第四百八十五話 合神
「すごい……全身を暖かい何かが巡ってる……」
「レニーもか? あたいもなんだ……」
「これはもしかして、輝力……なのですか?」
「ポカポカするでござる」
「それになんだか……コクピットが光ってる?」
「いや……フィオラ、お前も光ってるぞ……」
ポーラから供給された膨大な輝力は機体だけではなくパイロット達までを満たした。それでもまだ、有り余る輝力は機体と、そのパイロット達の身体を暖かな光で包み込んでいる。正直この現象には俺もスミレも驚いているのだが、キリンやフィアールカが特に何も言わない辺り……おそらくこれも想定内なのだろうな。
しかし、先程まで枯渇寸前だったというのに、この溢れる輝力はなんだ。背部装備として装着されたポーラから恐ろしい量の輝力が供給されているのは理解できているが、その圧倒的な量に驚くばかりだ。
元々、ポーラから輝力供給を受ける予定があったため、その供給機能が素晴らしい者で有ることは知っては居たけれど、今もなお日光を受け輝力変換を続けているのには恐ろしさすら感じるよ。太陽光を受けられる位置に居る限り枯渇することが無いじゃ無いか……機体だけでは無くて、パイロットまで無尽蔵の力を手に入れたと等しいんだぞ? これは流石に過剰なのでは。
『何を言ってるのカイザー。この機体を動かすためには溢れるほどの輝力が必要なの』
『くだらない事を考えてないでさっさと勝負をつけるの。相手だって待ってはくれないの』
……そうか、今やフィアールカも俺の一部になっているんだった。思考がダダ漏れになる相手がまた一人……って、そこまで深くアクセス出来るのはスミレくらいだったはずでは?
『ふふ……私やフィアールカに隠し事が出来ると思わないほうが良いよ、カイザー。あれはスミレ君の専売特許と言うわけでは無いのだからね』
……うぇえ
っと、ぐったりしている暇なんてないんだった。そうだ、いくらルクルァシアが空気を読むとは言っても、流石にいつまでも待っていてくれるわけではない。
奴が攻撃をしてこなかったのは、こちらが得体の知れない動きを見せていたから警戒をしていただけのことさ。その結果が新たなフォームで、驚異になると察すれば……っと、言ってる側からだ。奴は身体をうねらせ、何かこちらに攻撃をしてこようとしている。
しかし、パイロット達は戸惑ったままだ。合体によってあまりにも変わってしまったコクピット。今まで目の前に存在していたはずのコンソールが消え、一体どうやって俺を操縦すればよいのか困惑しているのだ。
確か、フィアールカから送信されたデータのどこかにその記述があったはずだが……と、俺が探すまでもなく、フィアールカから説明が入ったようだな。
『パイロットの皆よく聞くの。今皆はカイザーと深く繋がっている状態なの』
『集中するの。そうすれば自然とどう動かせば良いかわかるの』
俺と……パイロット達が繋がっている? んん……っと、この記述か。
[AMATERASフォームは輝力によりパイロットと機体を一体化させ、より直感的な操縦を可能とする。
それぞれのパイロット達も深く繋がり合い、全員で1人のパイロットになったが如く連携が取れた操縦を実現する]
なるほど……それでコクピットやパイロット達まで輝力に包み込まれていたというわけか。
フィアールカ達から伝えられた話を聞いて戸惑う彼女達ではない。直ぐにそれを受け入れ、じっと意識を集中しはじめた。
その間にもルクルァシアの攻撃はこちらに迫っている。巨大な質量を持つ触手が、俺を掴んでやろうと真っ直ぐ此方に向かって伸ばされる。
それはあまりにも大きすぎて、宇宙空間であると言うのもあって、いまいち肉眼での距離感が掴みにくいが、とっくに危険域に突入しているのはレーダーで確認出来ている。
あんな物を
このままいけば直撃ルートだ。避けなければ当たるぞ、当たってしまうぞ、何故避けぬ……なんて事を思いながらルクルァシアは見ているのかも知れない。
それでも、我々は機体を動かそうとはしない。外部時間にすれば僅かだけれども、
だから、まだ、避けなくても、十分に余裕はあった。
流石にこれは妙だと思ったのだろう、一向に無防備な体勢のまま動こうとしない我々に、ルクルァシアは訝しんだ。何か企んでいるのか? そう、考えたのかも知れないな。その一瞬の恐れから、怯えから……触手を止め、僅かに引っ込めてしまった。そのまま手を伸ばしていれば、あともう少し進めていれば。
それは我々の元に届いていたかも知れないのに。
一瞬であれ、その手を止めてしまったのは奴の欠点……いや、自然とお約束に沿ってしまう宿命による悲しき行動というべきか。
しかし、奴が選んだその選択は、我々にとって好機となった。
うん、ちゃんとシステムに適応出来たみたいだ。ここまで来れば後は安心だね。
「まさか、ここで君達と会う日が来るとは夢にも思わなかったよ」
「……えっと……カイザー……さん?」
「うん、私だよ。戦闘中君達に操縦を任せている時はここからこうして見させて貰っているのさ」
「えっとその……色々と伺いたいことがありますが、今は時間がありませんわね」
「そうだね。まずはアイツを倒さなくっちゃね。込み入った話は全部終わった後にゆっくりしよう」
「うっし! 約束だぞ、カイザー!」
「うん、約束するよ!」
「私にはこっちの姿のほうがしっくりくるよ、ルゥ」
「……だから、その話はあとだよ、フィオラ」
「任せておけよ、ルゥ! 今ならアタイも全力であいつをぶん殴れる気がするからな!」
「頼んだよ、ラムレット!」
「では、いくでござるよ、カイザー殿!」
「ああ、任せたよシグレ! よし、ブレイブシャイン! 反撃開始!」
「「「「了解!」」」」
しかしなんとも不思議な感覚だ。なんと例えればよいのだろう? 私の意識内にレニー達が居る、言葉にすればその通りなんだけど……今の私は、コクピット内を俯瞰して見ている状態なんだよね。
操縦されている時以外の私は、なんというか、ちょっと身体が大きいだけの人間と変わらない感覚で動いている。メインカメラから入る映像はそのまま目で見ているような感覚だし、手足のセンサーも優秀で、地面を踏んでいるのがきちんと伝わってきていたし、物を掴めばその感触がきちんとわかるからね。
それもあって、元々人間だった私は、やっぱり誰かに操縦されるという事に慣れきることが出来なかった。自分の意思に反して身体が動くという事に慣れきれなかったんだ。
別にレニーに動かされるのが嫌だというわけじゃ無いよ。むしろ、あの子に動かして貰えるのは本当に嬉しい事なんだ。でも、なんていうのかな、バランスを崩した時、多分私なら咄嗟に右足を前に出しちゃうと思うんだ。けれど、レニーは左足を前に出すように操縦するわけだ。そうなった場合、システムが混乱をして妙な動きをしてしまう恐れがあった。
それが戦闘に悪影響を及ぼすことも考えられたから、何か事情がある時――サポートの必要が生じた場合を除いてOS空間に近い場所から俯瞰するように彼女達を見守り、指示を飛ばしていたんだ。これはオリジナルのカイザーではあり得ない、私独特の妙なしようと言えるね……。
でも、こっちにいれば、あちらとのリンクが切れて誰かが身体を操るような感覚は感じられなくなるんだ。ああ、勿論ルゥになっている時もそれは同じだから、多くの場合はこっちにいるか、ルゥになってるかだったと言うべきか。
通常ならば、私以外は入ることが出来ないこの空間にレニー達、パイロットが来ている。
まばゆい光に包まれたコクピットを見れば、そこにもパイロット達の姿が見えるけど、それと同時に自分の目の前にも勇ましい表情でスクリーンを見つめる彼女達が居るんだ。
なんとも不思議な状況だけど、カイザーはこれまでにないほど滑らかに動けている。
いくら彼女達の練度が上がったとは言え、カイザーという機体は他人の身体に等しいものだ。
『まるで我が身の様に操る』と言う表現があるけれど、それでも『様に』であって『我が身』じゃあないよね。けれど、今の彼女達はこのカイザーという器を我が身として一切の無駄を生じさせない完璧な操縦を実現させている。
なにが『より直感的な操縦を』だ。それ以上じゃないか。
この空間は、外部と時の流れが異なっている。キリン教官の圧縮講習と同じ
そして、それは任意でその速度を変えられる。先ほどはめいっぱい速度を速め、外部時間が停止したのと等しい状態にしていた。だからこそ、ああやってノンビリと会話ができたのだけれども、これは普段なら考えられないことだ。
私やスミレならば、元々AIなのだから、こうしてここに入り込むことが出来るし、は言ってしまえば同じ様にゆっくりと思考することだって出来る。
普段であれば、人間であるレニー達はここに入り込むことが出来ないけれど、ポーラとグランシャイナーの演算装置の協力でこれが実現しているんだ。
現在のレニー達は境界線上に立って戦っている。システムのあちら側と、こちら側、その境界線上に立ち、敵の攻撃を見極め、適切な攻撃を選択している。
今の彼女達の目には、ルクルァシアの触手が酷くゆっくり動いているように見えるだろう。高速で飛翔してきているはずの触手を一つ、また一つと軽々と躱し。
また、巨大なそれを物ともせずに巨大な剣――アニメでは必殺技としてポーラから地上に投下されていた
やっべ、これスクリーンで見たかった! え? 劇場版にもこのフォームは無い? 設定資料で匂わせてるだけの仕様なの? うっわ、まじっすか、なんてこったい、そんな物まで用意してくれ手他の? うわー、最高だよ、神様! もう、興奮して来ちゃうじゃ無いか!
【GhaaaaaaaaaAAA! オノレオノレオノレ! 忌々シキ光ドモメ! AAAAAAAA……! マダ、マダ輝コウトスルノカ! 忌々シイ忌々シイイマイマイマAAAAaaaMaaAAAKuaabiaak!!HiKIII引裂イテITE裂イテ我ガ身我GA身WAGAMIノKaイザGhaaaノノ糧にShGUAaaaAaaaSadmeAHAaayaaaaaak!!!】
……っと、私が我を失いかけていた間にも、カイザーの攻撃はどんどんルクルァシアを追い詰めていく。ダメージを負う毎に奴の口から呪いの言葉が吹き出し、同時にその身体が膨れ上がっていく。自らから生じた負の感情をエネルギーに変換し、その力を増すという、なんとも出鱈目な永久機関のようなことをしているようだけど……どうやらその受け口となる身体の方には限界があるみたいだね。
確かに身体はぐんぐん大きくなっているけれど、放出される魔力量も酷く増加してはいるけれど。その身体のあちらこちらからボロボロと何かがこぼれ落ちては消えていくのが見えていないんだろうか?
このまま行けば、魔石を抜くまでも無く自壊しそうだよ?
一瞬、このまま時間を稼いでいれば勝手に斃れてくれるんじゃないかな? そんな甘い考えが頭をよぎった。
けれど、どうやらそれは不味いみたい。膨大な負のエネルギーを溜め込んで崩壊寸前なのはルクルァシアだけじゃない。黒龍のコアも限界値を迎えようとしているのだから。
膨大なエネルギーを溜め込んだコアが崩壊した時……一体何が起こるんだろう?
そう考えた瞬間、眼の前にそのシミュレーション結果が現れた。流石スミレ先生、仕事が早い。
その瞬間にルクルァシアがどの様な体勢をとっているかで結果が変わるようだけど、良くて我々の消滅、まあまあ悪いのが衛星――私達には月と翻訳されている星への大ダメージ。そして一番最悪のパターンは足元に広がる我らが故郷、蒼き惑星への大ダメージだ。
当然、どの結末も許すわけには行かないね。私達が掴み取る未来は、皆が笑顔で暮らす暖かな未来なんだから。
さあ、時間との勝負になってきたぞ。ルクルァシア、お前が自壊する前に全て終わらせてやるからな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます