第四百八十四話 隠されし力

『詳しく話している暇はないの!』

『こちらからのデータ受信を許可するの』

『っと、音声通信だとルクルァシアが待ちくたびれてしまうね。データ空間で説明をさせてもらおうか』


 フィアールカ達とキリンが俺とスミレに接続し、グランシャイナー、ポーラそれぞれに搭乗しているフィアールカ達から何やらデータが送信されてくる。何やら結構な量のデータだが……む、これは……!


『これは……正気ですか? フィアールカ、キリン。だってグランシャイナーにはクルー達が……』


『今更何を言っているの? クルーたちだって私達と共に戦う仲間なの』

『クルーたちだってこの日のために訓練をしてきたの』


『訓練……? キリン、私はその様な話を一切聞いてないのですが』


『はは、だって言っていないもの。私は兎も角、フィアールカ達の所属はに準ずるんだ。カイザーならその意味がわかるんじゃないかな』


 おいおい! 俺に振るなよ! スミレ先生相手に"ほうれんそう"を怠ることをどれだけ許さないか知らぬキリンではあるまい。


 ……だが、まあキリンが俺に何を言わせたいのかわかる。


『不本意ながら、キリン達の言い分は正しい……と言わざる得ない』

『カイザー?』


『悠長な事も出来んからざっくり言うぞ。ピンチに陥った際、颯爽と駆けつける基地研究部所属の運搬メカ。そこから飛び出す新装備で起死回生! となるわけだが、戦闘員である俺達はその場で初めてそれを見ることになる……これはシャインカイザーでも何度かあったパターンだ』


『……つまり、フィアールカやキリンはそれに習って秘密裏に準備をしていたと……』

『そういうことだな』


『まったく……こんな時にまで様式美に拘る必要はないでしょうに……けれど、これまでの事を考えれば理解が出来ないわけではありません。許します』


『しっかし、まさか最後の最後にこの様な浪漫溢れる秘密兵器が出てくるとはな』


『これを使ってもルクルァシアとの差は結構あるの』

『でも……そろそろあっちの準備も終わりなの。合わせてカイザー達の力になるの』


『『ぜーんぶフィアールカにおまかせなの!』』


『よし……それでは通常空間に移動後パイロット達に事情説明、その後速やかに作戦開始だ!』


『レニー達にはさらなる負担をかけてしまうことになりますが……今よりマシな状況になるでしょうから承認します』

『スミレ、君も大分話がわかるようになってきたじゃ無いか。相棒として嬉しく思うね』『不本意ながら、私も大分貴方に感化されていますからね』

『不本意なんだ……』 


 データ空間内での会議――表の時間にして10秒にも満たない――が終わり、通常空間に復帰した。コクピット内をチェックすると、消耗しきった表情を浮かべるパイロット達が突然入ったフィアールカの通信をきいて驚いて居る所だった。


「君達はまだ何が起きているのか、これから何が起こるのかわからないだろう。なので君達に一番伝わりやすい方法で状況を伝達する――

――みんな、よろこべ! 基地から戦況を打開する秘密兵器が到着したぞ!」


 その一言で、その一言を発した瞬間、全てを察したパイロット達はぱっと表情を明るくする。普通の人間であれば今の一言だけではここまで明るい顔を見せることはないだろう。


 いくら秘密兵器が到着したと言われたとしても、果たしてそれが役に立つのかわからない。何かが来たからと言って確実性が無いのだから、直ぐにそこまで素直に喜ぶことは出来ないだろう。


 しかし。


 我々――シャインカイザーというアニメを見て、そのお約束にすっかり染まりきった人間たちであれば話は別である。あの作品において『基地から届けられる秘密兵器』というのは何時も正しく戦況を有利に変え、勝利に導く鍵となる存在だ。


 そんなお約束を理解している彼女達が俺のセリフを聞いて喜ばないわけがなかった。


「カイザーさん……秘密兵器って……!」

「ここに来てまさかそんなもんが来るとは思わなかったぞ」

「一体どの様なものなのでしょうか?」

「なにがなにやらわかりませんが、この状況を打開できるということだけは信じられるでござる」

「ねえルゥ! もったいぶってないで早く使おうよ!」

「アタイは何が来てももう驚かないぞ!」


 皆が一斉に口を開く。先程まで辛そうな顔をしていたというのに、秘密兵器の効果は抜群だな。かく言う俺も先程までとはうって変わって、非常に心が落ち着いている。


 秘密兵器がどんなものか、わかっているというのもあるが、そうでなくとも、このお約束的な流れはどうも自然と信頼して安心してしまうんだよなあ。


 これがアニメではなく、リアルで起きていることだとしても……だ。

 なぜそこまで信頼できるのか理解らない。わからないが、兎に角気分は最高だ!


「では、最終作戦を実行する! パイロット諸君は事情が飲み込めていないだろうが、俺の指示通り、普段と同じく動けばそれで良い! では、スミレ! フィアールカ! 行くぞ!」


「了解」

『『了解なの』』


「グランシャイナー Limited release! MODE:GODDESS 申請!」


『グランシャイナー MODE:GODDESS 申請を受理、 承認しました。艦内の皆様、これより当機はフォームチェンジを実行します。クルーは速やかに規定通りの行動に移り、各自安全確保に努めて下さい……繰り返します……――』


 MODE:GODDESSが承認され、グランシャイナーにゆっくりと変化が現れる。宇宙に浮かぶ巨大な帆船は帆をたたみ、その形状を変化させていく。


『こちらグランシャイナー、MODE:GODDESS 準備が整いました』


「ああ! ならばゆくぞ、シャインカイザーファイナルフォーム! 頼んだ、スミレ!」

「了解、シャインカイザーファイナルフォーム承認。グランシャイナー、お願いします」

『ファイナルフォーム了解。合体シークエンスに入ります』


 普段の幼い口調とは打って変わり、ナビゲーターのような淡々とした口調で合体シークエンスを進めていくフィアールカ。俺の体はゆっくりとグランシャイナーに向かい、大きく開いたその内側にすっぽりと収まる。


『シャインカイザー格納確認。変形開始……』

「チェック項目No1からNo30まで確認完了……No45からNo89確認完了……No98確認完了……No100確認、確認完了……――」


 やたらと多いチェックリストが凄まじい勢いで埋められていく。チェック項目No287の確認ランプが点るとスミレが小さく頷いて用意が出来たことを伝えた。


 現在、俺の体はグランシャイナーを身にまとっている。その全長は60mを超え、ルクルァシアに迫るサイズになっている。これこそが俺もスミレも知らなかったグランシャイナーの秘密機能なのだが、俺のファイナルフォームはまだ完成していない。


「MODE:GODDESSチェンジ完了! ポーラ、行けるか!?」


『こちらポーラのフィアールカ。輝力充填300%まで完了。ファイナルフォーム申請受理……MODE:GODDESSチェック……OK……ファイナルフォームの条件クリア、承認完了……いくなの、カイザー。ちゃんとわたしを受け止めるのー!』


 ドーナツ型のポーラが真ん中から2つに割れ、こちらに向かって飛翔する。直前までたっぷりと太陽から受け続けていた光を輝力として大量に蓄えていたそれは、白い輝きを周囲に漂わせている。

 

 神々しくも見えるその巨大な輪が俺の背中に届き、最後のパーツが装着された。


「シャインカイザーファイナルフォーム! MODE:AMATERAS!!! 降臨ッ!」

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