第8話 次なる手

団子屋での夕食の時間。

今日は忙しいのか、おじいさんもおばあさんも店に出ている。

僕と清の二人の夕食だ。

僕は清に改めて、越後屋の水茶屋でみた団子のことを聞いた。

「男たちがあんなに団子を食べたりするものかね。」

「団子を食べに来た、というよりは、あの女を見に来たんだろ」

なるほど。

そこは見て分かっていたのだが、一つ疑問があった。

「男たちは仕事とかしてないのかな」

「仕事はしてるさ。その合間とか、仕事帰りとか、仕事のふりとか

色々あるだろ。」

仕事のふり、ね。なるほど。

そうなのか、仕事で忙しいところも考えて女性をターゲットにした方が良いと

思っていたのだが。

「それに女が使える金と男が使える金じゃ、桁が違うからね。」

え、そうなの?

そうか、この時代はやはり亭主関白、男尊女卑なんだな。

じゃ、メイン顧客はやはり男性だったか。

ここは間違っていたのかぁ。

「あれ、分かってなかったみたいだね。言った方がよかったのかい。

全くどこまで記憶喪失なのかが、とんと分からないね。」

清はあきれ顔だ。

しかし、そういうことなら全然別の手を考えなければいけない。

男性ターゲットで。

令和時代に男性が熱狂したといえば何があるだろう。

串カツか? 黄色い提灯とかぶら下げて。

この時代に合うかな?

カレーなんかどうかな。

インド人連れてきて、本場インドカレーとか。

あ、インド人はいないか、鎖国してんだもんな。

いやいや行列が出来ると言えばラーメンか?

とんこつがいいのか、しょうゆラーメンか、

結構味で人気が大きく左右するからな。

いや、待てよ。

大体にして僕は料理なんか出来ないぞ。

だからあんないい加減なタピオカドリンクになってしまって、

あっさりとパクられたんだ。

そう簡単にマネできないようなことじゃないとダメ、ってことだな。

平成・令和時代を席捲したといえば…

アイドルグループだ。

しかも手の届かないアイドルではなく、素人に毛が生えたような

身近なアイドルが人気だった。秋葉原界隈の。

コンセプトは、そう、すぐ会いに行けるアイドル、みたいなのだった。

これ、このまま持ってこれないかな。

すぐに会えるアイドルが、普段は団子屋の看板娘。

そして週末はライブ会場でライブ。

まさに週末ヒロインだ。(どっかで聞いた)

よし、これならこの時代でも出来そうだ。

ん、待てよ。僕は別にアイドルオタクじゃなかった。

普通にあのアイドルの娘可愛いよな、というくらいでアイドルには詳しくない。

大丈夫かな。

うーん、でも、タピオカの時も大して知らなくても何とかなったし、

今回も何とかなるだろう。

よし、やろう。

タピオカの失敗を忘れて、あっさり僕は決断した。

「清、芝居小屋とかはどこかにあるのかい」

「都に行くと、歌舞伎小屋があると聞いたけど、ここいらの方には

そういう類のものはないね。」

「ふーん、何で無いんだ?」

「何でって、そりゃ、芝居する人が居ないからだろ?」

「じゃ、芝居する人がいりゃ、皆観にくるのかな。」

「あぁ、観にくるんじゃない? 年に何遍かだけ寺社の境内に

旅芝居一座がくると、結構な人が観に行くからね。」

なるほど。いいね。一応需要はありそうだ。

「「じゃ、他には娯楽とかは、何があるんだ?」

「ごらく?」

「えーと、仕事じゃない、遊びとか。」

「男衆のことはよくわからないけど、女衆は貸本とかかなぁ。」

貸本。なるほどレンタルビデオの先駆けですな。

いやいや令和でもレンタルコミックとかはあるから、歴史ある娯楽なんだね。

「清は芝居とか歌を自分でしたことある?」

「ある訳ないだろ。団子屋の娘なんだから。」

仰る通り。

「人前で踊ったりとか、やってみたいと思わない?」

「お前、私をどこかに売り飛ばそうと思っているだろ。じいちゃんに言いつけて、

お前を先に追い出してやる。」

いやいや、追い出されては困る。

「そうじゃないんだよ。清たちが歌や踊りを踊って、そして参道に人を呼ぶんだ。」

「私たちが歌や踊り?やったことないよ。」

「大丈夫。みんな最初は素人だ。」

どこかで聞いたようなセリフを言いながら、僕は僕のアイドル構想を清に説明していった。

最初は怪訝な顔をしていたが、

僕がこの方法で上手く行った例を知っている。(この時代じゃないけど)

これしか、この参道に他に人を呼ぶ方法はない。(僕の思いつく限りでは)

と言うと、

「成功するんだろうね」

「あぁ。成功する。そして清も歌舞伎役者並みに大人気になるんだ。」

「それは陣内さんのいた国では何というの?」

「それは、アイドルだ。アイドルという。」

「あいどる?どんな字を書くんだい?」

「ん、えーと、アイ…愛を獲って留どめる、で愛獲留だ。

お客さんの愛を、獲得し続ける、って意味だよ。」

「愛獲留、いいね。いい。格好いいじゃない。やってみたい!」

そうこなくっちゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る