第四百七十七話 クールタイム
「全く……揃いも揃って輝力を使い果たすとは……呆れてものも言えませんね。特にキリン、貴方というものが居ながら……」
「すまん、2人とも。私ではスミレくんを抑えきれなかったよ」
「キリン? 貴方は本当に節度という物が――」
スミレ大先生がくどくどとキリンのパイロット達にお説教をしている。俺からすれば目立った損傷もなく、パイロット達の怪我もなく勝てたのだから良いではないかと思うのだが、決戦を控えてこの状態はスミレ的にはよろしく無かったようだ。
レニーも結構輝力を消費してはいたが、それでも他のパイロット達よりは大分控えめだ。予めスミレからチクりと警告され、節約するために涙をのんでカイザークローを使わなかったからな。
そんなレニーはコクピットでお昼寝中。先に説教を食らったマシューとシグレも怒られ疲れて同じくお昼寝中。お説教を免れたミシェルもうつらうつらとしているようだ。この流れで行けば、フィオラ達も同じく、この後お昼寝に入ることだろうな。
輝力というのは俺達が稼働するのに何よりも大切な要素だ。大気中に漂う光子を取り込み、輝力に変換する機関が輝力炉で、我々が自立機動する分にはその輝力だけで大体は足りている。
俺が半覚醒した際、輝力炉もまた起動してしまっていたため、輝力が溢れ出してしまった事は苦い記憶だな。
しかし、自然由来の輝力だけでは本来の力を出し切ることが出来ない。人の食事に例えるならば、輝力炉から提供される輝力は成人が1日に必要とするカロリーをまかなえる量の食糧だ。
日常生活ならばそれで十分に足りるし、それ以上摂取すれば逆に肥満に繋がりダイエットに励むハメになるわけだ。
だが、例えば自転車に乗り100kmの道を漕ぐことになったとすればどうだろう。普段の食事量では賄えない量のカロリーを消費することとなり、何も対策をしなければハンガーノック……極度の低血糖状態に陥って満足に動くことができなくなってしまうことだろう。
我々で言えば戦闘行動がそれに当たる。パイロットが居ない状態で戦闘用の出力を出してしまえば、長時間の稼動は少々厳しい。輝力は精製出来るので、少し休めば再び戦闘可能にはなるだろうが、ガス欠です、ちょっと休むねと言って待ってくれる敵など居ないだろう……いや、バトルジャンキーや変に紳士振るやつなら待つか……。
それはそれとして。
そこでパイロットが必要となる。パイロットが内包する輝力は輝力炉から得られる輝力量を大きく超え、我々が戦闘を行うエネルギーソースとして無くてならない存在なのだ。
これだけ言うと、まるでパイロットを行動食の羊羹やカロリー食品の様に扱っているようでアレなのだが、こればかりは事実なのだから仕方がない。
勿論それだけではないぞ。パイロット達の柔軟な思考は、時にAIのシミュレーション結果を大きく上回る。常に効率を求めるAIの解答よりも、泥臭く回りくどいパイロットの行動が勝り、窮地を脱するというケースはこの手のロボットアニメでは最早お約束と言っていいだろう。
スミレも大分人間臭くなってしまっているため、思考がパイロット側になっているのでその限りではないのだが……。
なにより共に過ごし、笑い、戦う仲間としてパイロットは無くてならない存在だ。
と、綺麗にまとめてしまった所で言うのもなんだが、結局の所パイロットに頼る所が多い以上、こうして輝力切れで倒れられてしまうと、どうしようもないのである。
移動だけなら輝力炉で賄うことは勿論可能だが、幹部のお代わりが来ないとも限らない。ここは彼女達の
幹部達との戦闘中、我々を避けるようにして多数の眷属達が避難所を目指して侵攻してしまっているが、グランシャイナーが応援に向かって居るし、あれだけ数を減らしていれば、あちらで待ち構えている頼れる仲間達で十分に撃退可能だろう。
それでも、だ。こうして休憩をしている間に敵機の増援がないとも限らないため、全滅に近いこの状況にスミレさんは絶賛激怒中というわけなのだ。今ここで数百機の増援が現れてしまえば大変だ。パイロット達がグロッキーになっている以上、全力を出し切れない俺達がその相手をする事になる。
数が少なければそれでもなんとかなるだろうが、ルクルァシアは物量で責めてくるからな……正直ヤバい状況なのには変わりない。
「はあ……まあ、私達はキチンと考えて行動しましたからね。レニーも我慢をして輝力を抑えていましたし、何か有れば直ぐに起きて戦うことが出来るでしょう。しかし、本来ならば皆がレニーと同じ様な気配りを……」
「スミレ、どうどう。キリンも反省しているようだしさ、ほら、フィオラ達が起きてしまうから……」
「ぐ……それもそうですね」
というわけで、我々ブレイブシャインは出発早々ではあるが、2時間ほどのお昼寝タイムだ。今の彼女達であれば、それだけあれば十分回復することが出来るだろう。
まあ、いいタイミングだったと思う。現在時刻は11時まで後少しという所。彼女達が目覚めるのは13時を過ぎた頃だろう。腹が減ってはなんとやら。決戦前の昼食に丁度良い時間となる。お昼寝で輝力が全回復出来ていなかったとしても、食事でまかなうことが出来るからな。万全の体勢でルクルァシアに挑めるという物だ。
もしも幹部達が現れなかった場合、そろそろ戦闘が始まっていたころかもしれないな。何も無ければ、きっと俺達はそのまま向かっただろうからな。奴は短期決戦でなんとかなるとは思えないし、昼食を摂ってからゆっくり行けると思えばこれは悪くはなかったのかも知れない。
「……それまでルクルァシアが待ってくれるならそうですけどね」
「君はまた俺の思考を……いや、それなんだが、奴は恐らく空気を読むんだよ」
「空気を、読む」
「ああ、あいつは俺達同様に自由意志を持って好き勝手に暴れてくれてはいるが、あれも一応"俺へのプレゼント”であり、
「神とやらがカイザーを楽しませるために連れてきた、そんな迷惑な理由でしたね」
「うむ。奴はきっと世界征服や人類奴隷化等、分かりやすい悪事を企んで居るのだろうが、それも含めて”空気を読んだ行動”をしているんだと思う。そう、無意識ながら俺の宿敵として、物語の結末に繋がる存在として行動しているんだ。つまり、俺達がこうして休憩をしている準備期間には……――」
「――……攻めて来ない、なるほどカイザーの記憶を借りて言うならば、長い変身バンクを待ってくれる空気が読める敵怪人……というわけですか。納得したくはありませんが、その可能性は高いですね」
「ああ、奴は奴で最高のエンディングを迎えるための舞台装置として、しっかりと仕事をしてくれているのだと思う。だからきっと奴はこのタイミングで仕掛けるという無粋な真似はしないし、その戦いはそれに相応しく激しいものとなるだろうな」
これまでの奴の動きを見れば、空気を読んで行動をしているのではなかろうかと思える節はある。頼むぞルクルァシア、最後まで空気を読んでくれよ。
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