第三話・姉弟
僕の姉さん、桐谷茜はちょっと残念な人だ。
ポニーテールに纏められた黒髪ベースの金髪や赤と青のグラデーションが綺麗な瞳が天然物で、すらっとした立ち姿に凛とした表情、端整な顔立ちに隠れるがそこそこある胸にそれらを引き立たせる男物の制服、近くを通るとほのかに香る柑橘系の香りとちょっとしたドジッ子属性等、ちんちくりんで女物の制服を着た僕とは大違いな程美人なのだが、理科室に籠もっては女体化薬だとか媚薬だとかを造って失敗している。
そんな姉さんは僕が嫌いみたいで、失敗したと解りきっている薬を僕に押し付けてくる。
その大抵が気分を害するもので、この前は疲れている時に沢山無理矢理飲まされて一ヶ月は吐き気に襲われた。
喜々として口に薬を詰めてきた時は怖かったが、吐いている所を見られてもデータ収集とか言って観察し始める事は解りきってるから姉さんに見せないよう気を付ける事で必死だった。
それでも、たまにちゃんとした効果が出る物もあるので症状に合わせて1錠だけ飲んだりするの。
そして今、学校で喉を痛めて、帰ってきて薬箱を眺めていると姉さんが押し付けてきた発明品の中に喉薬があるのを発見した。
僕としては別に普通ののど飴でもいいけどさっさと消費してしまいたい。
食後三十分は経ってるし不味いことにはならない筈だ。
歪な形状の錠剤を1錠口に含む。
唾液で溶けた薬をコップ一杯の水で流し込むと、咽の痛みが一瞬にして消えた。
それと同時に、視界が揺れて目線が地に落ちる。
一緒に落ちた薬も散乱し、割れたコップから流れる水に融けて僕の体に浸透していく。
体を動かせず声も出せずに効果の解らない薬を体内に染み込ませるという恐怖の時間は、お姉ちゃんがボクの居る台所に慌てた様子で入ってきた事で終わりを迎えた。
「葵!?ちょ、薬全部飲んだの!?」
お姉ちゃんの見当違いな発言を否定しようとするが、やはり力が入らず動けない。
「お…ね……ちゃ…たす……け…」
声が上擦ったのか女っぽい声で必死にお姉ちゃんに助けを求めると、ボクの脇にお姉ちゃんの腕が通されて部屋に連れて行かれる。
部屋のベッドにボクを寝かせたお姉ちゃんはすぐに部屋を出て行き、少しの静寂が訪れた。
お姉ちゃんの部屋、それは可愛らしい小物が多く、お姉ちゃんの匂いも強くてボクが入って良い場所ではない事を認識させる。
誰かを招く事が無いからと消臭されていないベッドから漂うお姉ちゃんの汗の臭いにお臍の下辺りがきゅうきゅうと疼いて切なさを覚えていると、タオルとお姉ちゃんの小さい頃の服を持ったお姉ちゃんが帰ってきた。
「おね……ちゃ…あり……がと…」
「っ…葵!」
ボクの事を心配してくれるのが嬉しくて頑張って笑みを浮かべると、お姉ちゃんが悲しそうな顔をしてボクを抱き締めた。
「ごめんね…お姉ちゃんの薬のせいでこうなったのにこんな事しかしてあげられなくて…」
こう言ったお姉ちゃんの声色が酷く落ち込んでいて、違うと急いで否定したくなる。
「おね…ちゃ……ボク……おねえちゃん…だいしゅき……だから…あやまら…ないで…」
なんだろう、感情の歯止めが効かない。
言葉の最後の方は泣きながらになってしまったし、何より涙が止まらない。
「葵…今日はお姉ちゃんと一緒に寝よっか…?」
お姉ちゃんがボクの体を拭いた後、パジャマに着替えてボクが寝転がっているベッドに入ってきた。
「うん…お姉ちゃん、大好きだよ?」
ボクに抱き付こうか悩んでいるお姉ちゃんの懐に、結構動けるようになったので飛び込んで告白紛いの言葉と一緒に頬にキスをする。
頬を真っ赤に染めたお姉ちゃんを確認して、強くなったお臍の下の疼きを無視して目を閉じる。
しかし、一向に眠気が来ない所か疼きが強くなっていく。
ちらとお姉ちゃんを見ると、お姉ちゃんも眠れていないようだ。
「お姉ちゃん…」
「なっなにかなっ!?」
お姉ちゃんの肩がビクッと跳ねる。
声も裏返っていて、真っ赤に染まった顔を手で隠しながらこちらを見ている。可愛い。あ、またお臍の下の疼きが強くなった。
「なんか…おへそのした……うずく…の……おねえちゃんのちかく…だと……つよく…」
「ななっなななナニ言ってるの葵!!?だだだっだだだだ駄目よ!!お姉ちゃん女の子同士しか趣味はないの!!」
つまり、風邪薬に入っていたあの薬はボクを女の子にさせてお姉ちゃんの好きな人になれと言う神様のプレゼントなのでは?神様マジ神様じゃん。
童貞みたいな声を上げているお姉ちゃんも可愛いなぁ…
「いまは…ボクも女の子…だよ…?」
「~~~っっ!!??」
体が暑くなってきたからパジャマを脱ぎながらお姉ちゃんにそう言うと、そう言えばそうじゃん!!みたいな顔と羞恥心での紅潮が混ざった物凄い顔になって、生唾を飲み込んだかと思うとボクの肩を強く握ってきた。
「んぶっ!?んっ!んあっふぐっ…んう…ちゅぁっ…」
全身が敏感らしく肩を掴まれただけでばりばりと電流が走ったのに、口腔内を舌が蹂躙した事でオーバーヒートして漏らしてしまう。
「うあ……こう…こうせい…で……おも…らし…?」
最悪な事にここはお姉ちゃんのベッドの上。元々嫌われてたのにもっと嫌われてしまう。
駄目だ、全身の力が抜けて呂律も回らない。
「葵…大丈夫、漏らしちゃった訳じゃないから。まあ、キスしただけでこんなになった子は居なかったけど…」
恥ずかしさも相まって泣いていると、お姉ちゃんが優しく背中を撫でてくれる。
その優しさに溺れて眠ってしまいたくなるが、絶対に聞き逃せない言葉がある。
「他の子とも…こんな事してたの…?」
「うぇっ!?いっいや?アオイガハジメテダヨ?」
お姉ちゃんの言葉が片言になる。噓吐き。
「しかた…ないよね…だって、お姉ちゃんは女の子が好きでボクは嫌いだからね…」
「っ!!葵…?お姉ちゃんひかりの事嫌いだって思った事ない…よ?」
お姉ちゃんの言葉が最後に詰まった。いつもそうだ、嘘を吐く時は最後に言葉を詰まらせる。
「噓吐き。この前嫌だって言ったのに無理矢理お薬飲ませた。嬉しそうに話し掛けてきてお腹触るお姉ちゃんに気付かれないように頑張ったけど、一ヶ月は吐き気が続いてたんだよ?」
「え…うそ…うそだよね…?お姉ちゃん、葵に元気になって欲しくて…好奇心なんてない…よ?」
また嘘だ。元気になって欲しいって言うのは本当みたいだけど、好奇心も多大に含まれているらしい。
昔お姉ちゃんに植え付けられたお姉ちゃんへの好意は一生消せないんだから嘘つかなくていいのに。
「ボク、お姉ちゃんの事ずっとずっと好きなんだよ?錬金魔法で、お父さんとお母さんの愛の結晶をボクに造り替えた時から、ずっと」
お姉ちゃんの顔が蒼白に染まっていく。
それもそうだ、ずっと昔に失敗したと思っていた錬金魔法が成功していたのだから。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさっ」
お姉ちゃんを押し倒す。ずっと謝っているお姉ちゃんの唇を奪い、抵抗するお姉ちゃんを抑え付けてパジャマを脱がせる。
「えへへ、弟が欲しいお姉ちゃんが魔法で僕を男にしたのに、弟が嫌いなお姉ちゃんが科学でボクを女にするなんて皮肉だよね?だから、ボクを玩んだお姉ちゃんを今度はボクが玩ぶの!今日は寝かせないよ?音を遮れ、防音魔法発動」
お姉ちゃんが泣き叫んでもいいように、防音魔法を展開する。魔法は簡単な物でも発動前に必ず詠唱を挟むのが面倒だ。今度無詠唱魔法が出来る人が居ないか探そうかな?
そんな事はさておいて、ボクの下で足掻いているお姉ちゃんを眺める。
ボクの色の付いていないお漏らしと違ってお姉ちゃんのは黄色く色が付いている。アンモニア臭もするしそういうことだろう。
端整な顔も醜く歪んでいて、涙に鼻水に涎と顔から出る水分は大抵を排出している。歯もカチカチと煩く鳴り続けているので、一発殴ってみる。
「あぎゅっ!ひ…ひかり…たしゅけ…ほぎゅぇっ」
可愛い。可愛すぎてもう一発殴っちゃったけど問題ないよね?
両側の頬が鬱血して赤黒く染まっている。それはいけない。
「傷を癒せ、治癒魔法発動。ごめんね?お姉ちゃんの頬を傷付けるつもりは無かったんだけど」
治癒魔法で頬の鬱血を取り除き、綺麗になった頬を撫でる。傷付けるつもりはないけど恐怖に歪んだ顔に傷が無いのはいただけないので頬を叩く。
パァンと素晴らしい音が響くと同時に、お姉ちゃんが泣き叫び始めた。
「いやぁ!誰がぁ!だすけでぇ!」
「静かにしないと迷惑でしょう…がっ!」
お姉ちゃんの無駄にデカイ胸を殴る。
結構痛かったらしく悶絶している。
「ほらお姉ちゃん、お楽しみはこれからなんだから、こんな所でへばらないでよね。傷を癒せ、治癒魔法発動」
お姉ちゃんの全身に治癒魔法をかけ、健康体に戻す。
その瞬間背後から襲ってきた衝撃に、抵抗も虚しく意識を失った。
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