第四百八十一話 らしくあれ

 足下から迫り来る凄まじい重圧。


 体内に夥しい量の魔力をその生命力として蓄えているルクルァシアは、圧倒的な破壊力と人類への憎しみを負の力へと転換している。体内に収めきれなくなったそれは周囲に漏れ出していく。その範囲内には言ってしまった者は畏れに飲み込まれ、立っていることすら出来なくなってしまうことだろう。


 普通の人間であれば畏れのあまりに気を失ってしまうか……運が悪ければ発狂してしまうだろうな。あの質量のルクルァシアが地上で暴れていたら、平原に避難している人々に重篤な被害が出てしまったかも知れない。それを考えてもやはり、ここに連れてきて正解だった。


 それに――その重圧は内包しているエネルギーによるモノだけではない。


 その巨体――全高は80mを優に超え、黒龍の面影は残ってはいるものの、その半身にはぬらぬらと蠢く太い触手が無数に生えており、また、体のあちらこちらが絶えず形状を変化させているものだから……ヴィジュアル的に大層堪える存在である。こんなモノが後ろから迫っているんだ、色々な意味でプレッシャーに押しつぶされそうになってしまう。


 元のルクルァシアも結構デカかったが、この半分くらい……いや、もう少し小さかった筈だし、全体的にもう少し某邪神的な物に近い風貌をしていたのだが……黒龍を喰らい、ある意味では帝国すらも喰らったこいつは俺が知るルクルァシアより大分グレードアップしてしまっている。


 数々の戦いをくぐり抜けてきたブレイブシャインのパイロット達でさえ、ウンザリとした表情を浮かべ、若干気持ちが押され気味なのは仕方が無いことだろう。


 何よりあのデカさは非常に怠い。


 合体し、背丈が伸びた俺の全高は16.2。対して奴は80mを超えている。例えるならば、人が生身で巨大ロボに立ち向かう位のサイズ差があるわけだ。


 これまでも大きな魔獣との戦闘を切り抜けてきたが、縦にも横にも大きく、頭部意外は不定形にうごめくルクルァシアは何処から手を付ければ良いのか判断に困る。


 一番わかり易い頭部を狙うのがやりやすいのだが、そう安々と触らせてはくれまいて。


 ま、ゴチャゴチャ考えていても仕方が無い。ここはマシューに習って出たとこ勝負と行こうじゃないか。大まかな流れ……というか、どう立ち回るかについては、もう決めてあるからな。


 となれば、まずはお約束から片付けるか。奴がわざわざ此方の舞台に上がってきてくれたんだ。此方も礼を持って答えてやろう。


「よし、ブースト停止。これより奴と最後の対話……いや、あいつに改めて喧嘩を売るぞ。その後は出たとこ勝負だ! スミレ、フィアールカ、キリン! バックアップは任せたぞ!」


「喧嘩を売るって……カイザー、まるでマシューの様な発言ですね」

「なんだとー! あたいは誰彼構わず喧嘩を売るような馬鹿じゃないぞ!」


『ははは、良いじゃないかスミレくん。物語の最後を〆る戦いは、やはり口撃から始まらなくてはね。それが得意な竜也君が居ないんだ、ここはカイザーに頑張ってもらおうじゃないか』

『やってやれなのカイザー! あいつデカくて生意気なの!』


 スミレは呆れた様な表情を浮かべていたが、何か自分の中で納得がいったのか小さくため息をつき、何故かにっこりと微笑んだ。


「はあ……ま、いいでしょう。確かに言われてみればそうですね。ええ、そうですとも。思う存分煽って差し上げなさい、カイザー」


 恐らく、アニメの最終話付近の流れを思い出していたのだろうな。アニメの世界から召喚された形に近い他の僚機たちとは違い、スミレはこちらの世界で新たなスミレとして生を成した存在だ。


 故にアニメの中で起きた出来事を我が身の記憶として覚えているということはなく、俺から共有された『あちらの世界』でが得た知識と『こちらの世界』で皆で一緒に見たアニメの知識としてシャインカイザーのお話を記録している。


 なので最終決戦前の流れについて、他のAI達と若干の温度差があったのだろうが、俺の記憶やこれまでの思い出を振り返って何か思うところがあったのだろうね。


 さあ、スミレ先生の承諾も出た。改めて奴に挨拶をしてやろうじゃないか。 


『来たかルクルァシア! どうだ? お前を葬り去るにはこれ以上ない素敵な場所だろう?』


『KkkkhaaaaizzzZa...カイザアアアアア!! 貴様モ喰ライ……コノ惑星ホシモ喰ラッテクレルワアァaaAAAaa......!!!!』


『嘆かわしいな、ルクルァシアよ。以前の貴様にはまだ知性というものが感じられたのだが、今の貴様はただ大きいだけの獣……対話するに値しないな』


『OOoooooohhoooonOrE......オノレオノレオノレ……!KkkkhhaaaizzzZaaaaaaAAaaaa!!!!!』


「ルクルァシア左腕部に高エネルギー反応!」

「せっかちな奴め、もうお話をするのに飽きたらしい! フィオラ! ラムレット! アイギス展開!」

 

「「了解! MODE:アイギス!」」


「一同衝撃に備えろ! デカい先制攻撃が来るぞ!」


 両腕を前に突き出し、全身を覆う巨大なシールドを展開する。オレンジ色に輝く多角形の集合体が機体を粗方覆ったタイミングでルクルァシアの左腕が一瞬キラリと光り、俺達を紫色の光が包み込んでいく。


「高濃度魔力由来のエネルギー波到達。なるほど、なかなかの攻撃ですね。これは以後、魔導レーザーと仮称しましょう」


 絶賛敵の攻撃を受けている最中だと言うのに、スミレさんは呑気なものだ。ま、彼女が呑気で居られる内は俺達もある程度安心できる状況だということなんだけどな。


『魔導レーザーか、ルクルァシアも中々面白い攻撃を覚えたものだねえ。しかし、私のアイギスはこの程度の攻撃じゃなんてこと無いのさ』


 キリンが少々ウキウキとした声を出しているが、これは研究者としての彼女が持つ探究心がムクムクと湧き上がっているせいだろうな……。


『データはこちらでも抑えたの。魔力由来の光を使用したレーザーなの? なかなか興味深い攻撃なの! 参考にさせてもらうの!』


 フィアールカからも呑気な通信が届く。全くコイツラときたら、最終決戦中だと言うのに全くしまらないな……。


 ま、これくらいしまらないのが俺達らしい。うん、何時ものことだな!

 竜也達が描いた最終決戦とは若干趣が違うが、俺達は俺達らしくやればいい。だって、これは、俺達が描く新たな物語なのだから。


「魔導レーザー照射終了。ルクルァシア、動きます」

「うむ、ではこちらも行くぞ! 遠慮はいらない、最初から全力でぶちかましてやれ!」


「「「「「はい!」」」」」


 見てろよルクルァシア、出たとこ勝負とは言ったが、決戦の地に大気圏外ここを選んだ理由はまだもう一つ有るんだ。


 奴がそれに気づくまではまだ時間が有るが……戦っていれば直ぐにその時は訪れる。


 輝力の神髄、とくと味あわせてやるぞ!

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