第5話 参道名物

翌日、僕は清に頼んで、その参道に連れて行ってもらった。

まずは敵を知らないといけない。

参道には大きい水茶屋があり、その横にも前にも食べ物屋やら着物屋、金物屋、

お土産屋など沢山の店が道を埋め尽くしている。

そして、かなりの人が歩いている。

団子屋の前の参道の比ではない。

「あの沢山ある店も、越後屋のものなの」

「越後屋?」

「えぇ、水茶屋の名前よ。」

やはり、悪いヤツの名前は越後屋か。

お主も悪やのう。

時代劇ドラマって、そういうところも史実に基づいているのかしら。

それにしても、神社から手に入れた土地の真ん中に道を作り、神社の参道と認めさせ、そして店を誘致する。自分は一番いい場所に店を構える。

うーむ。なかなかのやり手のようだ。

水茶屋に行ってみよう。

「日枝神社表参道乃一番店」とある。

表参道、よく言えたものだ、と思うが、自分が観光客ならやはりこちらの道を選ぶな。

その後も神社までの道を歩いてみるが、なかなか色々な店があって面白い。

こちらには着物屋だ。沢山の着物が掛かっているねぇ。

おっとあちらは水あめみたいの売ってる。うまそうだな。

あ、人力車もある。

何か浅草みたいだな。

思わず観光客気分でキョロキョロしてしまう。

清は、僕がお上りさんの様になっているのを見て、不機嫌な声で

「帰るよ。」と一言行って、すたすたと歩いていってしまった。

僕は慌てて追いかける。

「あ、清ちゃん待って~。まだ道がよくわからんのよ~」


 * * *


参道からの帰り道、僕は考えていた。

確かにこれは何か手を打たないとマズイだろう。

やはり僕がこの時代に来たのは、この団子屋の窮地を救うことなのかもしれない。

きっとそうだ。神が僕にその使命を与えたのだ。

僕は使命感で身体が熱くなった…というのは嘘。

団子屋が儲からないと

近い将来、僕は絶対宿なしになってしまう。

それだけは避けないといけないのだ。

「この団子屋の名物は何?」

「名物? 団子に決まっているだろ」

清は当然、という顔で答える。

「そりゃ、その通りなんだけど、何ていうか、他には無いようなものは無いの?」

「他には無いもの?そんなものありゃしないよ。だって、団子屋なんだよ、料理屋じゃなくて。」

なるほど。その通りだ。

本来、こういうところの観光地は変わった料理や食べ物よりも、誰もが知っていて、安心できるものの方がいい。

観光地で食べたことのないジビエ料理があっても食べないもんね。

「じゃ、名物を作ろう!」

「どうやって?」

どうやって? うーむ。どうしようか。

僕も団子なんてここ最近もたべたことがない。

よし、まずは自社商品を知るところからだな。マーケティングの基本だ。

「ここの団子食べさせてもらっていいかな。」

「金もない癖に、図々しいやつだな。ま、売るほどあるけど。」

ありがたし。

「はい。」

おぉ、いかにも団子。

玉が串にささっている。

まん丸じゃなくて少し潰れているね。3つでなく4つ刺さっている。

団子4兄弟やや潰れ気味って感じね。

でも大きくは令和時代と変わらない。

ある意味完成されたデザインなんだな。これ。

さてさて、いただきましょう。

パクリ。

ん?味がしないな。

「これを付けて食べるのよ。砂糖蜜」

へぇ、付けるパターンね。

うまい。

うまいけど、たぶん、普通の味だ。

「団子屋の団子って、みんなこんな感じ?」

「そりゃ、そうだろ。団子屋の団子なんだから。」

完全に禅問答だ。

「いいか、清。このまま何の手立てもしないと、客はみんな新しい参道の方に

行ってしまう。

これまでは待っていても客が来たのだろうが、これからは何かこの店にくるきっかけ、理由みたいなものが必要だ。そのきっかけとなるのが名物料理だ。

名物料理は他の店で出ていないものがいい。ここでしか食べれない、というものを作るんだ。」

「分かったけど、何を作るんだ?」

うーむ。僕が最近食べたデザートといえば、タピオカくらいだ。

サオリに連れられて、渋谷の店まで行って飲んだ。

すごく並んで、飲むころには、お互い話すことがなくなっていたくらい。

美味かったのか、どうなのかはよく覚えていない。

ムムム?

タピオカ。あれって、この時代、何かで作れないのかな。

いやぁ、お菓子の専門学校でも行っときゃよかった。

あんな役に立たない3流大学いくくらいなら。

結局就活だってうまくいかなかった。やはり手に職だよ、強いのは。

あ、話がそれた。

タピオカね。

えーと、食感はもちもちって感じだから、お餅か。

いや、団子屋にありそうなもの。

うーん。ん。白玉ってこの時代にも当然あるんじゃね。

白玉粉を練ってタピオカつくれないかな?

イイんじゃない!白玉タピオカ。

という訳で、僕は清にタピオカの説明をしてみた。

「僕が知っている国では、タピオカジュースというものがある、それを作ろう。」

「国?たぴおかじゅうす、何だ、何を言っているんだ?」

あ、ちょっと飛ばしすぎちゃった。

まぁ、いいや。

問題は僕がタピオカジュースに詳しくないことだな。

ま、そうれはしょうがないし、この時代は本物を誰も飲んでいないんだから、問題ないだろ。

僕と清は、早速オリジナルタピオカドリンクづくりに入った。

白玉粉によるタピオカは、それほど難しくなく作れた。

さすがは団子屋だ。

そのまま食べても美味しい。小さい白玉団子である。

これを本来はミルクティとかに入れるのだが、ミルクティは流石にないだろうから、

今回はミルクつまり牛乳で代用だな。

「牛乳ある?」

「ぎゅうにゅう?」

「うん、牛の乳」

「そんなものはない。」

「え、そうなの? 牛乳ないの?そりゃ、背も伸びないな。」

「牛を食べ物になんかしない。仏様に怒られる」

えー、そうなの。

仏教とかそういうこと?儒教だっけ?

そういえば、和食って牛肉出ないもんなぁ。

ってことは、牛乳じゃなくて、うーむ、緑茶かしら?やっぱり。

後は、ストローだな。

ストローは、やっぱり、竹ですかね。うん。これしかない。

それなりに細い竹の節を切り抜いて、ハイ、出来上がり。

ということで、何とか団子屋名物のタピオカドリンクが出来ましたよ。

美味いかな?

ズズッ。おぉ、結構うまい。

白玉団子のほのかな甘みとぷりぷり感が緑茶とマッチ。

イケるね。

清がじっと見てる。

「飲んでみて」

ズズツ。

「美味しい!」

「だろ!」

だろって、僕自身は何もしてないけど。まぁいいか。

こうして、急ごしらえの名物料理が出来ましたよ、と。

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