第四百七十九話 帝都上空
皆に手を振り、いってきますと告げた俺達ブレイブシャインは城へ向けて飛行を開始した。
城までの距離はそれほど離れていないため、特に速度を上げずとも5分とかからずに到着する。
避難所から監視をしていた時点でその存在に気づいては居たが、距離が近づくと帝都全体を覆う魔力の霧の禍々しさをより強く感じるな。
もともと帝都は薄っすらとした魔力に包まれていたのだが、それが徐々に濃度を増し、今では人体に悪影響を及ぼすレベルの濃度にまで高まっているのがわかる。
帝都を覆うこの魔力の霧はルクルァシアの魔力炉から余剰分が垂れ流された物であろう。一緒にするのは非常に遺憾では有るが、かつての俺が輝力を垂れ流してしまっていたのと同じ様な状況だ。
俺の場合は不可抗力であったのだが、こいつの場合は恐らくわざとやっている。
ルクルァシアが生み出す眷属――ロボではなく、ぬめぬめした不定形の物――は、魔力を元に生成される。高濃度の魔力を吸着剤として、大気や周辺の組成物を吸収し、あの気持ちが悪い眷属を生み出すのだ。
そのプロセスに鉱物等、機兵の材料に必要なマテリアルを加えて生み出したのがロボ型眷属、そう推測している。
つまり、今の帝都はルクルァシアの産卵床となっていると言っても過言ではない。これだけの魔力があれば奴は何時でも帝都という素材を使用していくらでも眷属を生み出すことが可能だろう。
それを考えてもやはり帝都を戦いの舞台とするのは不味い。
元々、戦闘行為によって帝都がこれ以上のダメージを負うのを防ぐため、戦いの場を移さなくてはいけないと考えていたが、この状況を見ればますますその選択で間違いないと思える。いや、この場での戦闘は避けるべきだと断言する。
俺達が問答無用にこの地で戦闘行為を行ったとしよう。勿論、帝都の建物は巻き込まれ、酷い有様に鳴るだろうが、それ以上に不味いのはこの地に満たされている魔力である。
ルクルァシアの事だ、首尾よく俺達が追い詰めたタイミングで大量の眷属を生み出し、俺達に差し向けることだろう。
そしてそれはシュヴァルツコピーと言う生易しいものではなく、きっと俺達のコピーというふざけた物を呼び出すに違いない。何故ならば、その方が盛り上がるからだ。
奴はきっと空気を読む。空気を読み、一番盛り上がる方法を取ることだろう。
勿論、今の俺達は後継機に変化しているため、元の俺達の、しかも劣化コピー等そう手こずる相手ではないはずだ。しかし、ルクルァシアと同時に、しかも複数の『俺達』を相手取るなれば流石に分が悪い。
つまりは、どうあってもやはり帝都での戦いは避けるべきなのだ。
「うわー、どんどん魔力の霧が濃くなってくね……」
帝都上空に到着すると、その濃さは更に密度を増し、下界の建造物は霧に覆われ肉眼でその様子を捉えるのが難しい状態にまでなっている。
心底嫌そうな声を上げているのはレニーだ。いや、彼女だけではなく、パイロット一同が口々に下界の様子を嫌そうに語っている……。
「その中心にある城……いや、ルクルァシアって言った方が良いか。 とにかくさ、あそこヤッバいな……なあ、カイザー。あたいら、今からあそこに行くんだよなあ?」
マシューが外の様子を見て眉を顰める。
下界はひっそりと静まり返っていて、生命体は愚か眷属達の姿もない。なるほど、随分と多いなと思ったが、ルクルァシアは全ての眷属を前哨戦として俺達のもとに送り出したようだな。
――全ては最終決戦の演出のために。
これまでの事から、ルクルァシアが空気を読んだ行動を取っているのはほぼ間違い無いと思っている。寧ろそうでなければ今後の作戦が全て無に帰すこととなり、非常に不味いことになるのだ。
頼むぜ、ルクルァシア。俺の誘いに乗ってくれよ。
「さて、マシューが言っているように、皆も『彼処に行くのか』と不安になっていることだろうが……安心してくれ、俺達は城には行かないぞ」
「「「「ええ!?」」」」
皆が驚いた声を出しているな。それもそうだろうな、彼女達にはまだちゃんと話していなかったからな。
今回の作戦を完全に把握していたのは俺とスミレ、キリンとフィアールカのみで、パイロット達は『城に行ってルクルァシアを退治する』くらいにしか思っていない。それはそうだ、俺が全て悪いのだ。
なぜ彼女達に話していなかったか、特に理由はない……と言ったら怒られてしまうし、我ながら司令官失格であると思うのだが、ミーティングの時間が上手く取れなかったため、移動中に話せばよかろうと思ってた所で前哨戦だ。
ああ、スミレが『お昼寝の後に話せばよかったのに』という顔でこちらを見ているが、忘れていたのだからしょうがないだろう。
「君達は……シャインカイザーの最終決戦の場を覚えているか?」
「ええ、覚えていますわよ? 参考になりますし、何より素晴らしい戦いでしたので……もう何度見せていただいたことか」
「あれは忘れられないでござるよ」
「あたい達に同じ事は出来るとは言わねーが、あたいらなりに竜也達をこえてやろーって思ってんぞ」
「というか、カイザーさん。あんな凄い戦い、忘れられるわけ無いじゃないですか」
「そうだよルゥ、お姉じゃないけどさ、あんなの忘れる方が難しいよ」
「あんな胸が熱く滾るような戦い……アタイも忘れるもんか」
「ふふ、君達ならそう言ってくれると思っていたさ。というわけでだな、我々も"原作"に習って、決戦場所を移そうと思うんだ」
「「「「ええーー!?」」」」
「ちょ、る、ルゥ? そんな事ができるの? だってあいつ、話しが通じるようには見えないんだけど!」
「以前のやつならそうかもしれんな。だが……今の奴なら、力を取り戻し、我々が知るルクルァシアに限りなく近づいた、いや、それ以上の力を得たルクルァシアなら上手く乗ってくれるかも知れないぞ」
さあ、ルクルァシアは目前だ。どれ、奴と立ち話と洒落込もうじゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます