれたんですか?」
「そうさ。うちは屋形船をやっていたんだ。ほら、そこに川があるだろ。
そこに船を浮かべて、やってたんだ。」
「え、でも川は参道が動いたからって、動くわけじゃないから、商売に影響はないんじゃないですか?」
「馬鹿だねぇ。お前は。いいか、屋形船ってぇのは、乗ってしまえば終わり、ってことじゃないんだ。乗る前や乗った後、ってのも大事なんだ。」
「はぁ。」
「分かってないね。いいか、屋形船に乗る、っていうのは晴れの行事だよ。
そりゃ、うちみたいな屋形船の店に入っていくところから、もう行事は始まっているんだよ。」
家に帰るまでが遠足、みたいなことかしら?
「つまり大枚はたいて屋形船を乗ろうって時に、誰が好き好んで、裏参道の店にいくかい?」
「え、つまり表参道にも屋形船の店があるんですか?」
「そういうこと。こんな狭い町で二つも三つも屋形船が必要か?」
「いえ、多分、要らないかと。」
「そういうことだ。結局、越後屋の屋形船の方ばかり客が行くようになって、
うちの台所は火の車だ。結局、店を閉めた。お陰で息子は隣町まで働きに行かなきゃならなくなった、って訳だ。」
「完全にあの越後屋のせいですね。おやじさん、越後屋を何とか一泡吹かせましょうよ。」
「そんなことが出来るのか?」
「はい。 あ、いや多分。」
「何だ、情けねぇな。男ならやります、と言ってみろ」
「あ、はい。…やります」
「なに、声が小さい!」
「あ、はい! やります!」
「よし、気に入った。お前に乗ろう。この店を芝居小屋に使っていいぞ」
え、ホント?
さすが江戸っ子、思いっきりがいいね。
あ、江戸っ子って江戸時代の子のことじゃないか。
「ありがとうございます。」
「儲かったら少しは家賃払えよ」
「え?家賃?」
「儲かったらだよ。」
「あ、はい。儲かったらですね。」
こうして何とか「劇場」を確保した。
次はメンバーですな。一番肝の。
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