第四百七十四話 眷属バラメシオンの弱点とは
バラメシオンにおけるVR版と眷属版の違いはパイロットの有無にある。パイロットの存在が無ければ遠慮なく真の最大出力を持って駆動できるわけだから、その分
ざっくりとオリジナルと比較した数字を出してみれば機動力は1.6倍。中々に嫌な数字だな。勿論これはバラメシオン以外の眷属幹部にも言えることだ。そのためマシュー達も想定外の動きをされ、目を白黒させていることだろう。
とあるロボットアニメに登場した無人機は、やはりパイロットを必要としない分機動力に優れ、迷いのない演算結果から速やかに適切な攻撃を仕掛けてくるものだから、多くのモブ兵士達が落とされていたのを覚えている。
現在戦闘中の眷属バラメシオンは、他の眷属より大分進化をしたAI……? を搭載しているようで、その機動力と相まってこれまで戦ったどの眷属達よりも手強い相手だ。
……が、それでも奴らに搭載されているのは、感情を持たない原始的なAIだ。俺や僚機達とは違い、あくまでもデータを元に状況判断をして行動しているに過ぎない。
そしてパイロット不在を良いことにかなり無茶な挙動をしているが、それはそのうち綻びを生む事になる。パイロット達の存在は純粋な機動力だけで考えれば確かにデメリットとなるかもしれないが、それを払っても貰いきれないほど大量のメリットがあるのだ。中身のないバラメシオン等、あんこが無い鯛焼き……たこの無いたこ焼き……いや止そう。俺にはこの手の才能が無いらしいからな。
「レニー、鬼ごっこはこの辺で終わりにするぞ。特殊兵装を使って勝負に出る」
「はい! ようし、久々の出番だね、一緒に頑張ろう!」
嬉しそうにレニーが声をかけている存在、それは特定の誰か……ではなく。
「カイザァアアアアアガントレット! 着装ッ!!」
……わざわざ専用のセリフまで用意をしていたのか……そう、この戦いの鍵となるのはカイザーガントレットである。
「いっくぞおおおおおおおお!!!」
腕をブンブンと回しながらバラメシオンに向かう。見るからに打撃武器であろうこの見た目だ。バラメシオンもそう判断をして迎撃態勢を取ったようだな。
懐に入れなければどうとでもなる、そう判断をしたであろう敵機AIはミサイルポッドより多数の誘導弾を放つ。いくら飛行ユニットとはいえ、カイザー単機の出力はそう高いものではなく、また、パイロットが搭乗している以上機動力に限界がある。高速で迫る無数の追尾弾を避けようと思えば、攻撃をやめて逃げに徹さなければならないのだが――
「フィアールカ!」
『待ってましたなの! 拡散フォトンビーム発射なの!』
――俺達にはグランシャイナーがついている。フィアールカと常時ネットワークを繋ぎ、ここまでの戦闘データ及び作戦案を送信していたわけだから連携が上手くいかないはずがない。
まさか上から迎撃されるとは思っていなかったのだろう。バラメシオンにスキが生じた。いくら性能を上げたところで、相手は原始的なAIだ。おそらく俺と1対1で戦う事しか考えて居なかったのだろうな。想定とは大きく違ったであろう展開にプログラムが戸惑っているのが目に見えるようだ。
バラメシオン達、幹部型眷属達は、ルクルァシアが俺のデータを盗み出して生み出した存在と仮定していたが、どうやらそれは誤りではなさそうだ。
ルクルァシアが盗み出したデータには『帆船型』のグランシャイナーは存在していない。あの姿は劇場版で改変された物だからだ。奴が俺に侵入した時点ではまだ俺はグランシャイナーはおろか、キリンの存在すら知らなかったのだ、その時点の情報しか見ていないルクルァシアが知らないのは当然のこと。
ここ数日の作戦で帝都上空を悠々と飛んでいたわけなのだから、奴自身は既にグランシャイナーの存在を認識しているかもしれないが、幹部型眷属達のAIを組んだ時点では未だ識らなかった――
――よって、目立って攻撃に加わることなく、上空で待機をしていたグランシャイナーを敵機として認識出来なかった。いや、開幕に思いっきり主砲をぶっ放して居たわけなのだが、どうやらそれは幹部たちに感知されていなかったようだ。
想定外の攻撃を喰らい、次の一手が遅れたバラメシオンに俺の拳が迫る。当然、奴はそれに反応し、即座に間合いから距離を取ろうと下がるのだが、その行動は読んでいた!。
「その一瞬を待っていたぁ! いっけえええええ! ジェットガントレットオオオオオオオ!!!」
久々の武器に気合十分のレニーの声が響く。振り抜かれた拳は間合いの外、もしもこのバラメシオンに感情があったのならば、ほっと一息つくか、馬鹿めと笑ったところであろう。しかし、この拳は飛ぶのである。
そう、アニメに存在しないこの武器は、ルクルァシアがアクセスしたであろう『本来のカイザーが持っていた機体データ』には存在しない物である。
これは元人間である俺がこちらの世界の住人であるリックに依頼をして作らせたオリジナル装備。そしてこの武器に関するデータが何処に格納されていたかといえば、ルクルァシアがついぞアクセスできなかった"俺を構成する"核の部分に隠されていた『思い出フォルダ』だ。
厳重に保管されている『俺の大切な思い出』なのだから、奴らが知るわけがない。
そしてこのガントレットは以前の物より進化している。リックがキリンやフィアールカ、ジンの協力を得てさらなる手を加えたものなのだ。仮に何処からかガントレットのデータが漏れていたとしても、それはそれで奴は慌てることになった事だろう。
改良されたガントレットは以前より大幅に出力が上がっていて、速度、攻撃力共に向上している。何故ここまで出番がなかったかといえば、戦闘時は多くの場合、合体しているわけなので……せっかく作った各機専用武器の出番は残念ながらあまりなかったのだ。
まさかガントレットが飛ぶとは思わなかったバラメシオンは慌てて機体をひねり、すんでのところでそれを躱すのだが……このガントレットは無線ではない。そう、有線なのだ。機体とガントレットは高強度のワイヤーで接続されている。躱してやったと、余裕を浮かべるバラメシオンはそのままワイヤーに絡め取られることとなった。
「捕まえたぞ! 捕まえたぞおおおお!!! うおおおおおお! カイザアアアアア! フル! インパクトォオオオオオオオ!!!」
レニーがまた何か言いながら敵機に向かい飛翔する。伸びたワイヤーを回収しつつ、ぐんぐんと距離を縮め……そのまま本来の拳を叩き込む。
うむ、カイザーフルインパクトとは良く言ったものだが……なんてことはない、勢いを乗せた唯のパンチである。
それでもその威力は恐ろしい物だ。俺の拳を受けたバラメシオンは胸部を潰されコクピットがむき出しになっている。
そしてそのコクピットには……
「レニー! 魔石だ! コクピットにある赤黒い魔石を破壊しろ!」
「おりゃああああああああ!!!!!! カイザァアアア! フィンガァアアアアアア!!!」
ややヒヤヒヤしてしまう、何処かで聞いたような技名を叫びながらコクピットに両手を入れ、そのまま力任せに魔石を握りつぶしてしまった……おかしいな、カイザーってそこまで出力あったかな……気力で輝力を上昇させたとかそういうあれか? 女子高生がパイロットの某超巨大ロボットアニメにもそういう設定があったが、カイザーにも似たような設定があったかな……?
「はあ……はあ……この拳が燃える限り……あたしのハートは熱く滾る……ッ!」
しっかりと決め台詞まで言い切った所で敵機は、眷属バラメシオンは完全に沈黙した。
「レニー、良くやったというか、良くやれたというか、どうやったというか……何れにせよ、大したもんだ! さっすが俺のパイロット! ほんとよくやったな、レニー!!」
「ええ、カイザー以上にこの機体の性能を引き出せるとは凄いですよ、素晴らしいです、レニー!」
「えっへへ……ありがと、カイザーさん、お姉ちゃん。フィアールカも協力ありがとうね!」
『とうぜんなの! えっへんなの! ――どうやら他のみんなも大詰めみたいなの!』
そう言われてカメラを向けてみれば、なるほど彼女達の戦いも佳境を迎えているようだ。先に終わったのだから加勢に向かおうとも思ったがそれは辞めることにしよう。
彼女達とて、既に完成された作戦の元行動をしているわけだ。明らかに不利な状況であれば別だが、現状を見るに俺達が行けば逆に邪魔をしてしまいそうだからな。
「では、我々とグランシャイナーは周囲の哨戒及び、僚機達の戦況チェック……レニーは今のうちに少し休んでおけ。本番はまだこれからだからな」
「はい!」
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