第四話・目覚

 目を覚ませ。と何者かに言われたような気がして意識が覚醒する。

 眠っていた場所は保健室らしい。隣では先生がぬいぐるみに抱き付きながら眠っている。

「うーん…お姉ちゃん…」

「誰がぁ!だずげでぇ!」

 先生の鼾と同時に聞こえてきたのは同い年程の少女の悲鳴。少女を囲むように防音魔法が展開されているが、ただ遮っているだけで完全には押し殺せていない事から詠唱魔法だと判断して現場へ転移する。

 そこで見たのは、血の繋がっている歪な姉弟が合意無しで行為に及ぼうとしてる現場だった。

 弟の方は三重の錬金魔法で男として産まれてきて、幾つもの薬で女に戻されたようだ。姉は特に異常なし、強いて言うならばトラウマによる恐怖の増大か。

「お姉ちゃんがボクを玩んだから、今度はボクが玩ぶの!」

 越えてはいけない一線を越えようとした少年、桐谷葵の後頭部を刀の鞘で叩いて気絶させる。

「あ…あおい……っ!?来ないでっ!」

 姉である桐谷茜は茫然自失としていて、私としては一回生の時にクラスメイトではなかった存在に安心したのだが、そうは問屋が卸さないと言いたいのか桐谷茜が意識を取り戻した直後に怪物が現れた。

 と言っても桐谷茜は一角獣と契約を結んでいるので、契約主が本気の恐怖で身を守ろうとした時に出てくる一角獣がそこの怪物なのだが。

 桐谷茜を護る意思表示のように嘶く一角獣の魔核を転移魔法で手元までたぐり寄せてそれを砕くと、存在していたと言う事実が無くなったかのように一角獣が消えた。

「一角獣?一角獣!一角獣!」

 目の前で起こった現象が信じられない桐谷茜が何度も一角獣を召喚しようと叫ぶ。

「一角獣!一角獣!なんで…なんで出てこないの…?」

 さて、どうしようか。桐谷葵が展開している防音魔法は位の高い物では無いので、聴覚強化を掛けている者には普通にばれる。

「一角獣…出てきてよ…一角獣…」

 上塗りして最上位位にしてもいいけれど、聴覚強化を遮断する程の防音魔法を覚えている学徒は私しかいないからそれでも怪しまれる。

「お前が…一角獣を…」

「月下家の人間に対しての口の利き方、もう少しお考えになられては如何ですの?」

 いい加減一角獣一角獣煩いので睡眠魔法で眠らせて桐谷葵共々制服と下着を着せて外傷を治癒魔法で消し、保健室に転移して離れたベッドに二人を捨てる。

 もしそう言う趣味が高じてだったならよかったがそうでもないっぽかったので、桐谷葵からの暴力行動及び攻撃魔法を弾く防護魔法を展開しておいた。

「お姉ちゃん!…って夢?あれ、月下さんは…ん?桐谷姉弟?保健室で眠ってるって事はどこか悪いのかな…?」

 鼾を掻いている先生に悪夢魔法を使ってトラウマを刺激してやると、慌てて飛び起きた先生が桐谷姉弟を見付けて調査を始めた。

 桐谷姉弟の行為中の記憶が最初の方は割とゆっくり進んでいくTSGLかと思ったら途中から狂気に染まっていくとかいう狂気の記憶だったので最後までゆっくり進んでいくTSGLの記憶にすげ替えておいた。

 一角獣は魔核を再生したから問題ないし、保健室に居るのは月下渚の目の前で倒れて運ばれたって事にした。何故倒れたのかは朝まで愛し合ったからに決まって居るでしょう?

 とかく問題は去った。さっさと右眼を治してしまわねば。そう思って自室へと転移すると、陽乃下さんが私のベッドの上でモゾモゾと動いていた。

 取り敢えず観察してみると、なにやら制服がベッドから排出されていく。

 防音魔法も掛けずに何をするつもりなのだろうか?仕方が無いので最上位防音魔法を私の背中まで展開しておく。

「んっ…渚ちゃん…しゅきぃ…手首ザラザラできもちよかったなぁ…また触らせてくれないかなぁ…」

 っ!!?ひ、陽乃下さんは何を言っているんだろうか。まさか私が居ることに気付いていて警戒を緩ませて殺す算段…?流石陽乃下さんだなぁ…

「渚ちゃん…起きたかな…?早く会って謝りたいよ…」

「えへへ、湊ちゃんのお陰で起きられたよ…腕触る?」

 陽乃下さん…いや、湊ちゃんの背後から話し掛ける。気分はニンジャだ。

「触るぅ…やっぱりザラザラして…て……?ってえぇぇ!?月下さん!?」

 湊ちゃんが私の傷痕を撫でると、身体中に電流が流れるような感覚がしてへたり込む。

 そんな私の情けない姿を眺めた湊ちゃんは、腕の感想を言いながら私が実物だと気付いて驚愕に染まる。

 そう言えば手紙で湊ちゃんが学院に戻ってくる事があったら奴隷として飼うって言ってくれたっけ…なんか警戒しなきゃって考えてたけどなんでだっけ…?

「湊ちゃん…しゅきぃ…私を奴隷にするって約束…守ってよ…?」

「え…あっうん…我が名の下に月下渚を専属奴隷とする…?」

 湊ちゃんが適当に今思い付いたであろう奴隷化の文言を言うと、私の右眼が修復されて湊ちゃんの目の色と同じに染まる。

 銀髪も一部が金髪へと変わって色鮮やかになり、手脚が少し機械的な義肢へと変わった。

 左腕には隠し刃が取り付けられていて、右腕には最近流行りの回転式拳銃、両脚は直線的な装甲とバーニアが付いているだけのシンプルな物。

まるで巷で噂の戦闘少女のようだ。

「へぇ…湊ちゃんってこう言うのが好みなんだねぇ…あ、目と髪が湊ちゃんとお揃いになったのは嬉しいかも。装甲とか武器パーツも取り外し式だからいつもは普通だし…」

「うぅ…菊華だとこう言うあにめが多かったからぁ…」

 俗世に染まる、と言うのも大事な物だ。

 それに、何故か会うときは必ず主様のような豪華な服装を着ている父様に見せると喜ばれるかもしれない。父様は貴族主義と言う訳でもないみたいだし、根っからの貴族主義である母様にさえ見つからなければ大丈夫だろう。

「えへへぇ…湊ちゃん、お臍の下にハートマークの紋印が出来たんだけど、ヤッちゃう?」

「ヤる!!」

 湊ちゃんにスカートをたくし上げてお臍の下を見せびらかしながらローライズパンツに手を掛けて誘惑すると、すぐさま飛び付いてきた。

 転移魔法で兵装をタンスに飛ばして、私の服を速く脱がせようと躍起になっている湊ちゃんの頭を撫でる。

「焦らなくて大丈夫、奴隷は逃げないよ?」

「~~っ!!!!渚ちゃん大好きっ!今夜は寝かせないよ!」

 少し微笑んだだけで真っ赤になった湊ちゃんがようやく服を脱がせきり、何故か目覚めたら少し大きくなっていた胸に飛び込みながらそう言った。

 今日は実に九年ぶりの湊ちゃん成分の補給日なのだ、湊ちゃんが休みたいと言っても休ませる訳が無いだろう。湊ちゃんの服を転移魔法でロッカーのハンガーに掛けて、湊ちゃんにキスをする。

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歪んだ歯車達は清んだ舞台を狂わせる @aikawayuzuki

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