第6話 名物の宣伝
さて、問題はまだまだ山積みだ。
折角できた名物のタピオカドリンクをどうやって売るか、だ。
SNSで宣伝も出来ないし、もちろんテレビもラジオもない。
新聞といえば、かわら版というのがある筈だが…
「かわら版は、よほどの話じゃないと載らないよ。だれかが打ち首になったとか」
ということだそうだ。
となると自社告知だな。
「よし、清。とりあえず、この飲み物の名前と特徴を布に書いて、外にだそう」
「布?」
そう、つまり「のぼり」を作るのだ。
江戸時代にも「のぼり」あるよね?
「あぁ、昔お侍さんが戦の時に背中に差したやつのようなことを言っているのか。」
そうそう、それ。武田信玄の「風林火山」とか。
僕は習字はからっきしだったが、清は僕よりも数段字が上手かった。
団子屋でなく、習字教室の方がいいんじゃないかね。
白い布地に黒い墨で書き上げた。
「新食味。元禄初の食味。たぴおか飲料。」
さすがに「じゅうす」は今一つなので、飲料にしてみた。
「いいじゃない。これを店の前に出そう!」
「うん!」
と二人で喜び勇んで団子屋の入口に立てかける。
おぉ目立つ。
お客だったら、思わず頼んでしまいたいような感じだ。
こりゃ、押すな押すなの行列になったらどうしようかな。
行列を店からどうやって並べるかを考えながら、
僕と清はしばらく、店の前でのぼりと一緒に客を待った。
約1時間。
そして更に1時間。
「…こないね。お客」
「そうね。」清は寂しそうに言う。
そりゃ、そうだ。そもそもお客がいないから、名物料理を作っているのだ。
名物料理が有名にならなければ、お客も来ない。
鶏と卵だ。
うーむ。
こうなれば、お客のいるところで宣伝するしかない。
イベントは客のいるところでやれ、って誰かが言ってた。
お客のいるところ、つまり、表参道だ。
とはいえ、表参道で、のぼりをかついで騒いでいたら
当然、越後屋に文句を言われて、排除されるだろう。
あくまでもさり気なく、宣伝できないか?
僕は頭をひねった。
そうだ!
「清、君の友達を連れてきてくれない?できれば女の子」
* * *
「あれ?お梅ちゃんじゃない? 何してたん」
「まぁ、お常ちゃん。ひさしぶりね。ちょっと、こっちの方に来たから
お参りでもしようかと思って。」
「へぇ、そうなん。あら、な~に?それ? どうしたの竹なんか咥えて」
「これ、そこの裏で買ったんだけど、美味しいのよ」
「え~、お茶に小さいお団子が入ってるの?」
「そうそう、これを竹で吸い込むと、団子とお茶の味が合わさって美味しいのよ」
「そんなん、初めて見たわ。」
「そら、そうよ。元禄初って書いてあったわ。」
「えぇ、そら、うちも食べていかなきゃ。」
お常ちゃん、裏参道へ走り去る。
くさい。
あまりにもくさい小芝居だ。
僕は清の友達二人にこのくさい小芝居を仕込み、演じさせてるのだ。
こんなくさい小芝居でいいのだろうか。
しかし、やるしかないのだ。
ということで、二人には小芝居を参道で何度か繰り広げてもらった。
もちろん、微妙に場所と時間を変えて。
何度か続けていると、明らかに芝居を見て、その後団子屋に様子を見に来る客が出てきた。
分からんもんですな、人の心理は。
「あの、変わった食べ物があるって」
「はい。たぴおか飲料ですね。」清が元気よくのぼりを指さす。
「へぇ、じゃ、一ついただくわ。」
それから別の日には、チラシを作って参道の入口付近でまいてみた。
小さい白玉団子付きで。
こういう地道な努力が大切だ。
こうして、しばらくすると徐々にたぴおか飲料は人々の知るところとなり、
裏参道(この言い方好きではないが)にも人がパラパラと来るようになった。
しかし、裏参道に人が来るようになった、ということは当然、表参道の人が減ったということだ。
となると、越後屋の主人は面白くなかったのだろう。
ある日、越後屋の主人が団子屋にやってきた。
店に入り団子屋の主人を見つけるなり、
「うちの参道の前で、騒いだり、物をくばったりせんでくれ。」
と言うだけ言って、僕と清ににらみを利かせて帰っていった。
仕方がないので、清が参道で何も言わずに「たぴおか飲料」を飲むことにした。
竹を咥えている女の子は珍しいので、何だろう?と覗き込んだ人にだけ
チラシをそっと渡す、という戦略だ。
爆発的な効果はないものの、それなりの効果はあったようだ。
たぴおか飲料は爆発的なヒットとはいかないものの、徐々に知る人ぞ知る
裏参道の隠れた名物となりつつあった。
ま、冷静に考えると、「知る人ぞ知る」「裏参道の」「隠れた」名物じゃ、
ダメなんだけどね。
それでも何もしないよりはお客はついてきており、
このままなら、少しずつ客足も戻るかもしれないな、なんて甘い考えをしていた。
しかし、この「たぴおか効果」も長くは続かない事件が起こった。
あぁ、やっぱりいつの時代も厳しいのね。
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