第四百七十五話 地を揺らし地を燃やす蒼き炎と白き炎 

◆SIDE:マシュー◆


「ちいっ! あっちの攻撃は屁でもないが、こっちの攻撃も当たらないな!」

『マシューが先に焦れてはだめでござるよ!』

「~~わかってるってば!」」


 以前戦った相手だし、そん時より大分ケルベロスに馴染んでる。まして、シグレが乗るフェニックスも一緒にいるんだ、2対1だから楽勝だと思ったんだけどなぁ……。


 なんだか前に戦ったときより動きが速い……というか、無茶苦茶な動きでデタラメに動くもんだから当たるものも当たらないときたもんだ。


 フェニックスがひょいひょい飛んでラタニスクの奴を煽ってくれてるおかげで奴の攻撃が良い具合に散ってはくれてるけどさぁ……あたらねーのにはほんとまいったな。


「あーーもう! いい加減イライラしてきたぞ!」

『だから耐えるでござる! マシューはもう少し忍耐力を鍛えたほうが良いですよ』

「あーうん! わかってるんだけど! わかってんだよ! でもさ、こう! 当たらないと! がああ! もー!」


 これでも以前より射撃は上手くなってるつもりなんだよ。それなのに当たらない! なんで当たんないって、明らかに以前戦ったラタニスクより速くて変な動きをしてるんだもの! あんなのどうやって先読みしろって言うんだよ!


 謙一も似たような戦いをしてたけど、もっとこう、上手いことブレスを当ててたよなあ。あれはつえーけど、どうもあたいにはできねえ。でも、フォトンランチャーならあたいでもって思ったけど、だめだなあ、やっぱり謙一みたいにはいかねーか。


 一応、あたいにも機動力を上げる秘策が無いこともない。こっちも速度を上げてやればなんとかなりそうな気はするんだ。けど、アレは時間が限られているし、かわされちまった日にゃあ、蜂の巣にされちゃうのが目に見えてるんだよなあ……。


 もー、ほんとむしゃくしゃするな! レニーだったらとっくに相手に向かってすっ飛んでいってるんじゃないか? カイザーもアレでそういう毛があるからな。スミレなんかも『行きなさいレニー』なんて言っちゃってさあ。あーもう、あたいもそうしちゃおっかなあ? だめかなあ!


 イライラが最大限に高まって、もうやっちまえと思った所で相棒たちがなにやら言い始めた。


「マシューシグレーちょっと聞いて―」

「あいつ~中に誰も乗ってないんだってさ~」


「そりゃあたいだって気づいてたさ。あいつどう見ても眷属だろ? なんか黒いモヤモヤ出てるし、どうせパイロットいねーんだろうって思ってたさ」


「あいつはー中に誰も居ないからーデタラメに動けるんだよー」

「でも~僕らみたいにAIとパイロットが協力して動けないから~」

「「そこが弱点だよ」」


『オルとロスは聡明でござるな。加えて言うのであれば、奴は賢い獣と同じ程度の思考しか出来ないのではないかと推測できます。我々の攻撃に反応こそしていますが、それに知性はあまり感じられない。これで相手が人であれば、まず私をどうにか片付けようとするはずです』


「確かにな。あんだけ速く動けるんだ、まずはちょろちょろうるさいフェニックスを叩き落としてしまおうとか考えるだろうな。いや、あたいならそうするね。フェニックスを落としてしまえばあとは機動力の差でケルベロスが落ちるのは時間の問題だもんな」


 そっか、そうだよな。あたい達にはAI達と協力出来るって強みがあるんだ。あたいが攻撃に集中している間だって、オルやロス、ガア助が分析をしてくれたり、本当に危ない時は緊急回避までしてくれるかんな。

 こいつらにゃスミレ程的確な指示を出すことはできねーけど、そんでもあたいよりよっぽど賢いもんなあ。今だってこうしてあたいを冷静にさせてくれたし、ほんと頼りになる連中だね。


「マシュー、シグレー。スミレからヒントが来たよー」

「ラタニスクは偽物だから~、のことをと勘違いしてるんだって~」


 前の……? ちらりとカイザー達の方を見ると、どうやら1抜けされてしまったようで、生き残った雑魚を潰しながら余裕の顔でコチラを見物してやがる……。


 しかし、前のあたい達と勘違いしている……ね。ケルベロスを顔がひとつ増えたオルトロスくらいにしか思ってねーって事か? いや違うか、犬に変形してねーとそんなのわかんねーしな。うーん? 一体どういうことなんだ?


『マシュー、今の我々は敵が知らない技を使える、そう考えれば良いのでござる』

「奴らが知らない技を使える?」

『どうやらあのラタニスクはカイザー殿の記憶を盗んで作られた物で、奴に搭載されているAIは私達のことをアニメのカイザー同様の存在と思っているようなのです』 

「アニメの……なるほど、そういう事か、そう言うことかあ!」


 あいつは以前のパイロット達の姿を見ている。つまり、謙一や迅が乗るオルトロスとヤタガラスを相手にしているつもりで戦ってるってわけか。


 あいつらは強い。多分、パイロットとしてのセンスじゃあ、今のあたいでも謙一には敵わねーだろうな。


 でも、あたい達はあたい達で今日まで頑張ってきたんだ。あたいが出来ないことを謙一が出来るように、謙一が出来ないことをあたいは出来るようになった。それに、ケルベロスはオルトロスよりずーっと強くなってんだ。


 けれど、あいつはその事を知らない。気づくことが出来ずに決まった行動を、オルトロスとヤタガラスを倒すために効率よい動きをしているに過ぎねーってわけだ。


 そうか、そうだよなあ。あたいは謙一じゃねえ、謙一が出来ねえことをしてやればいいんだ!


 であれば、やることは一つだ! ここはいっちょ派手に決めてやるとするか!


「シグレ、とどめはお前に任せるぞ。アレをどどーんと使ってくれ! あたいが最初に仕掛けるから、後は勝手にそっちで合わせろ! いっくぞおおおお! うおおおおおおお!」


『ちょ、マシュー!? ああもう! 思いついたら即行動する癖は良くないでござるよ! こちらにも準備というものがですね!』


 へへ、わるいなシグレ。身体が勝手に動いてしまったんだから許しておくれ。文句を言いつつ、あたいのい想定した通り動いてくれてるじゃないか。だからあたいはお前が、皆が好きさ!


「ヘルズウウウウウウゥ……フレィイイイイムナッコォオオアアアア!!!」


 この技は拳に纏った輝力を青い炎に変えて相手に叩き込む技なんだが、発動から数秒間の間、機動力がすんげえ上がるっていう特性がある……ってキリンが言ってた。


 欠点として、結構な輝力を持ってかれるから、効果が切れた後に酷いスキが出来てしまう。だから必ず倒せる時に使う必殺技ってわけなのさ。


 だけど、今はそんな事を気にする必要はない。


「うおおおおおるぁああああああああ!!!! すっとべえええええええええ!!!」


 ラタニスクは突然のことに反応しきれてなかったようだね。へへ、みろよケルベロスの拳が深々と腹部に突き刺さったぞ!


 このままぶち抜けるか……って、かってえなこいつ! 何をやりやがったのかわからんが、オルの奴が『こいつおなかに防御を集中させてる~』って言ってるな……だけど、あたいのパンチで倒せねえのは想定内だ。


 寧ろ腹を固くしてくれたのは好都合! あたいの拳から、ケルベロスの拳から伝わる力が逃げること無く伝わっていくんだからね!


 ケルベロスの拳も結構なダメージをもらっちまってるが、ラタニスクの奴はそれ以上だろ。みろよ、ガツンといい具合に打ち上がっていったぞ!


「よっしゃ! いっけえええええ! シグレええええええ!!!」


『マシュウウウウウ!! 避けるでござるよおおお!! フェニィイイックスゥウウウインパクトオォオオオォ!!』


 あたいが打ち上げたラタニスクを再び地に落とすように真っ赤に燃えるフェニックスが上から体当たりをぶちかました!


 って、のんきに見てる場合じゃねえ! このままじゃあたい達も焼かれちまう! 畜生! キリンが居ればアイギスで悠々と護ってもらえるんだけどな!


 何とか逃げる分の輝力は残ってるね……うおおおおお! 


 ――ふう……。大丈夫だよ? ここまで計算してたよ? ほんとだぞ! だからオルもロスも縫いぐるみを動かしてあたいに文句をいうのはやめろよな。


 残りの輝力を全部吐き出してなんとか退避すると、さっきまであたいが居た場所はグツグツと真っ赤に沸騰していて、土なんだかなんなんだかわかんなくなってた。


 やべーやべー、危うく蒸し焼きにされるところだったわ。しっかし、あいかわらずおっかねえ技だな……。


『見たか! リーンバイル忍法、炎翼の神鳥! 拙者の翼は重いでござるよ!』


 トドメを譲ったのちょっと悔しいな……シグレめ、こないだ一緒に考えてた『決め台詞』を早速使ってるし。ちぇー、あたいもかっこいいの考えてたんだけどな……。


『こちらカイザー……二人共、よくやったな……だがな……お前ら……』

『スミレです。マシュー、シグレ。倒せたのは良いでしょう、よくやりました。しかし、決戦を前に輝力を使い切るとは何事ですか。それに、ここは避難所も街も近いんですよ?何かあったらどうするつもりだったんですか? 大体にして貴方がたは……――』


「あーあー! わかった! わかったから! ごめん! ごめんて! お説教は後からたっぷり聞くから! な!」


 怒られちまった……けど、今の気分はなんと言うか……――


『スミレ殿やカイザー殿がおっしゃるのは最もですが……スッキリしましたね、マシュー』

「ああ、そうだな! すっげえスッキリした! 今ならルクルァシアの10や20元気よくぶっ飛ばせそうだ!」


『まったく。貴方がたはもう! はあ……仕方ありませんね、少しの間じっとして輝力回復に努めなさい』


「『はあい』」


 確かにかなり疲れてしまった……。けど、今のあたい達なら30分も休めば元通りだ。キリンがくれた怪しい飲み物もあるからな……あれ不味くはねえんだけど、妙に頭が冴えるから気持ち悪いんだよなあ。原料がなんなのかぜってー教えてくんねーしさ。


 さぁて、ミシェル達もそろそろなにかやらかしそうだね。あたい達も見物しながら一休みと行くかね。

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